「……そうだったのね」
帰還後、リムルとシズが鳴き合った。
何がそうなのか。 深刻そうだ。
「クロエは複雑怪奇に時間を超えて、俺らの教え子になり勇者になり。 混乱するけど、そんな感じらしい。 同じ魂が同時に存在出来ないとかで、今は子供のクロエがいなくなり、大きくなった姿……勇者として存在している」
「あの時の勇者はクロエだったのね。 私の前から突然消えた理由も、また会えるから、という言葉も……」
「小さなクロエの絡みだろうな」
クロエの話か。
心配する気持ちは分かる。 我々も少なからず思う事はある。 ユウキの支配下に置かれ、束縛されているのだから。
自由を束縛される苦痛は耐え難い。
かつて元の世界において先輩に騙されて巨大建造物を手伝わせられた事もあるクラフターとしては、一刻も早く解放してやりたいところなのだ。
「問題はこれからどうするか」
「ええ」
問題がある。
東の帝国に不穏な動きがあるのだ。 それ自体は以前からだが、どうも活発化した様に思えた。
武器・装備の量産や武装村人の動き。 これを良い事に幾つか鹵獲して研究したりクラフト。 その成果が銃や戦車なのだが、アレらが一斉に襲って来たら堪らない。
「ユウキの行方は気になるが、コイツらが勝手な真似をしないか超不安」
「大丈夫だよ……たぶん」
「ロケットを他国にブチ込むんだよなぁ」
指を咥えて傍観するクラフターではない。
ジュラの大森林の川向こう、帝国領手前に軍事拠点を築いている。 川と手前にも葉ブロック等で偽装を施した拠点も設けた。 緊張が高まる前に建設された地下鉄駅は拡張され、それは第二防衛線以降の機能もある。
リムルにも要塞建設を打診したものの、攻めてくるなら最大戦力で息の根を止めるつもりらしい。 油断せずずっと構えるなんて愚の骨頂だと。 潰した方がスッキリすると。 だから要塞は要らぬと云う。
だが、もし帝国が本気で攻めてくるなら、我々も参戦する。 だが、この世界にいる我々の弓矢と剣のみで対処しきれない。 鹵獲した戦車や銃は型落ちで、それでも装甲や威力は強力だった。 とてもじゃないが、剣と弓矢で倒せない相手なのだ。
エンチャントを施せば良い、という考えは兵器が違えば通用しない。 特に集団戦では。 射程外から攻撃されては、手も足も出ない。 如何なエンチャントでも苦戦は免れない。
リムル達ならば、得体の知れない魔法と武器で何とでもするのだろうが、それに甘んじる創造主ではない。
「ロケット?」
「そうかシズさんは……アイツらの娘さんが宇宙に行きたがっていてね」
「えっ? 凄い!」
「その過程でロケットを幾つか造ってるんだが、事故が多発中で。 次は何が起こるんだか」
「でも応援してるんでしょ?」
「そうだね。 してる、かな」
IRPの強化もしている。
操縦系統の改善、自力索敵能力の強化など。
長距離砲撃用の移動式TNTキャノンの扱いなのだから、こういう時こそ役立てねば。
状況が逼迫するなら、ロケットにシオン級毒物を大量に詰め込んで帝国に打ち込む。
ロケット事故を活かした戦法、と述べるクラフターだったが、やっている事は汚かった。
荒らしにドライな創造主だからね、仕方ないね。
「平和利用している内はまだ良いさ」
「大丈夫だよ。 大切な娘の物を、酷い事には使わない」
「どうかな。 生まれを思えば……いや、これ以上は止めておこうか。 きっと大丈夫。 そう信じておこう」
一騎当千のリムル達と比較すれば、マインクラフター1人1人の純粋な力などたかが知れている。
故に天稟で大好きで得意とする物作り、クラフトで対抗してきた。 またするだけだ。 これからもだ。
「リムル様」
前の鎧野郎の仲間が訪問してきた。
お礼参りなら、やり返す。
「レオン様がユウキと交戦。 至急、応援願います」
「へ? ナニ勝手に動いてるの? 取り敢えず場所を教えてくれ」
「はっ。 場所は───」
違う様子だ。
まぁ良いや、とクラフターはリムルに任せて仕事に戻る。
それはIRPやロケット開発に留まらない。
元の世界と技術交換。
そして、帝国や今後に備えて元の世界で軍隊"ごっこ"をしている者達……軍事部を迎え入れねばならないのだから。
