巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
その頃一ノ瀬はとある人物とまさかの再会を果たしていた。
「山神教授?山神教授ですよね?お久しぶりです、一ノ瀬由衣です。」
「まさかここで一ノ瀬さんと再会するとは。ここは凄いよ。絶滅した筈の生き物が数多く生息している。僕はもう教授じゃないけど、日本政府の顔色を伺うこともなく観察も研究も出来るから今は凄く気が楽だよ。わ、パグ犬じゃないか。おう、よしよし。」
大学を追われ行方不明になっていた山神の無事を確認出来て一ノ瀬は安堵している。草むらを転げながらペロと遊ぶ山神の無邪気な姿に一ノ瀬だけでなくチェン姉妹もマリアも微笑んだ。
「リンと山神教授に聞いたけどあの温室は地熱を利用していて、この前夢の島熱帯植物館で見た珍しい植物もいっぱい植えられているんだって。由衣ちゃん、後で一緒に見に行こうよ。」
微笑みながらリンが指し示した先には巨大な温室がある。夢の島熱帯植物館自体は羽田空港でゴジラが熱波を拡散した際に消し飛んだが、こちらに同じ熱帯植物があるので一安心だ。夢の島自体海を埋め立てた際に魚や蟹等そこで暮らしていた数多くの生物の生命を犠牲にしているのを踏まえると、ゴジラの熱波で更地と化したのはある種の因果かもしれない。
「あの温室の中の植物の豊富さには初めて見た僕も度肝抜かれたよ。ギネスブックにも載っている世界最大の花、ショクダイオオコンニャクもあってもうすぐ開花だ。でもあれ物凄い悪臭放つからあんまり近くで見ない方がいいかも。」
山神の言う通りショクダイオオコンニャクは世界最大の花で直径 1.5m、全高 3.5m に達した記録もある。花が巨大だけに発芽から開花まで数年必要で、開花の翌日には枯れ始めるため咲いた状態の花を見るのがとても難しい。なおショクダイオオコンニャクの花が悪臭を放つのは死肉を食べるシデムシ等をおびき寄せ受粉に利用するためである。
こう書くと「世界最大の花はラフレシアじゃないの?」と疑問を感じる人もいるだろう。実はそれも間違ってはいない。というのもショクダイオオコンニャクは小さな花の集合体であり、花単体の大きさはラフレシアどころかアサガオを遥かに下回る。花全体ならショクダイオオコンニャクが世界最大、花単体ならラフレシアが世界最大である。なおどちらもインドネシアのスマトラ島に分布する。
「ありがとうございます。ショクダイオオコンニャク、図鑑でしか見たこと無いんで一度実物を見たいと思っていたんですよ。じゃあアイちゃん、早速行こっか。開花直前のショクダイオオコンニャクも見応えあるよ。」
突然一ノ瀬達の頭上に銀色の円盤が飛来した。この所謂アダムスキー型円盤の機体は損傷だらけで、今にも墜落しそうだ。黒い煙を上げながら一ノ瀬達に衝突しないようゆっくりと着地した円盤から大勢の人達が降りてきた。その中には一ノ瀬と共に共同提訴を行った女性達もいれば、韓国料理店「オモニの家」を切り盛りする盧敍奫(ノ・ソユン)ら新大久保のコリアンタウンの人達もいる。
「え、うそ?工藤さん、あそこ見て!一ノ瀬さんや!一ノ瀬さんおるで!」
「あ、本当だ!一ノ瀬さん、お久しぶりです。この円盤に乗せられてどこに連れて行かれるのか正直不安でしたが、一ノ瀬さんと再会出来て一安心です。あ、貴方はアイリーン・チェ、え?え?」
1 年ぶりに一ノ瀬と再会出来た鈴木と工藤は嬉しそうだ。アイリーンが双子であることを知らなかった工藤は一瞬困惑したが、リンが
アイリーンの双子の妹だと自己紹介し早くも親友になれそうな雰囲気である。
「もっと大勢の人達をここに迎えられると思ったのに!」
円盤を操縦していたアンナ・ガブリエルは無念の思いを隠せない。アンナは帝国再興反対派の金星人達の中心人物で、全員クローンであるエレボス在住の金星人達と違い地球人と金星人の間に生まれた子の末裔だ。
金星帝国再興に反対し地球人との共存を訴えた金星人は全員エレボスから追放されていて、アンナの先祖もその中の1人である。そんなアンナにリンが話しかけた。
「アンナさんお疲れ様です。ここまで壊れた機体でこれだけ沢山の人達を救い出せたのでしたらもう十分ですよ。悪いのはこの機体を攻撃してアンナさんの救出活動を妨害した連中であって、アンナさんは何一つ悪くありません。」
リンの気遣いを嬉しく思うアンナだが、同時にやりきれない思いもある。キングギドラとゴジラが激突する前に新大久保から脱出したコリアンタウンの人達は、高尾山まで逃れたところをアンナが操縦する円盤に救出された。だが空自の F-15J 戦闘機がその円盤を執拗に攻撃し損傷させたのだ。在日コリアンを迫害する気満々な外道自衛隊からすれば救出を行う円盤は目障りなのである。
「日本人からの迫害を恐れ避難したコリアンの人達の救出を妨害とかどこまでも自衛隊は卑劣!本当に腐ってる!」
アンナから事情を聴いた一ノ瀬は自衛隊への憤りを隠せない。
この時初めて父である天皇の末路を知った一ノ瀬だが全く悲しみを感じない。天皇は母桐子を捨て税金で贅沢三昧し反対派を右翼と警察に叩いてもらえる特権を最期まで捨てなかった最低な男なのだから当然だ。天皇の血統と姻戚関係になる下心だけで結婚を迫ってきた矢口の末路も今の一ノ瀬の関心事項ではない。
「そんなことよりもアンナさんにお渡ししておきたいものがあります。私にはさっぱりわからないデータなんです。」
一ノ瀬がアンナに手渡したのは USB メモリーである。早速一ノ瀬から預かったデータを調べたアンナは驚愕した。
「これ帝国再興派の連中の衛星に侵入するコードですよ!こんなものを一体どこで手に入れたのですか?」
「アラン・ジョナと仰る方から手渡されました。日本政府の背後に金星人がいることに早くから気付いていた方です。」
かつてペンタゴンのコンピューターにハッキングをかけホシェルと画面越しに会話した際に、ジョナは見慣れない信号をいくつか捉えていた。
だが地球人のコンピューターではその信号は解析不可能なため、捉えた信号の情報をそのままUSBメモリーに保存していたのである。そして一ノ瀬とアイリーンに会った際に 2 人に一縷の望みを懸け、USB メモリーを手渡したのだ。
「これであの連中が打ち上げた衛星の映像を観ることが出来そうです。これを入手するとか本当に凄い方ですね。」
「法や秩序に縛られていない方です。世間では凶悪犯扱いされていますが、由衣ちゃんと私を助けてくれた命の恩人なんです。」
ジョナの凄腕に感嘆したアンナにアイリーンも相槌を打つ。するとマリアが機内に入ってきた。
「皆さん、モスラが飛び立とうとしています。」
飛翔を開始したモスラを機内から出てきた一ノ瀬、アンナ、マリア、チェン姉妹が眺めている。チェン姉妹はモスラを見送るため太古の歌を歌う。
「モスラヤ モスラ ドゥンガン カサクヤン インドゥムウ ルスト ウィラードア ハンバ ハンバムヤン ランダ バンウンラダン トゥンジュカンラー カサクヤーンム」
山神と戯れていたペロが突然空に向け「わん」と一言発した。ペロの両目に映っているのは勿論モスラの姿だ。