ユウキと勇者登場。
そしてロケット発射。 逃げるんだよぉ!
「───戦闘は任せるよ」
ユウキは何撃かナイフを振るっただけで、後はクロエに任せた。
随分余裕を見せてくれる。 後悔するやり方は駄目だと教えたい。 我々は既に後悔気味だけど。
「了解。 殺す事になるけど良いの?」
「いいよ。ヒナタは部下になってくれないそうだし、仕方ないよね?」
「わかった。じゃあ、せめて苦しまずに済むように、殺してあげる」
感情が抜け落ちた様な鳴き声だが、敵対するなら仕方ない。 懐柔が不可能になった動物を殺処分するかの如く。
クロエ1人にヒナタと我々が対峙する。 数の有利はそう簡単に覆せない。 それでも勝てると慢心しないのは、ウィザーの様な化け物がゴロゴロいる世界だからだ。
そう気を引き締めると、校庭で爆音。
ユウキの手勢が責めてきたらしい。 同志が戦車や銃火器で抵抗を始め、校庭は戦場と化した。
やはりか、目の前の大将だけという事はなかった。
「おや、祭りが始まったね」
振り返らない。
弾かれる様に、前に踏み込む。
ネザライトの剣で斬りつける。 と見せ掛けてTNTを火打ち石で着火。 起爆する前に溶岩バケツをひっくり返し、向こうと此方を分断。
「へぇ、戦うつもりは無いんだ」
「お前達、何を……」
更に黒曜石で壁を造る。 天井までしっかり埋めると、壁向こうで爆音。
直様踵を返し、走り出す。
あんなので倒せると思ってない。 だが離脱が最優先だ。 ロケット墜落まで決着が着かないからだ。
シズ達は先に逃がした。 学園裏口だ。 我々も倣い離脱する。
「ッ! そうね、時間を稼いだら逃げに徹する。 情報を持ち帰るのが大切」
同志が地上戦の合間を抜い、戦車の主砲でクロエのいる部屋を砲撃。 倣い随伴同志がロケラン発射。 榴弾が炸裂し、壁ごと部屋を吹き飛ばす。
その衝撃波を背に受けつつ、ヒナタと共に全力で廊下を掛けた。 勿論、あんなのでも倒せると思っていない。 故に振り返らない。 前を向く。 全力疾走あるのみだ。
「な、何事!?」「爆発!?」
「うわああ!? 校庭が戦場にッ!?」
「また副担任達がやらかしたか!」
「何がしたいんだよ!?」
「誰にも分かる訳ないだろ!」
「とにかく、直ぐに学園の外へ!」
「生徒の避難急げッ!?」
「全員起きろーッ! 裏から避難だーッ!」
学園に住まう村人が大騒ぎ。
ゾンビイベントの如く逃げ惑う。 違うのは内ではなく外へ向かう点だ。
丁度良い。 そうしてくれ。 ロケット被害に巻き込む訳にはいかない。
「結構、考えてない様で考えてるのね。 確かに人混みに紛れれば逃げ易い。 それにこれだけの騒ぎを起こせば、ユウキ達も問答無用とはいかない。 後々の後始末にも苦心する」
考えるより早く俊足のスプラッシュポーションを割り、ヒナタ共々走力を上げる。 逃げるが勝ち。
「急に足が速く……お前達は本当に凄い」
廊下に飛び出してきた数多の生徒を押し退けて、我先に学園を出る。
ロケットが落下してくるのだ。
こんな所にいられるか! 帰る!