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テンペスト地下に拡がるジオフロント。
地下都市とは別に設けられている、IRP格納庫にて辛辣同志……娘の声が響いた。
「軍事部!? そんなの聞いてませんよ!」
注目を浴びつつ、構わず続ける。
当たり前だ。 今云ったからなと。
そう怒声を上げるな。 来たところで何の問題もない。 奴らも我が同志。 軍事面で貢献してくれる。
ユウキのみならず、帝国などの脅威に備えねばならない現状、IRPのみでは心許ない。 それを憂いての招待だ。 向こうも此方の世界に興味津々だったし、良い機会だった。
「アンタらの世界に行った事がないので、どんな連中かは知らないですが……クラフターって時点で碌でもないのは間違いないんでしょうね」
相変わらず辛辣だ。
だが安心しろ。 軍事部は武力を玩具にした"ごっこ"遊びをしているだけだから。
ファルムスとは違うのだよ、ファルムスとは。
「余計問題だろうがッ!? その云い回しに不安しか感じないんですけど!」
全く。 騒がしい娘よ。
そんな風に育てた覚えはない。
「どの口が云ってんだクソ親がッ!?」
何も暴力ばかりがやってくる訳じゃない。
手土産に、ネザライトやハチミツが輸入される形にもなる。 技術もだ。
輜重にしても、学ぶ事は多い。 大いに学び給え。
「……リムルさんに連絡してきます」
今は取り込み中だ。 後にしろ。
今は軍事部の受け入れ優先。
「なんでこう……私に何も云わず、好き勝手進めちゃうんですか? お願いですから、次からは連絡して下さいよ」
中間を挟めば挟むだけ、行動が遅れる。
ネザーゲート室に急げ。 軍事部がお待ちだ。
クラフターは娘と共にゲートが設置された部屋へ向かう。
幾つもの実験室が並ぶ区画、その最下層にあるネザーゲート。 こんな不便な場所にある理由は、偶にネザーの魔物がゲートから湧き出るのと、何より村人を勝手に出入りさせない対策だった。 リムルは既に出入りしてしまったが、それは許せる範囲。
現場に着くと、既に軍事部と思われる者達がいて、此方を見るなりスニーク姿勢でお辞儀してきた。
スキンは兎も角、服装はバラバラ。 一応、それっぽく軍装しているものの、統一されていない。
表情や態度、行動も軽い。 組織のない世界、あっても部活動やサークル感覚────正規軍だとか義勇軍とか、そもそも存在しないのだと、辛辣同志は改めて思った。
「遊びに来たんですか?」
故に失礼な事を言う。
が、相手は怒るどころか笑顔で頷くばかり。
山や海に遠足している気分なのだろう。
そんな彼等はキャノンを見せて欲しいとか、IRPやロケットを見せて欲しいと云ってくる。
我々が協力出来れば、命中率や威力を向上させる事が出来るかもとも。 そうなれば、より多くの荒らしを葬れると笑顔で述べた。
"誰かを殺す時すら、笑顔なんだろうな"
そう思った。
元々分かりきっている。 何を今更。
荒らしには容赦しないのがクラフターだ。
相手だって、悪い事をしている。 ファルムスの時なんて、此方側を殺そうとしたのだ。 やらねばやられる、そんな状況だって戦争の時だけじゃなかった。
なのに、それを痛感させられた気分になると複雑だ。 多少罪の意識を感じて欲しいのが本音だ。 出自の件もある。
「度が過ぎないようにして下さいよ」
だから、辛辣同志は中立を取る。
自身も結局クラフターだ。 仕方ない、と言い訳はしたくない。 だが時には必要な事もある。 それもまた、言い訳なのかも知れないけれど。
「では案内します。 順番的にIRPからですかね、その後はロケットや銃、戦車、地上都市のキャノン、郊外のトラップや防壁、この世界の状況。 詳しくはそこら辺の同志に聞いて下さい───」
歩き始めるクラフター達。
彼等は先発隊に過ぎず、後発が続々とやってくる事になる。 その中に記憶から消えかけている、弟が混ざっている事に気がつくのは大分後になってからだった。
やがてこの世界最大最強の帝国軍事部と、創作活動同好会なマイクラ軍事部が衝突する事に───果たしてなるのだろうか?
