ヒナタリスポーン。
学園再建作業。
クロエの時間移動の複雑な話は難しい……。
「で。 ユウキは逃げたと」
連邦に入り乱れる観光客を眺めながら、程よいビルの屋上で鳴くリムル。
死んだ目で、時々コーヒーとやらを飲んでいる。
どこか様になっているものだから、なんかムカついた。 取り敢えず我々にもソレを寄越してくれないだろうか。
「あんだけ騒ぎになればな。 これでユウキが俺に責任追求をするなりして、公の場に立ってくれれば、皆の前で悪事を指摘出来たんだが……流石に考えなしじゃなかった。 それでも、アッサリと自由組合の総帥という地位を捨てるなんて。 アイツにとっては、取るに足らない事だったんだろう」
隣に立つ。 コーヒーをくれた。 戴く。
「だがお前らの起こした騒ぎも役に立ったぞ。 ユウキの悪事が段々と明るみに出た事で、各国は憤慨してる。 同時に混乱が起きたけど、収束していけば俺達に味方してくれるだろう。 今は奴とシズさん達の行方を追っている。 組合内部の状況把握は、フューズに任せているところだ。 お前らも奴を見つけたら叩きのめして良い。 生捕りが難しい様なら、最悪殺せ」
苦い。 顰めっ面をする創造主。
だが悪くない。 慣れれば癖になる。
「そんな顔するなよ。 俺だって甘くするつもりはないんだ。 前にお前らに甘い奴って思われていたけどさ」
リムルと共にチビチビ飲んだ。
暫し地上の喧騒をレコード代わりにしつつ、流れる人と雲を見る。
考え事をする時、偶にはこういうのも良いかもしれない。 リムルと一緒なのは複雑だが。
「そりゃ同郷の仲だよ? でも、ここまできたら関係ない。 やらなきゃ、テンペストどころか世界が混沌の世の中になっちまう。 それに同伴してる勇者ってクロエなんだろ? なんでそうなったのか分からないけど、とにかく助けないとだし」
闘技場の方から、威勢の良い声が聞こえてくる。
我々も参戦したい。 だが辛辣に止められた。 余計な混乱は避けたいらしい。 今更なんだ、と思うが。
「リムル様。 来客です」
ムキムキ緑村人な、リグルドがやってきた。
見た目は強そうだが、武道会には参戦していなかったか。
化け物揃いだからな。 仕方ない。 そもそも戦闘が不向きなのだろう。
「来客?」
「魔王ルミナス様とヒナタ様、そしてシズ様と教え子の子供達。 同時にフューズ殿がお越しです。 大切な話との事で、子供達は別室に移動しています」
「マジか。 直ぐに会うよ」
「分かりました」
翼を生やすリムル。
移動するらしい。
「お前らも来い。 シズさんもいるんだ、状況把握は出来るだろう」
手招きされたから、ついていく。
エリトラを羽織り、向かうは議事堂応接室である。
滑空で高層ビルの谷間を抜う。 ロケット花火による加速がなくても辿り着ける高度だったが、リムルが先に向かうのが嫌で使用。 直ぐに目的地に到着。
そこにはシズとヒナタ。 ヒューズはまぁ良いとして……何故ルミナスがいるのか。 思うがままにネザライトの剣を抜く。
ヒューズが驚き、ルミナスは睨む。
「えっ!? ちょ! いきなり!?」
「本当、いきなりな挨拶じゃな。 妾も逢いたくなかったぞ、この野蛮人共め」
スニーク姿勢で剣を素振りしつつ、右往左往して煽る、ヤんのかステップを見せる創造主。
シズはオドオドし、ヒナタはジト目。
リムルは慣れている雰囲気だ。 だが関係ない。
「お前ら、どんだけ怒り買ってるの? いや世界規模だろうけどさ? 俺が知ってる範囲だとワルプルギスでの無礼な行為くらいだけど、知らない所で色々やらかしてんの?」
