巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#4

そのバミューダ海域の深海ではエレボスが轟音を上げ周囲を覆う岩盤を取り払い、そのまま海面に浮上した。

ジョナが見た画像はこの海域で金星人が行っていた時空砲発射実験のもので、その実験の影響で船や飛行機が度々行方不明になっている。わざわざ深海からエレボスを浮上させたのは、ホシェルのベルトの分も含め瞬間移動装置が故障したメカゴジラを着地させるためだ。

 

「聞いたか?ルクス陛下があの暴悪龍を打倒されたそうだ。」

 

「勿論聞いたよ。あの恐ろしい暴悪龍が地球に来たと聞いた時は生きた心地がしなかったが、流石ルクス陛下だ。これでこの地球は俺達金星人の物だ。ルクス陛下の凱旋が待ち遠しいよ。」

 

エレボス浮上に伴い外に出てきた金星人達は地球制圧及び金星帝国再興に目途が立ったことに色めき立っていて、空自によるワシントン D.C.陥落に歓喜した大多数の日本国民がその空爆による犠牲者には目もくれなかったように、これから地球制圧でどれだけの生命が失われるのかについては何一つ関心を示さない。

 

 

エレボスを目指し飛行するメカゴジラの機内でホシェルは夢を見ていた。

ホシェルがまだパウルだった頃の夢で、小さな十字架を 立てた墓の前でパウルが号泣し、マリアが付き添っている。

 

「お母さん、あんなに手当てしたのに結局鳩は助からなかったよ。僕は鳩を助けたかったのに、結局助けられなかったよ。」

 

パウルが号泣して赤くなった両目でマリアを見つめると、マリアは優しく微笑んだ。

 

「鳩さんのためにそこまで真剣に泣けるって凄く素敵。それは命を慈しむ心。大抵の人は大人になるとずるくなってそうした純真さを小馬鹿にするようになるけどパウルは違うね。誰か酷い人に矢で射られて道端で苦しんでいたこの鳩さんは、最後の最後までパウルに大切にしてもらって幸せな最期を迎え天に召されたんだよ。その命を慈しむ心、これからも大切にしてくれたら嬉しいな。」

 

するとパウルは真剣な表情でマリアにこう言った。

 

「僕は今大学で海洋生物学を学んでいる。この地球の生命の源、海について詳しく知りたいからだ。お母さんはO型で僕はAB型だから血の繋がりが無いことは知っているよ。でも血の繋がりなんか関係無い。今まで僕のお母さんはずっと貴方だったしこれからもずっとそうだ。そのお母さんに僕は誓うよ。これからも海について学び、命を慈しむ心を大切にするって。」

パウルの純真さと真摯さに心打たれ、今度はマリアの両目に涙が溢れている。

途端に夢の映像が金星の宮殿内部に切り替わり、ホシェルの周囲で諸侯達がひれ伏している。突然ホシェルは激しい自己嫌悪に襲われた。自分自身が皇帝であること、即ち人々を階層化し抑圧する構造の頂点に立っていることに良心が耐えられないのだ。

 

「即位式は中止だ。僕は外を歩きたい。」

諸侯や側近達を放置し 1 人で宮殿の外に飛び出したホシェルを荒れ果てた世界が出迎えた。枯れた森、白骨と化した動物達、金星人による自然破壊で数多くの生命が奪われた現実に直面し、ホシェルの両目から溢れ出す涙が止まらない。

「これが、これが金星人の、金星帝国のやったこと。自分達のエゴで金星の自然を破壊し尽くし、結局自分達も住めない死の星にしてしまった。お、恐ろしい。」

今度は映像が参謀本部に切り替わり、宰相ヨヴェルをはじめとする金星帝国の上層部が自然豊かな惑星、地球を侵略する計画について話し合っている。その侵略計画の中心人物は金星帝国皇帝であるホシェル自身だ。ホシェルは納得した。自分達の自然破壊を全く反省せず他の星の侵略まで企てているから金星帝国はキングギドラに滅ぼされたのだと。

「あの三頭龍は暴悪龍なんかじゃない。本当に暴悪なのは金星の自然を破壊し尽くし他の星を侵略しようとするこの金星帝国だ。」

 

途端にホシェルは目を覚ました。あまりにも酷い頭痛で意識を失ったホシェルだが、今はもう全く痛みを感じない。座席に座る自分にヨヴェルが毛布をかけてくれていた。そのヨヴェルはホシェルが目覚めたことに気付き嬉しそうだ。

「ルクス様!お目覚めになられましたか!エレボスに到着しメカゴジラの機体の放射能除染も完了しました!さあ降りましょう!」

 

ヨヴェルに先導されながらホシェルがメカゴジラから降りると、全員男性であるエレボスの住民達が総出で出迎えた。アンナの先祖がそうであるように 10000 年前地球に亡命した金星人には女性も大勢いたのだが、金星帝国再興に反対する人達が皆追放されエレボスは男性ばかりが暮らす都市となったのだ。そのためエレボスの住民達は世代交代をクローンで行ってきた。

「ルクス陛下、マスティマ閣下、よくぞご無事で戻られました!いよいよ地球制圧ですね!あの日の出も我々を祝福しております!」

 

「あの恐ろしい暴悪龍に立ち向かい見事に打ち倒したルクス陛下とマスティマ閣下の武勇は永遠に語り継がれるべきです!」

 

「皆さんありがとう!見ての通りルクス様も皆さんの歓迎をたいそうお喜びだ!」

 

だがもう地球を制圧した気になり舞い上がっているエレボスの住民達やヨヴェル達側近と違い、ホシェルは憂鬱な表情だ。

 

「ルクス様、皆に向け何か一言お願いします!金星帝国皇帝として皆の魂を揺さぶるお言葉を期待しております!」

 

ヨヴェルがホシェルに発言を求めると、周囲の人々もホシェルの発言を邪魔しないよう一斉に口を閉じる。すると先程目を覚まして以来ずっと黙り込んでいたホシェルが口を開いた。

 

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