巨神聖戦記   作:芹沢亀吉

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#5

「もう止めよう。地球の制圧も金星帝国再興も全て止めよう。」

 

途端に周囲の空気が凍りつき、ヨヴェルが色をなして叫んだ。

「これから地球制圧を開始するという時に何てことを仰るのですか!暴悪龍を滅したことでお気持ちが上向きになりご冗談を述べたくなるご心中はお察し致しますが、たとえご冗談でも仰っていいことと悪いことがございます!」

 

ホシェルは間髪入れずに反論した。

「僕は地球の制圧も金星帝国再興も全て止めようと本気で言ったんだ。ヨヴェル、以前君は金星帝国が滅んでから 10000 年あったのだからその間に自分達で地球制圧を進め君が皇帝になり帝国を再興することも出来たのではないかという僕の問いに対し、我がクローンを迎え帝国を再興せよという皇帝の命令を 10000 年間守り続けてきたと答えたよね。つまり皇帝の命令は絶対ということだ。」

 

途端にヨヴェルが舌打ちしたのは目の前のホシェルがパウルの人格に戻っていることに気付いたからだ。パウルは話を続ける。

 

「そして僕は皇帝だから地球の制圧も金星帝国再興も全て止めようという僕の命令には皆が従わなければならない。帝国再興で地球の自然が金星同様に破壊し尽くされるのは目に見えている。そんなの絶対駄目だ。だからもう一度言う、地球の制圧も金星帝国再興も全て止めよう。帝国再興の取り止めと同時に皇帝の地位も権限も全て消滅するから、これが金星帝国皇帝の最後の命令だ。」

 

誕生直後に先祖の記憶を移植されたヨヴェル達と違い、ホシェルは地球で育ちパウルの人格が完成した後になって皇帝の記憶を移植された身だ。そしてホシェルがメカゴジラ搭乗時に引力光線から拡散された電磁波を浴びたことで、移植された記憶に基づく後付けの人格は頭痛を伴いながら徐々に消滅していった。

無論一度消滅した後付けの人格はもう二度と復活しない。

 

「冗談じゃない!馬鹿も休み休み言え!貴様が冷凍睡眠状態で宇宙を放浪しているに間にも、貴様が地球人に育てられてのうのうと暮らしている間にも我々は帝国再興のため血の滲む努力を重ねてきたんだ!私は宰相として金星帝国が復活する日を心待ちにしてきたんだ!今更止めろと言われても聞けるものか!」

「ヨヴェル、もうこれ以上罪を重ねるのは止めよう。今ならまだ間に合う。僕の命令1つで侵略も環境破壊も止められる。メカゴジラを破棄し今まで通り海底で静かに暮らそう。お願いだから僕の頼みを聞いて欲しい。金星帝国皇帝の最後の命令に従って欲しい。」

 

皇帝の命令に背く者は反逆罪で処刑と金星帝国の法で定められてはいるものの、今のパウルにヨヴェルを処刑する気など毛頭無い。説得すればヨヴェルに必ず思いが通じると信じているパウルは、マリアと共に暮らしていた頃同様にとても純真である。

 

 

その頃アンナはジョナのコードを使い帝国再興派の金星人達が打ち上げた衛星のハッキングに成功していた。

 

「マリアさん、貴方の息子さんが元に戻ったようですよ。こちらの映像をご覧下さい。」

 

アンナから帝国再興反対を口にしたパウルの映像を見せてもらったマリアは安堵し、チェン姉妹や一ノ瀬も喜んだ。

 

「確かにパウルが地球の制圧を止めようと言ってます。やっぱりあの子の純真さは昔のままなんですよ。」

 

「マリア先生、やっぱり息子さんは生きていたんですね。本当に良かったです。」

 

「私はパウルさんの論文と出会い生物学者になりました。彼の海洋生物学に関するお話を一度ゆっくり聞きたいです。」

 

アンナ達が眺める画面は、海面に浮上したエレボスの様子を音声付きで詳細に伝えている。そして現在プエルトリコにいる全も、無人航空機RQ-4 グローバルホークでバミューダ海域一帯を偵察しエレボスを発見したところだ。

 

「こちら全重根。バミューダ海域で金星人の拠点が海面に浮上し、例のゴジラの模造品も着地しています。今から映像を送ります。」

 

「こちらアラン・ジョナ。受信の準備は出来ている。早速映像を送ってもらおうか。」

 

ジョナ一行が眺める画面に海上のエレボスが大映しになり、着地しているメカゴジラも目視出来る。

ジョナがメカゴジラの傍らの群衆に焦点を当てて映像を拡大すると、パウルを指差しながら大笑いしているヨヴェルがいた。

 

