巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#8

大破した巨大円盤が金星の地表に墜落し、金星人達が歓声を上げた。巨大円盤とは比べ物にならない大きさの母船の逃走を映像で眺める宰相ヨヴェル・マスティマは得意げな表情だ。

この時逃走したエイリアン達はこの後 10000 年もの間侵略を止める機会がいくらでもあった筈なのに侵略を止めず、前述の通りキングギドラの中央の首の罠に引っ掛かり滅ぼされたのだから救いようが無い。

「ルクス陛下、我々の大勝利です!あのエイリアン共を撃退しました。巨大円盤が主砲を撃つ瞬間だけ機体を覆うシールドに穴が開くのを発見された陛下のご慧眼が金星をエイリアンの魔の手から救いました!他の諸侯達が皆諦めていた中最後まで諦めず突破口を開いたルクス陛下はやはり金星帝国の皇帝に相応しいお方です。では中断されていた即位式を再開しましょう。」

 

宰相ヨヴェルの賛辞に頷く皇帝ホシェル・ルクスだが、エイリアンより遥かに恐ろしい存在が金星に現れるのではないかと一抹の不安を拭えずにいる。とはいえ皇帝ホシェルにとっては即位式の再開が第一なので、すぐにその不安を心の奥底にしまった。

 

皇帝ホシェルの宮殿でエイリアン襲来により中断されていた即位式が再開されたのは、エイリアン撃退から数日後のことである。

 

「我ら金星人は全宇宙に君臨する使命を背負った偉大なる種族だ。バラバラだった国々を統一しエイリアンの侵略から金星を救ったこのホシェル・ルクスが、今ここに金星帝国初代皇帝として即位することを宣言する。我々の戦いは終わってなどいない。むしろこれからが本番だ。他の星を併合するための戦いは金星の地表における戦いとはわけが違う。諸君、心して次なる戦いに備えよ。」

 

最初は皇帝ホシェルを若輩者と侮っていた諸侯達だが、エイリアン撃退時の見事な采配を見て今では全員ひれ伏している。

10000 年前の金星では反重力装置、プラズマ原子炉等現在の地球の技術でもまず開発出来ないものを実用化出来るほど高度な文明が栄えていた。だがその発達し過ぎた文明は金星の自然環境を滅茶苦茶にした元凶に他ならない。大気中のほぼ全ての酸素が二酸化炭素と化し硫酸の雲が発生する等当時の金星は凄まじい勢いで死の星と化しつつあったのだ。

 

即位式を終えた皇帝ホシェルは参謀本部に向かった。無論宰相ヨヴェルも同行している。

 

「ルクス陛下、この地球という星はいかがでしょう?酸素も水も豊富で暮らしやすい星です。先発隊の調査によりますと、一部の地球人は高度な遺伝子工学技術を持ち我々同様に反重力装置を実用化しているとのことです。その文明を制すれば金星帝国の更なる強大化に繋がります。電子計算機崇拝連中もいずれ地球を狙うのは明白ですのでその前に我々が制圧しておくべきかと。」

 

前述の通りアトランティス文明は生態系に悪影響を与える人造怪物や人造怪鳥を生み出し、程なくしてキングギドラに滅ぼされる運命だが、宰相ヨヴェルが明言しているように金星帝国が地球制圧を企てた理由の 1 つがこの邪悪な文明を制し高度な遺伝子工学技術を奪うことにある。

ところでエイリアン達が金星に襲来したのも金星帝国の高度な科学技術を奪うためなのだが。

 

「もっともだ。あやつらも我々と同じ金星人だから考えることは同じだろう。いずれにせよ今の金星は酸素も水も乏しく、あと4年もすれば食料となる動植物も絶滅しいずれ皆が死に絶える。その前に何としても地球を制圧し我らの新天地とせねばならぬ。先発隊に地球制圧の拠点の建造を急ぐよう命じよ。エイリアン共の侵攻で大打撃を受けた我々の軍備の立て直しも急務だ。」

見ての通り皇帝ホシェルや宰相ヨヴェルをはじめとする金星帝国の面々は自分達の自然破壊を全く反省しておらず、あまつさえ他の星への侵略を企てている。金星に襲来してきたエイリアン達と何が違うというのだろうか。

