巨神聖戦記 作:芹沢亀吉
ホテル椿山荘の庭園に着地したメカゴジラから金星人達が宇宙服姿で降りてきた。通路の舗装があちこち破損していて土が露出し先程までの暴風雨で足元がぬかるんでいるが、地球制圧の目途が立った金星人達は皆晴れ間が戻った空と同じ表情だ。
「ルクス様、夢を見ているような気分です。我々金星人はあの暴悪龍を消滅させたのですよ。正直まだ実感が湧いてきません。あの最終兵器、時空砲の開発と実用化には本当に苦労しました。何世代もかけ何度も失敗を繰り返し、ようやくメカゴジラへの実装にこぎつけたのです。こんなに早く実戦で使うとは思いませんでしたが。」
「まだ倒した実感が湧かないのはそれくらい暴悪龍が恐ろしい存在だったということだよ。だがそんな恐ろしい存在に我々金星人は打ち勝ったんだ。正直暴悪龍に関しては思い出したくもないおぞましさがあるのだが、考えようによっては時空砲を製造開発したヨヴェル達の血の滲むような努力に一刻も早く報いるためわざわざ地球に来てくれたとも言えるかもしれない。」
金星人の中にはホシェルの言葉に感激し涙する者もいる。実のところ昨年ホシェル達が 3 機で官邸を訪れた時点ではまだ時空砲は完成しておらず、時空砲実装を後回しにしてメカゴジラでゴジラを打倒し地球制圧を進める声もあったのだが、ホシェルは時空砲の実装に強く拘っていたのである。
「もし時空砲抜きでメカゴジラを出撃させていたら、暴悪龍を倒せず詰んでいたのは明白です。改めてルクス様の先見の明に感服致しました。このヨヴェル・マスティマ、今後もルクス様の僕として地球制圧及び金星帝国再興に邁進する所存です。」
エイリアンより遥かに恐ろしい存在が金星に現れるのではないかという不安、即ち金星へのキングギドラ襲来の予感が2年前からあった皇帝ホシェル同様に、ホシェルもいずれキングギドラが地球に来るのではという不安を心の奥底に抱えていた。そのためヨヴェル達に時空砲実装を優先させ万一に備えることにしたのだ。
「ヨヴェル、今後もよろしく頼む。実を言うとこんなにも早く暴悪龍が地球に来るとは思っていなかったが、備えあれば憂い無しとはよく言ったものだ。オキシジェン・デストロイヤーが全く効かなかった暴悪龍に本当に時空砲が通用するのかと不安になったこともあったが、杞憂だったな。」
前述の通りキングギドラは引力光線を撃ち込むことで宇宙空間に生じた時空の歪みを消し去ることが出来る。そんなキングギドラでも流石に時空の穴を消し去ることは出来なかったのである。
「ゴホッ、貴方達の、お、お陰で、ち、地球は救われました。」
キングギドラ消滅に浮かれる金星人達に声をかけたのは乃木大(のぎまさる)1 等空曹だ。乃木はアンナの円盤を執拗に攻撃した外道自衛官の1人で、キングギドラ殲滅作戦に参加するも操縦していたF-15Jを撃墜された際に全身に深手を負い、今は瓦礫の上で向けになっている。乃木の両脚は焼け焦げていて歩くことは勿論起き上がることも出来そうに無い。
「さっきので、ちょ、朝鮮半島も、しょ、消滅させてくれませんか?ちょ、朝鮮人は、そっ、存在する価値の無い、みっ、民族です。」
ヨヴェルは瀕死状態で同じ地球人の大量虐殺を依頼してきた人間のクズに呆れ果て、こう吐き捨てた。
「我々金星人は今から地球を制圧し金星帝国を再興する。地球人共は皆我々金星人の奴隷になるから日本人とか朝鮮人とかそんなものは最早関係無い。もっとも貴様は奴隷になった地球人共を冥界で見物することになるだろうがな。我々金星人が地球を制圧出来るのは我々を救世主と勘違いしあの暴悪龍を足止めしてくれた貴様ら自衛隊の浅はかさのお陰だよ。謹んで礼を言う。」
直後に息絶えた乃木の表情は恐怖と絶望で歪んでいる。ヨヴェルがニヤニヤ笑いながら絶命した人間のクズの顔面をグリグリ踏みつけるのは、丁度煙草の吸殻をグリグリ踏みつけるのと同じ感覚だ。
「地球人が同じ地球人を見下し我々金星人に消滅を依頼など愚劣にも程があります。こんな愚劣な種族に文明など不要です。やはり地球人は我々の奴隷になるべき存在な、え?ルクス様?ルクス様!?」
突然ホシェルが卒倒し、ヨヴェルの顔からニヤニヤ笑いが消えた。