互いに使節団を派遣する事になる話辺り。
「お初にお目にかかります。 ジュラの大森林の盟主様」
数回の寝起きを繰り返した頃、また新顔がテンペストにやってきた。
人口が多いとはいえ、見慣れぬ見た目や雰囲気とはあるものだ。 特にトロッコモドキな乗り物に乗って来たのだから尚更に。
動力は前方にいる大型の猫の様な生物だ。 体表に流れる虎斑は独特で美しい。
威嚇しているが、頑張れば懐柔出来そうだから試してもみたい。
ああ、なんでこんな時に限って魚を持ち合わせていないのだろう。 クラフターは空を仰いだ。
村人よりも其方に気を取られるのは、村人の多様性に目が肥えてしまったからかも知れない。
ハァン種ばかり見ていると世界がハァンのみで支配されている錯覚に陥る。
時に自らも飲まれそうになるから、そんな時は動植物と触れ合う事で癒して貰う。
「私はカリオン様の三獣士が1人、黄蛇角のアルビスといいます」
この世界は馬以外の乗り物が色々あるのも面白い。 お陰で豊かな日々だ。
サドルを付ける事で騎乗も出来るかも知れない。 だがそんな時に限って持っていない。 クラフト方法が不明なサドルは貴重品故に。
「はッ、弱小なるスライムが盟主だと? 馬鹿にしてんのか!?」
ドガッ、と荒い音が響く。 直様木剣を構え、各々修繕材を左手に添える。 条件反射だった。
ミリムの所為で余儀なくされてきた戦闘と修繕の日々が咄嗟の行動を可能にしていたのだ。
見やればトロッコモドキからまたも村人が出て来て……獣風なのは今更だが、見た目からふと思う。
「その上、矮小で小賢しく卑怯な人間共とつるむなど、魔物の風上にも置けねぇ」
此方を一瞥して不機嫌そうなハァンハァンを鳴き始める村人。
ニャーじゃないのは想像の範疇だとして、見た目は山猫を足した外見。
これはもしかして……もしかするかも知れない。
つまるところ懐柔出来るのでは、とクラフターは愚考した。
村人に物を与えるのは常日頃何気なくしてきた行為だ。 今更に考えたのは取引ではなく、懐柔についてである。
「控えなさいスフィア。 カリオン様の顔に泥を塗るつもりですか?」
「煩いぞアルビス。 オレに命令するな」
今のところ獣系村人の懐柔は失敗している。 高価な嗜好品のケーキを目の前に置いても困惑されるか激昂されたし。
ならばとストック出来る食料を与えても困惑される。
一応受け取ってくれる事が多いが、懐柔出来た事はない。 足早に離れられたり、偶に武装した村人を連れて来られる。 相変わらず生態は謎だ。
「……ずいぶんな物言いだな。 このヨウムは俺の友人で同じ師についた弟弟子でもあるんだが……あとソイツらの何人か」
「お、おい旦那……」
「それがどうした?」
「そうくるか……なぁヨウム。 ちょっと実力を見せてやったらどうだ?」
「はぁ!? 平和的にいくんじゃなかったのかよ!?」
「向こうが仕掛けてくるなら話は別だ」
会話しているが好戦的な雰囲気だ。
山猫村人が舌舐めずりしてハァンと鳴く。
ああ、これは敵対行為か?