「イングラシアのみならず、妾の支配するルベリオスでもな。 人間を纏める役割の西方聖教会の求心力は此奴らの所為で低下しておるし、地上では人間の住まう場所は好き勝手に建設や改装が行われるし、奥の院にもズカズカ土足で上がり込むわ、同胞が住まう地下にすら侵食してくる始末じゃ。 何人かは殺してやったが、懲りずに来るもんでな。 下手すると邪竜より忌々しいわ」
「ルミナス様、相当溜まっている様子ですね」
「どうにもならんから、溜まる一方じゃ。 更に言えば愛しのクロエまで……それはユウキの仕業だと分かったがな」
「あのー……すみません。 情報量が多くて、俺置いてけぼりなんですけどもぉ」
「そうだな。 先ず紹介から始めようかヒューズ君。 此方の高貴な女性は魔王ルミナスで、隣に座るのは元聖騎士団長のヒナタ。 ヒナタはまぁ、知ってるだろうけど。 で、その師匠のシズ先生。 今は自由学園で教師……も知ってるよね」
「は? へ? 魔王? ヒナタ様とシズさんは分かりますが、へ!? 魔王ルミナス!?」
「ヒューズ君のヒューズが切れそうだね。 時間が惜しいから構わず進めちゃうけども」
「そうね。 そうしましょう」
「なんだかヒューズ君が可哀想かな……」
鳴き合い始めた。
またか。 また会議か。 クラフトが出来ない時間がまたしても。 ついて来た事を後悔するも、逃げたら後が怖い。
シズもいる事だ。 大人しくしよう。 通訳してもらいながら。
「ところで、ルミナス様って事は……ヒナタはルミナスの配下だったの?」
「ええ。 ルベリオスの実態を知った私は、支配者のルミナス様と配下に挑んだの。 結果は敗北。 そして、下った」
「そんな事が……」
「ルミナス様の思想に賛同する形にもなった」
「思想? ルベリオスの支配の仕方か?」
「西方教会で人間に加護を与え、代わりに血を貰う……」
「……吸血鬼達が陰で支配していたと」
詰まらない。
石炭と棒を組み合わせる。 松明だ。 作業台無しで作れる。 そんな手慰みをして時間を潰す。
「此奴らは不法滞在の過程でソレを知ったのじゃ。 思想が気に入らなかったらしく、よく嫌がらせをしてくる様になった」
「それで仲悪いのね」
「良い迷惑じゃ……リムルよ、貴様は人間と魔物が仲良く出来ると本気で思ってるのか? 妾の様に支配し、管理した方が良いと思うぞ。 人間は放っておけば好き勝手にして争い、傷つけ合う生物じゃ」
「家畜みたいにしたくはないな。 それに、争うにも仲良くするにも、人の勝手だろ。 全員がコイツらのレベルだったら困るけど」
「ふん。 その甘さが自らの首を絞めてると考えないのか。 既に此奴らに苦労させられているだろうに」
「……ルミナス様。 今日はその話をする為に来た訳ではない筈です」
「そうじゃな。 本題に入ろう。 リムル、妾と西方聖教会と同盟を組め。 ユウキに対抗する為に」
IRPやロケットの進捗を念話で聞く。
IRPは、今回の事件を反省して突入してくるロケット、その全段階での迎撃能力を付加させるとの事。
ロケットは作り直し。 安全装置を増やしてマニュアルを更新。 無人で飛び立てない様にし、最悪遠隔操作を可能にする。 自爆機能も付加。
「良いよ。 さっさとユウキを倒そうぜ」
「軽いわね」
「まぁね。 これを機にルベリオスや教会と仲良くなりたいし」
「賢明な判断じゃ。 今後とも宜しく」
「ども。 さて、早速だけど貿易面ではこれくらいの関税等を───」
「理不尽じゃなければ良い。 任す」
「そりゃ助かる」
「あのリムル。 ユウキの話が先決じゃ?」
「そうだね。 いやつい……」
長引くなぁ。 嫌だなぁ。
時々シズが軽く説明してくれるとはいえ。
「で、肝心のユウキの行方なんだが」
「分かるの?」
「いや残念ながら。 良い隠遁先でもあるのかね、何処へ消えたんだか」
「出来れば早めに潰したいのぅ」
「……ユウキ」
「シズさん、ごめん。 でも、もう……改心できるって雰囲気じゃないんだ。 何故かクロエまで連れているとなると」