「逃がさない」
クロエが飛び出してきた。
咄嗟に黒曜石の壁で剣撃を防ぐ。 が、黒曜石ごと切り捨てられた。
まさかの事態だ。 まさか黒曜石が斬られる日が来ようとは。
「くっ! 混ざって逃げてしまえば、手を出せないと思ったが……」
「ははは、随分と派手にやってくれたね。 だけど簡単に逃したら詰まらないだろ? これはゲームだよ。 どっちが勝つかのね」
「ならば、此処で勝つ!」
本当、化け物だらけの世界だ。
それよりも、とクロエに剣を振る。 逃げられないなら倒すしかない。 ヒナタも同様らしい。 果敢に剣を振るい挑む。
「くっ!?」
「ヒナタ様ッ!」
ヒナタの剣が速攻で折られてしまった。
黒曜石を斬れる凄まじい剣が相手。 或いは魔法やスキルか。 何にせよ、エンチャント無しじゃ無理がある。
その点、我々の剣ならやれる。 逆に我々が何とかするしかない。 リスポーン覚悟だ。
「ッ!」
ヒナタに予備のエンチャント剣───鉄剣を投げ渡す。 ゾンビだって使えるんだ。 プロのヒナタなら本来のスペック以上で戦える。
それでもクロエに勝てるか怪しいものの。
「フリッツ、子供達とシズ先生を連れて逃げなさい! 私達が時間を稼ぐ!」
ネザライト完全装備の増援同志が、四方八方から現れてはクロエに襲い掛かる。
それを踊る様にバッサバッサと斬り捨てるクロエ。 容赦無い。 強い。 子供の頃とはまるで違う練度だ。
だとして諦めが悪いのがクラフター。
最寄りのリスポーン地点から無限湧き。 団子となってクロエに取り付いていく。
その姿は見る者によっては蜂球だ。 弾かれても、飛ばされても、執拗に攻撃を続けた。 吸い込まれている様にすら見える。
執念、覚悟だけではない。 かつての教え子に手も足も出ないのって……何か嫌だし。
「私は負けない! 相手が、例え無敵の勇者だとしても! くらえ、崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)!!」
早い。 剣筋が読めない。 そんなヒナタの全身全霊の一撃を目撃した創造主。
素晴らしい。 斧でも出来るかも知れない。
「勇者とは負けないから"勇者"なんだよ。 理不尽な存在を勇者と言う」
ところが、次の瞬間には後出しの筈のクロエの剣がヒナタの胸部を貫いた。
目の前でヒナタが、血を吐きながら崩れていく姿が眼に映る。
「残念。やっぱり、ヒナタじゃ僕を倒せなかったね。リムルさんと貴方達だけだったら、結果は違ったのかな?」
理解出来る。 だが出来ない。 そんな矛盾。
結果が映るのに創造主の頭が、それを認める事を拒否するのだ。
剣の腕の差だろうか。 いやスキルか。 はたまた魔法か。 何にせよ現実は揺るがない。 状況は続く。 もう駄目だ。 間に合わないぞ。
ヒナタは兎も角、我々も。
「う、うわああああああああ!!」
部下の村人が叫ぶ。
それは致命傷のヒナタを想ってか、はたまた視界一杯に広がる爆発についてか───。
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最初こそカガリ率いる手下連中と校庭で戦争していた同志だったが、空を見上げて色々間に合わない事を悟る。
ロケットの閃光が、早朝の空で眩く輝いていたのだ。 朝日が本体を煌めかせ、後尾の炎が太陽より目立つ。
逃げるのは楽なのだが、負けたと思われるのは癪だし、何より唯一自由行動が許されている(許されていない)自由学園を失うのは嫌だった。 建物もそれなりに評価している。
もし破壊されても、建物は最悪再建出来る。 だが土地はどうしようもない。 失えばそこまでだ。
ではどうするか。
ロケットを何とかする。 これだ。
クラフターは対空キャノンでTNTを空に撃ちまくった。 駄目だ。 高速で突入してくるロケットにキッカリ当てるのは至難の業だ。 戦闘をしながら座標合わせ……駄目だ。 やってられん。
辛辣同志に連絡する。 破壊以外で飛翔中のロケットを止める術は無いのかと。
『この突入段階では無理です』
なら着弾位置の変更は?
『無茶苦茶な手段なら』
無理と云わない辺り、方法があるな。
『乗り込んでマニュアルに切り換える事が出来れば、墜落ポイントを多少変えられますよ。 でも落下中のロケットに乗り込むなんて正気の沙汰じゃないですよ』
今更なんだ。 楽しむだけさ。
狂気の沙汰ほど面白い。
クラフターはエリトラを羽織り、ロケット花火で急上昇。 何人かはロケットに衝突し死亡するも、1人がハッチをツルハシで破壊、操縦席らしき場所に着席。
IRPとは勝手が違うが、適当に動かす。 なる様になる。 いつも通りだ。
『勇敢を通り越して馬鹿ですね、本当』
結構。 どうすれば良いか教えなさい。
『操縦桿を弄れば、勝手にマニュアルに切り替わります。 後はメインカメラを見ながらロケットを操作して下さい。 このままでは校舎にぶつかるので……校庭に落下するのが最も被害が少ないでしょう、住宅地に堕ちるよりは遥かにマシです』
クラフターは悩んだ。
住宅地は論外として、確かに校庭に堕とせば、建物の修繕は最低限で済む。 ついでに校庭の敵を一掃出来そうだ。 被害としては校庭の同志のリスポーン並びに多くの戦闘物資だ。 あと整地作業が必要だろう。 大量の土や砂が必要かも知れない。
対して建物に堕ちたら……建物が木端微塵になる。 あと内部で逃げ遅れている子供達とヒナタ、同志が巻き込まれる。
代わりに再建するに当たり、我々が堂々介入出来る口実が出来そうだ。
『いや悩む余地あるの!? もう良いじゃないですか校庭で! 被害少なく出来るし、敵も倒せるし、同志が巻き込まれてもリスポーン出来るし!』
そうだな。 優柔不断はらしくない。
クラフターは意を決し、操縦桿を倒した!