なら遠慮はしない。 クラフターは前に出る。
村人が1人2人減ろうと変わらないだろう。 新顔なら尚更だ。
「ほう? やるか人間」
ニャーと鳴けば愛嬌も湧くのだが。
護身用石剣を構える。 叩けば大人しくなるだろうか。 或いはニャーと鳴くようになるか。
やはりハァンか。
「ちょ……?」
「相手はお前か。 面白い……スライムの配下がどの程度のものか、このオレが確かめてくれる!」
「配下じゃないんだけどね……もう好きにして」
「行くぞ!」
飛び上がった。 猫だ。 見た目通りか。
だが違うのはここからだ。 クルクルと回転しながら突っ込んでくる。
正直に受けるのも馬鹿らしいので、丸石で防壁を作り相手から身を隠す。
「はっ! 壁ごとブチ抜いてや……ッ!?」
ダイヤスコップ直堀で即席塹壕に身を隠した。 効率強化のエンチャントの所為で手の届く全ての土が抉れるが、こういう時は都合が良い。
刹那、丸石が大破し上に着地したので上を向いてジャンプしながら斬りつける。 素直な奴で良かった。
「ぐっ……!」
が、足をペチンと叩いた程度に済む。
猫同様に俊敏だ。 着地の瞬間でなんとか一撃を喰らわすだけで終わる。
「このっ!」
反撃を喰らう前に更に深堀して地上を元の土で蓋をする。 暗闇の中、横に掘り進み道は土で埋めていく。
「なに!? 地面の中を移動している!?」
追跡は困難になるように仕向ける。 次にジッとする。 音バレしないように機を窺う。 気持ち的にスニーク姿勢になる。
「面白い! 確かに人間は矮小で小賢しく卑怯だが……こんな馬鹿げた戦い方も出来るんだな!」
「褒めてんだか貶してんだか」
「両方さ」
獣らしく耳が我々より大きい。 ここまでくれば虚仮威しじゃない。 聴力が高い筈だ。
透明化ポーションが仮にあっても追跡される危険性が高い。
ならどうするか。 ジッとする。
身じろぎひとつも難しい。 大きな音が響けば乗じて飛び出せるが。 最悪はこのまま地下に逃げる。
取り敢えず同志がIRPを起動させている。 その内嫌でも暴音が響く。 機を待つ。 沈黙を守る。
「まったく、しょうがありませんねスフィアは。 替わりに貴方があの人間の相手をなさい、グルーシス」
「俺ですか……人間の相手ね……まぁいいか、 遊んでやるよ人間」
「おう。 よろしく、な!」
地上で音がする。 だが同志ではない。
ハァンハァンと聞こえるから村人同士の戦闘だろう。
この音に紛れて飛び出るか。 いや駄目だ。 音の感覚が疎らで散発的。 ギャンブルするくらいなら籠る。
……ジャガイモの気持ちはこうなのか?
「……なんだこの音?」
「まさか……」
おお来たか。 本命の音が響いてきたぞ。
ガシャンガシャンと近付いてくる。 質量故の地響きは土の中にいても伝播する。
……この波長とも思えるモノはIRPの検知機能に生かされているのかも知れないな、とふと思う。
「お、おいありゃなんだ!?」
「デカい……ドラゴン!?」
「お前らな……出す程じゃないだろ!?」
「あーもう滅茶苦茶だよ」
地上の騒ぎが大きくなると同時、やがて地下君主の咆哮が大地を空を、世界を震わせた。
───キシャアアアアアアアアアアッ!!
「うぐっ!?」
「耳が……ッ!」
よし今だ。
地中のクラフターは飛び出した。 相手は背中を見せて咆哮に怯んでいる。
「ああ……ゾクゾクする! そうだ皆本能を解き放て! そしてオレをもっと楽しませろ!」
斬りつけるなら今を置いて他にない。
殺ろう。
そう思い、駆け寄った。 相手の脳天に剣を振り下ろそうとした時。
「それまで」
最初の村人に止められた。
下半身がニョロニョロしている。 寝起きの洞窟でも似た生物を見た事があるし、村人は多様性に富むから今更驚かないが。
それよりもとクラフター。
突きつけられている棒状のツールを見やる。
なんだそれは。 刃の部分が先端のみにある。 スコップのレシピに似て非なる物だというのか。
「……もう十分です。 このあたりに致しましょう」
疲れ気味にハァンと鳴かれた。
周りを見る。 戦闘は止まっている。
IRPも村人を見下ろして大口を開いたまま止まっている。
「……堪能させていただきましたわ。 試す様な真似をして御免なさい」
そうか。 降参か。 クラフターは頷くと剣を仕舞った。
IRPには流石に勝てないと判断したか。
「見たかお前ら! 彼らは強く度胸もある。 我らが友誼を結ぶに相応しい相手だ!」
だがクラフターは空虚に襲われる。
IRPは虚仮威しだ。 見た目だけなのだ。
本物である相手に何か誤魔化しをしてしまった気がして、クラフターは懺悔するように村人に頭を下げた。