「ユウキ"も"ヤバイ相手なのは分かった」
荒れた街道を修復しつつ、兵器や防壁の撤去作業を始めるクラフター。
その脇でリムルとシズが鳴きあっている。 ヒナタは青褪めている。
まだ状態異常か。 追い牛乳を持つ。
「もう大丈夫、大丈夫だから」
「異常なお前らが飲め」
止められたので仕舞う。
本当に大丈夫だろうか。 ヒナタから「うぷ」と苦しそうな声が聞こえるが故に。
「安静にしていれば大丈夫。 もう思考制限は受けていないわ」
「思考停止になりかけてるがな。 まぁ良い、他の連中も戦い終えたみたいだし、一旦魔都に連れて行こう。 話はそれからだ」
「……あの者達は本当に何なの? 私が飲まされたのは本当に牛乳? そんなんで異常が治るなんて……」
「異常に異常をぶつけて正常にしてるだけ」
「訂正。 ふたり思考停止だった」
介抱されつつ、ヒナタは魔都に運ばれる。
後でツルハシを渡さねば。 松明も。
今は修復だ。 大抵は砲撃の後始末で、穴を土で埋め表層を石材等で整えるばかり。 ただ数が多いから時間は少し貰う。 それでも半日と掛からない。 ミリム被害に比べれば可愛いものだ。
「あの方がシズエ・イザワさん?」
IRPの辛辣同志が云う。
クラフターは頷く。
そうだ。 怒ると怖い同志だ。
「聞いてはいましたが同志って」
彼女もクラフターだ。
作業台でクラフトした所は見ていないが、我々同様リスポーンした者だ。
子供達の未来を共に開拓した経歴もある。
「あんたらが仕立て上げたんでしょ。 あんな毒された思考になっちゃって可哀想に」
人聞きが悪いな。 全て彼女の意志だよ。
リスポーンだってそうだ。
我々は俗世に「もう結構」としなければ復活出来るものだと考えている。
その点、シズはまだ終わる訳にはいかない理由を持っていたのだろう。 恐らく教え子達が心配だったのだ。
「"彼"は心配してなかったのでしょうか」
もう大丈夫だと思ったから消えたんだ。
いつまでも引き摺るな。
前を向け。 上を向け。 でなきゃ宇宙(そら)には行けないぞ。
「そうですね」
さて。 騎士団は無力化。
次は本国をシメるぞ! 我々は前を向く!
「駄目です。 そんな事する余裕があるなら今回の件を記録するなりシズさんに同行して情勢勉強でもして下さい」
会議系は結構だ。 飽きる。
「上を向いて下さい」
IRPが砲口を向けていた。
……いやぁ手厳しいなぁ。
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「なんで来たの?」
そしてリムルに睨まれた。 辛辣ッ!
「辛辣ちゃん? に云われて来たって」
「辛辣? ああ通訳ちゃんか」
「通訳ちゃん?」
「アイツらの言葉が分かる女の子だよ。 経歴は聞かないであげて欲しい」
「……わかった」
了解してくれた。 いっそ否定しても良かった。
それを理由に自由時間を謳歌出来たのに。
仕方なし。 久し振りにシズもいる。 客と化した騎士団もいる。 持て成す。
「散らかってるけど、まぁかけてくれ」
「本当ね。 管理はどうなってるの?」
「ヒナタ」
「牛乳ガブ飲みさせるぞコラ」
「すまない」
場所は議事堂。
我々が作った白樺製階段による椅子や原木を丸ごとに使用した机のある部屋にいる。
書類が乱雑に散らばっているから、クラフターは溜息を吐く。
客を持て成す環境じゃない。 クラフターはさっさと紙を回収するとチェストに放り込んでやった。
「溜息吐きたいのは俺だよ!? 執務室から溢れたクレーム用紙だからな全部!」
「苦労してるんだね」
「リムルが牛乳を飲むべきね。 イラついてるみたいだし。 カルシウム摂取したら?」
「喧嘩腰にならないの」
「すみません先生」
机にクラフトしたクッキーやケーキを置く。