「そうだね。 でも、出来れば……」
「……なぁリムルよ。 クロエを知っておるのか?」
「そりゃ教え子だからな」
またルミナスに卵を投げつけようか。
いや止めよう。 シズもいる。 リスキルの刑にされたら堪らない。
「何か違和感があるのじゃが。 貴様らが知っているクロエは恐らく子供のクロエじゃろ。 じゃが妾の知るクロエはある程度大人の姿。 それも出会ったのは千数百年前。 吸血鬼の王国が邪竜……ヴェルドラに滅ぼされた時」
「随分時間が離れるな」
「本当に同一人物なの?」
「……心当たりがある。 精霊の棲家の時だ。 上位精霊を子供達に宿す儀式の際、クロエには別の時間軸から来たと思われる奴が憑依した。 それが関係してるのかも」
「そうね。 きっとそう」
「……クロエを巡って、かなり複雑になってきたな。 しかしまさか、時間を超越している可能性は考えた事がなかった」
「今はユウキを何とかする事を考えましょう。 クロエを助けるにも、そうするしかなさそうだし」
シズに状況を聞く。
なんでも、クロエは過去だか未来だかを移動している可能性があるそうな。
それには驚く創造主。 そんな事が可能なのかと。
創造主が知っている時空間系とは、動物や村人がひしめきあって時空間の流れが歪になる事くらいだ。
それを自由に巻き戻したり、進めたりする力があるのならば……それは凄まじい能力としか云いようが無い。
この世界は広い。 改めて思い知らされる。
「さて。 ヒューズ君の話も聞かないとな。 起きるんだ、ヒューズ君!」
「はっ!?」
「魔王2人を前に……というか、リムルよ。 この男は組合の者じゃろう。 ユウキの組織に属していた者を信用できるのか?」
「信用出来る。 組合はイングラシアだけじゃないし、全てにユウキの息が掛かっているとは思えない。 それを調べて貰っていたんだ……という訳で聞かせてくれ」
「なんで俺がこんな重大な目にばかり……薄給の雇われ支部長がやる仕事じゃないでしょう……何の嫌がらせですか……」
「今度、何か奢るから」
BBなら時空間に干渉出来るだろうか。 無理か。
出来たとして、やり直しを万人が繰り返せば世界は滅茶苦茶になりそうだ。 そんなリスクと好奇心を天秤にかけるのもクラフター。
だがその前に、出来るのかどうか不明だ。 今は出来る事をしていこう。 ロケット然り。 ユウキ討伐然り。
「えー……リムルの旦那の言う通り、全てに思考制御や誘導がされていた訳ではなさそうです。 僅かに上層部や一部の王族に軽いものがされていた程度です」
「クロエにリソースを割かれているのか」
「恐らくは」
「なら、深刻に考えなくて良さそうか」
「油断は出来ないがな」
大陸中に同志がいる。
このネットワークにユウキが引っ掛かるかは分からないが、捜索している者もいるのだ。 遅かれ早かれ見つかる。 気楽に行こう。
と、ここでまたも訪問者。 鎧一式を纏う奴だが、そこいらの兵士より強そうだった。
「突然の訪問、相済みません。 プラチナデビル、レオン・クロムウェルの配下、シルバーナイトアルロスと申します。 我が主は勇者について貴方様にお尋ねしたい事があるそうで御座います」
「……今日も忙しいな。 だが、このタイミングだ。 申し出を受け入れよう」
「有難う御座います」
「レオン……」
「シズさん、ここは俺に……俺とコイツらに任せてくれないか?」
「……分かった。 ありがとう」
「良いんだ。 おい、行くぞ馬鹿共」
「……ヒューズが洗礼を受けている」
「やはり野蛮人共じゃ」
ヒューズがまた白くなっている。
状態異常の疑いがあるから、創造主は牛乳バケツを飲ませてやる優しさを見せるのだった。
時間の話は混乱します……。