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一方、ユウキ討伐は失敗に終わっていた。
ドワルゴン方面の山にて、逃避中のユウキ達を捉えたレオンはコレと交戦。
この時、クロエと再会出来たのだが、残念ながら状況が状況で感動の再会とは呼べず。
戦闘はユウキが左腕を落とす程には、凄まじく、ユウキが新たなスキルに目覚めたり、竜皇女のかつてのペットを利用した……カオスドラゴンとドンパチ。 これを討伐。
が、その間に逃げられてしまった。
レオン側の被害、1番はユウキに逃げられた件だろう。
何とかしてくれそうな気がしたクラフターは、残念ながらこの場に居合わせておらず、それを知るのは落ち着いた後だった。 何処にでも生息してそうな奴なのに、肝心な時にいないとは。 この役立たず!
リムルが現場に駆け付けた頃は、とっくにユウキが逃げた後である。 此方も肝心な時にいなかった事になるのだが……レオンが勝手に行動した結果なので、仕方ない。
それなのに後始末を頼まれてしまう。 「へぃへぃ、いつも馬鹿に付き合ってるんで慣れてますよ」としつつ「イケメンだからって許されると思うなよ」はリムル談。 スライムじゃなかったら、青筋が浮かんでいたかも知れない。
特に大変だったのは、ペットとの魂の繋がりが切れて激怒したミリムの来襲。
これを宥める役をレオンとルミナスは全てリムルに笑顔で押し付けた。 酷い。
クラフターが随分と遅れて到着した後、何とか協力して残った魂と周囲の魔素を使い、子竜を生み出した。
サリオンに伝わる竜皇女の物語、そこに出てくる子竜が復活したのだ。 感動の再会である。 これにてミリムは怒りは消え、喜んだ。 山が吹き飛ぶとか、ドワルゴンや周囲が吹き飛ぶ事態にならず良かったと思う。
一方、逃げたユウキは帝国へ。
力こそ全て……そんな国故に分かりやすく、ユウキは力を示しあっという間に軍部の、混成軍団長の地位に就いた。
彼はどこまで遊びで、真面目なのか。
同行しているクロエも、まだ分からない。
なんにせよ、何とかしなければ。
リムル達とクラフター。 別働隊となれど、目的は同じであった。
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軍事部は軍事系を嗜むクラフターだ。
特別、そういった組織ではない。
元の世界では多種多様なTNTキャノンの制作のみならず、動かずとも軍艦や戦車、航空機、軍事施設等を造っていた。
例え見た目だけのハリボテであれど、楽しければそれで良い……そう謳歌して。
だが、同志がリムル達の世界で得た技術や話は彼等に革新を与えた。
銃。 戦車。 IRP。 ロケット。
魔物達の武具。 力。
敵対組織の存在。 万単位の戦争。
それらは軍事部が妄想していた、大規模戦闘。
参戦してみたい。 作りたい。 蹂躙したい。
そういったワクワクやドキドキは、リムル達の世界へ足を踏み入れる切欠になった。
特に帝国なる軍事国家と衝突するかも知れないからと助力を願われたのだから……行くしかなかった!
BBはクラフターの世界で秘匿されていたと聞くから、先に見つけられれば、という惜しさはあるものの、これから堪能すれば良い。
そうして軍事部は異世界入りを果たす。
キャノンやIRPに携わっている者を含めると、かなり前から軍事部はいる事になるのだが、それは置いておこう。
さて。
暫く世界に滞在していると、帝国の軍団がいくつかあるのが分かった。
機甲軍団
機械化兵が主力となる軍団。
戦車等を擁する、近代的武装軍。
魔獣軍団
世界各地、帝国の版図やそれ以外の地域において、捕獲された魔獣を支配し、その力を操り使役する軍団。
混成軍団
規格外の機械化兵や、組織行動を取れない個体型魔獣の掃き溜め。
しかし、その力は未知数。 1つに纏まれば大いなる脅威となる。
なんにせよ、だ。
これら全て敵になるなら、潰すだけ。
その点、リムルと同じと云えよう。
荒らし死すべし慈悲はない。
容赦しない。 向こうも同じだろう。
時を待つ。 その間、軍事部は観光や研究に勤しむ事になる。
やがてリムル達の世界における様々な国での技術がテンペストに集約する。
ドワルゴンらの精霊工学。
サリオンの魔導工学。
吸血鬼の物理学似たもの。
秘匿するにあたり、リムルはダンジョン深部の森林型都市に研究所が設けられた。
加えて地下都市、クラフターの研究区画に隣接するように。
こうしてクラフターとこの世界の技術はよりハイブリッド化。
IRPやロケット技術は格段に進んでいく。
物作り。
クラフターが生み出すは悲劇か。 喜劇か。
幸福とは、なんだろう。
考える間も無く、クラフターは邁進するだけだ。
後半ダイジェストに。