 

エイリアン襲来から 2 年後、今度は金星に巨神キングギドラが飛来した。この 2 年で軍備をエイリアン襲来前の状態まで回復させいよいよ地球侵攻を開始しようとしていた金星帝国だが、その前に巨神が裁きを下す日が来たのである。

キングギドラの右の首は星全体に充満する金星人達の邪念に敵意を示し、左の首は枯れた森や白骨と化した動物達を悲しそうな目で眺めている。

この 2 年でとうとう金星人以外の動植物が絶滅した金星は文字通り死の星と化していたのだ。中央の首は金星の成層圏を覆う硫酸の雲を利用し金星の文明を滅ぼすことにした。みるみるうちにキングギドラの周囲を巨大な積乱雲が覆う。

 

「大変です、マスティマ閣下!硫酸の雨が降り次々と街が、人々が溶けています!」

 

「あり得ない!硫酸の雲は高度50km に位置し地表に届く前に分解される筈だ!」

 

「突然3 つの首を持つ龍が現れまして、そいつが硫酸の雲を操っているようなのですよ。」

「だったらさっさとその暴悪龍を始末しろ!エイリアンの時だって撃退しただろ!」

 

「既に軍を動かし龍の殲滅に全力を注いでいるのですが、その、余りにも龍が強くて。」

 

側近のたどたどしい報告に宰相ヨヴェルは苛立つが、実際軍はキングギドラの殲滅のため出動していたもののある者は引力光線の餌食に、ある者はキングギドラに踏み潰され、ある者は硫酸の雨で溶けとことごとくやられる一方だ。

金星人の光線銃や光線砲はキングギドラにまるで効果が無い。しかもキングギドラは硫酸の雨を多量に浴びても全く溶けることなく平然としている。

 

「ええい!エイリアン共のシールド発生装置の解析さえ完了していれば鉄壁の防御網を構築出来たのに!」

 

「司令官!既に我が軍は壊滅状態です!一旦撤収し態勢を立て直しましょう!」

直後にキングギドラが操る雷が直撃し、態勢の立て直しどころか撤収も出来ないまま守備隊は塵と化す。次々と参謀本部に飛び込んでくる自軍の壊滅の報告で 2 年前に感じた一抹の不安が現実になったことを思い知らされた皇帝ホシェルは、最期を悟り銀色の球体を宇宙に打ち上げた。

その球体こそ自身のクローンである赤子を冷凍睡眠状態で乗せた脱出カプセルに他ならない。

 

 

「たった今我がクローンを打ち上げた。そなた達は急いで地球に行き帝国再興の準備をせよ。」

 

「では陛下も私達と一緒に地球へ!既に我々の地球の拠点、深海都市エレボスは完成しております!」

 

「ならぬ。暴悪龍の狙いは間違いなく私だ。であれば私はここに残り帝国と運命を共にするまで。ヨヴェルよ、この帝冠には電子化された我が記憶が封印されておる。大切なもの故そなたに託す。必ず生き残り我がクローンを迎え帝国を再興せよ。わかったな。」

 

宰相ヨヴェルら側近達が地球に向かうのを見送った皇帝ホシェルは 1 人で玉座に座る。

すると屋根を突き破りキングギドラの各首が宮殿に乱入してきた。屋根が破壊されたことで硫酸の雨が宮殿内にも降り注ぎ皇帝ホシェルの顔がただれ始めたが、この若き皇帝は微笑んでいる。殺気立つキングギドラの右の首の鼻息が顔にかかっても皇帝ホシェルは顔色一つ変えない。

 

「暴悪龍よ、これで勝ったと思うな。たとえ何千年、何万年経とうと我が帝国は必ず蘇り、貴様を滅ぼす。」

 

一旦宮殿から少し離れたキングギドラの各首が、直後に一斉に引力光線を吐き皇帝ホシェルを宮殿もろとも葬った。

 

金星の自然環境を破壊し尽くした金星帝国がその環境破壊により発生した硫酸の雲を操るキングギドラにより滅亡、因果応報を絵に描いたような顛末である。短時間で金星帝国を滅ぼしたキングギドラは残党を捜索するため地球に向けて飛翔を開始した。

 

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