「フッ、フフッ、フハハハハ!何が金星帝国皇帝の最後の命令だ!笑わせるな!貴様は自分の置かれている状況を何一つわかっていない!本当におめでたいお方だよ!こんなに笑わせてもらったのは人生初だ!笑い過ぎて腹が痛い!」

 

ヨヴェルの唐突過ぎる大笑いにパウルは戸惑いを隠せない。

 

「ヨヴェル、金星帝国皇帝である僕に発言を求めたのは君だ。だから僕は金星帝国皇帝として最後の命令を下したんだよ。」

 

「我々は皆貴様ではなくルクス陛下に仕える身だ。だから貴様の最後の命令とやらには誰一人従わんよ。」

 

ヨヴェルの発言の意味が分からず困惑の色を強めるパウルの前に、群衆の中から 1 人の少年が進み出る。

「私は貴方の毛髪から作られたクローン 2 号で顔も少年時代の貴方と同一です。今から私が金星帝国皇帝ホシェル・ルクスです。」

目の前に立つホシェルを名乗る少年に驚いたパウルは、このクローン 2 号が誰の手で生み出されたのかを瞬時に悟った。

 

「ヨヴェル、メカゴジラのバリア展開装置の実装だけでなく僕に内緒でこんなことをしていたのか。」

 

「その通り。7 年前戴冠式の際に採取した貴様の毛髪からルクス陛下を製造したのはこの私だ。」

 

メカゴジラに搭乗していた時ヨヴェルの言動に芝居じみたものを感じ、自分は疑心暗鬼に陥っているのではと思い悩んだこともあるホシェルもといパウルだが、疑心暗鬼などではなく本当に芝居だったのだ。

 

「なるほど、最初から用済みになり次第僕を始末する計画だったのか。」

 

ヨヴェルが最初から自分を使い捨てにするつもりだったことに気付き、パウルは沸き上がる怒りで身体の震えが止まらない。その怒りにはずっと傍にいたヨヴェルの本性を今まで見抜くことが出来なかった自分の迂闊さに対する怒りも含まれている。

 

「ご名答。地球制圧完了後に貴様を始末しルクス陛下を擁立する計画だったが、貴様が自発的に裏切ってくれたお陰で計画が早まった。地球人なんぞに育てられた貴様を陛下と呼ぶことにずっと躊躇いがあったが、誕生直後に陛下の記憶を移植しここエレボスで育ったあのお方なら安心して陛下と呼ぶことが出来る。7 年間貴様の忠臣を演じ続けてきたが、その芝居も今日までだ。」

 

怒りで全身が震えるパウルを眺めながらヨヴェルがニヤリと笑う。そのヨヴェルの右隣に移動した少年ホシェルの微笑みの邪悪さはヨヴェルと同等、あるいはそれ以上であろうか。

「こちらのヨヴェルさんは 7 年間ずっと貴方を憎悪していまして、私が無線で出撃を命じなければ靖国神社境内で暴悪龍接近に怯える貴方を見殺しにしていましたし、私が無線で止めさせなければエレボスに戻る途中のメカゴジラの機内で意識の無い貴方を絞殺していましたよ。さて、私のお披露目も済んだことですし、地球人に毒され過ぎた貴方には今から海の藻屑になってもらいます。」

 

突然少年ホシェルが真上を見て微笑んだのは、アンナ達のハッキングに最初から気付いていたことを見せつけるためだ。

 

「ご自身のお披露目が済むまでは貴様を生かしておくのがルクス陛下のご意向だ。二度も貴様の命を救ったルクス陛下に感謝するんだな。そのルクス陛下のお許しが出たから皇帝陛下のクローンでありながら地球人なんぞに育てられた貴様を、楠木武や矢口蘭堂、現人神気取り以上に腹立たしい貴様をようやくこの手で葬れる。向こうに行ったら楠木武達によろしく言っておいてくれ。」

 

ヨヴェルら側近達がニヤニヤ笑いながらパウルを海に突き落とした途端にアンナ達が観ていた映像が消えた。少年ホシェルがアンナ達のハッキングをわざと放置していたのはパウルが突き落とされる瞬間を彼女達に見せつけるのが目的であり、そこから先を見せるつもりは一切無い。

 

「パウル!パウル!どうしてあんなにいい子がこんな目に!?」

 

パウルの無事を確認した途端にそのパウルが突き落とされる瞬間を見せつけられたマリアは、真っ暗になった画面の前で愕然としている。

 

少年ホシェルはモスラの背中に乗り日本に来たマリアがモスラと共に暮らす帝国再興反対派の金星人達と一緒にいることに気付いていた。そのマリアにパウルが突き落とされる映像をわざと見せつけたのだからどこまでも卑劣だ。

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