建物の方向へ、さぁ逝くぞ!
『この馬鹿野郎共があああああ!?』
事故に見せ掛けたリフォームといこう!
クリーパーの気持ち、こうなのかも知れない!
刹那。 一瞬で建物が迫ると次には大爆発。
当然、内部の操作同志はリスポーンした。
だが満足だ。 これで建物を弄れるのだから。
……このアイディアは活かせるかも知れない!
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フリッツに抱えられたかと思えば、次には大きな爆発が起こり、ガラス破片が弾け、外壁と天井が崩壊、その余波に巻き込まれ転がされた。
急速に寒さが自分を包み、感覚が希薄になりながらも、ヒナタはそれは感じ取っていた。
詳細は分からないが、大方例の人達がやらかしたのだろう。
(守る者がいて、帰る場所が出来て……その最期が彼らの祭り騒ぎの中、か。 だけど……これも悪くない、かな)
身体が冷えていっても、心は温かくなる。
眠たくなってくるヒナタ。 だがまだ逝く訳にはいかない。 残される者に道を示さねば。
意識を必死に引き戻し、目を開ける。 僅かな光をなんとか感じつつ、恐らく抱えてくれたままのフリッツに言葉を紡ぐ。
「フリッツ……いる?」
「ッ! はい、ここに!」
「命令よ。 速やかにこの場を離脱しなさい」
「しかし!」
「私を……皆を無駄死にさせないで。 お願い」
どこか遠く、剣戟の音がする。
例の人達が必死に勇者を食い止めているのだ。
ここでフリッツが脱出してくれなければ、自身はともかく、皆が助からない。 情報を持ち帰る事も叶わない。
そんな想いが通じたのか、子供達……ケンヤが雄叫びを上げながら加勢してきた。
「うぉおおお! 崩魔霊子斬!!」
ヒナタの技を見よう見真似、だが目も眩む様な光の剣閃。 勇者に剣で防がれるも、一瞬だけ怯ます事に成功する。
その隙にアリスが空間干渉魔法陣を生み出す。
ヒナタも、抱えるフリッツも、子供達もシズも、全員光に包まれる。
残されたのは、ユウキと勇者。
それとクラフター。
除け者感があるが、彼等は気にしなかった。
ヒナタにしても、何とは無しに助かる気がする。
シズもそうだった。 そろそろ事例が増えて良いと思うもの。
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「あーあ、フラグ立てたから逃げられてしまったね。 挙句に学園は滅茶苦茶。 ま、それも君達に掛かれば直るんだろうけど?」
おのれ同志。 建物ごと我々を潰す気か。
覆い被さる瓦礫をツルハシで退けつつ、クラフターは軽くお怒りである。
即席の黒曜石や丸石の防壁で難を逃れたものの、何人かは逝ってしまった。 リスポーンするにも、隣部屋のベッドが学園の大半ごと吹き飛んだ為、同志は連邦に送還されてしまった。
「まぁでも、お互いよく生き延びたよね。 あの爆発……ロケット? リムルさんの入知恵かな? それとも偶然? あはは、なんにしても本当に君達は面白いなぁ!」
もうロケットの心配は要らない。
ヒナタ達はエンダーマンの如くワープした。
何処に消えたんだろうか。 分からないが、逃げよう。 クロエとこれ以上戦っていたら消耗が激しくなるばかりだ。
「あああ……学園が木端微塵にいい!?」
「が、学園長しっかり!?」
「ん? あそこにいるのはユウキ理事長?」
「それと……隣の女の子、だれ?」
「……んー、お互い潮時ですね。 これ以上騒ぎになっても困るし。 でももうギルドマスターは返上しないとなぁ。 これから忙しくなりそうだけど、お互い楽しみましょうよ。 創造主様?」
向こうも拠点となる建物が破壊されたからか、退却していく。
助かった。 見逃されたとも云える。
取り敢えずズラかろう。 村人も寄ってきて邪魔である。 再建は後日。
「寿命だった筈のシズ先生が元気に戻ってきたんだ。 ヒナタもまた……会えるかもね。 君達のお陰で」
帰ろう。 帰ればまた来られるから。
建材だって用意しなきゃだし。