話は長くなりそうだから、迎賓館辺りに行って夕飯の手伝いでもしようか。
いや離れたら面倒か。 他の同志に任せよう。
「他に処理する人いないの?」
「いるよ。 でも追いつかないんだよ……ブラック環境だけど過労死だけは起きない様にしてる」
「騎士団が攻めなくても自滅してくれたのかしら」
「舐めるなよ、みんな優秀なんだ。 他国との関わりも多い……主にクレームで。 でも厳重注意が大半で賠償請求は意外と少ない」
「成る程。 他の国々は連帯保証人になりたくないでしょうね」
「そういう事だ。 クラフターは基本自由人で決まった国や土地を持たない。 連邦が潰れたら、今度は周囲の国へ責任の追求が及ぶ」
「金品や資源を請求しない代わりに、少しでも手綱を握って欲しいと」
「殆ど握れてないがな。 それでも目溢ししてくれてるのは慈悲深さというより得られる利益が多いからだ。 アイツらが作った高品質の製品や食糧とか」
「ルベリオス近郊でも、その影響を受けている。 我々騎士団の守護が行き届かない集落を守ってくれた」
「世界中でそういった事をしてるんだろう。 事実、クレームの中には感謝の言葉も混ざってる」
長い。 やっぱ会議嫌い。
お喋りを否定しないが輪に入れない虚しさよ。
クラフターは子供が気を引く様な事をする。 ダイヤモンドを用意すると、シズとヒナタにそれぞれ渡してみた。
反応した。 まずまずである。
「なんて大粒のダイヤモンド……いったい何処から得ているの?」
「地下かららしいよ」
「因みに天然。 それをコイツらは大量に持ってる」
「こんな大きさが?」
「他にエメラルドや金なんかも持ってるぞ」
「ますます恐ろしい連中ね」
返された。
ちょっぴり悲しくなった。 取引じゃないのに。
「とにかく、だ。 コイツらの話はここまでにしてヒナタ達騎士団の処遇について話していこう。 今はそれが重要だ」
「ヒナタ。 信念は大事だけれども、本質を見誤らないで」
「……先生。 ですが私は今でも迷っています。 ルベリオスの有り様が間違ってるとは思えない」
「どれが正しくて、どれが間違っている。 そう決めつけるのは良くないわ。 柔軟に、ね」
「もっと言ってやってくれ。 頭良いんだろうけど固そうだから」
「リムル」
「はいゴメンナサイ」
「先生……分かりました。 もう1度やり直します。 この目で見て自分の心で判断します」
「俺との差。 思考制限の影響だな、そうだそうに違いない」
リムルまで落ち込んだ。
コイツもまたクラフターだ。 気持ちが通じる部分もある。
「……もうユウキに近づかないで。 とても嫌な予感がするのよ」
「更に言えばイングラシアに入国するのも成るべく控えて欲しい。 いや、通り道なら難しいかも知れないが。 だが本部に立ち寄るのはやめてくれ」
「…………」
それでも、と。
ツルハシとスコップを握らせたい。 ゾンビの様に勝手に装備してくれるなら楽だが、その先を望む。
いつぞやの狐娘も地下労働経験がある。 あの時は駅ホーム工事に従事していたが、別なもので全然構わない。
最初は自由にブラマイが良いだろう。 そして自らの力で手にした鉱石の悦びは一入。 苦労してこそ得られる光景と報酬がそこにある。
「迎賓館で他の騎士共々改めて話そう。 互いに齟齬がある気がするし、それに飯を食いながらの方が良いだろ。 風呂もある」
斧もある。
植林場で白樺を切ってみないか?
やはり木材は基本のひとつ。 そこから入る方が良いかも知れない。
そう思い、ツールを渡そうとしたらシズが顔を覗き込むようにして言い放つ。
「迎賓館に行くよ。 良いね"クラフター"さん?」
クラフターは黙って頷く他ない。
だってその笑顔が怖かったんだもん。 目なんて笑ってないし。
勧誘阻止。