2.外とゴブリン村
洞窟に建築物が居並んだ頃、遂に娑婆への邁進を決意した。
出口は知れている。 2枚開きの既存扉だ。 先に進まぬ選択は無い。 滞在する理由も無い。
ここでは限度があるのだ。 木材とか砂とか砂利とか羊毛とか火薬とか諸々の建材に難儀している。
それも腕の良し悪し。 否定しない。 だが日の目を浴びたい。 何より冒険欲が疼く。 常なる晴れ舞台を生きるのがクラフターだ。
「魔力検知で周囲を確認したけどさ、洞窟がジャ●ロー本部みたいになってるんだけど。 松明だらけだし、畑まであるし」
巣立ちする前に、しみじみ思う。 初心者染みた豆腐建築は掃いて捨てるとして……新種モンスターは面白味に富む。 特に水色スライムの印象は強烈だった。
スライムがドラゴンとムニャムニャ鳴き合った、次の瞬間。 目を見張った。
刹那的に巨大化したと思えば、次にはドラゴンを丸呑みにした。 謎のドームごと。 挙句、その後も様々なモンスターすら呑み込んだのだ。 まさかの事態だった。
次にはモンスターに変身。 攻撃まで模倣するときた。 コウモリ捕食後なんか、村人の様に発声すらしてみせた。 今はスライムの姿に戻る。
いよいよ持って新種だ、このスライムは。 或いは我々同様インベントリが存在するのか。
相変わらずのハァンとはいえ、驚愕する枚挙に遑がない。
「お前らがやったのか? 此処に住む気か? 俺は出ようと思うけど……あっ、お前らも出るのか」
村人の様に鳴くスライムだ。 心なしか顔が見える。 前の世界でもそうだった。 或いは模様か。 あいや、どうでも良い。
ただ、取引要請が出来るかも知れない。 今はしないが。 敵対せずにいるのを心から嬉しく思うばかりだ。
何にせよ外だ。 どうしてかスライムも同様に付いてくる。 いつ喰われるかと思うと不安で致し方ない。
「置いてかないでくれよ。 此処であったのも何かの縁だ、どうしてか会話出来ないけどさ、もう友だちだろー?」
討伐する気にならないのは目下大いなる謎だが。
下手するとウィザー級の脅威に成り果てそうなのに。 かの脅威は痛ましい記憶に残る。
それだけ早期排除は重要だ。 想定される最悪の結果を回避する術なのだ。
召喚した日がつい昨日の様に思い出せる。 強かった。 エンダードラゴンの倍はあった。
皆で協力して何とか討伐出来たから良かったものの、野放しにしていたら建造物の悉くは破壊されていたに違いない。 一歩間違えば狩猟されたのはクラフターだ。
スノーマン感覚でのクラフトは一生の反省であり続けるだろう。 今後とも。
「行く手を阻む扉まで来たな。 開けられるか? 無理なら水刃で切り刻むか捕食者で食ってしまおうか」
観音開きの鉄扉まで来た。
スイッチ類が無いのを確認したクラフターは、さっさとダイヤツルハシで破壊する。 コレに限る。
「壊すのかよ! 押し引きしてからじゃないの普通!?」
鉄扉は木扉と違う。 スイッチや感圧版、動力を無しに開かない。 それを知らない駆け出しでは無い。
ついでに片割も破壊する。 見た目が気になる。 所々禿げた重厚の鉄扉だ。 脆い。 味はあるが認める事は出来ない。
「全部壊すのかよ! って、新しい扉を付けるの!? その扉はどこから出した!?」
扉枠に合う様、丸石で余剰を埋める。 幅1マス、縦2マスの鉄扉を2枚取り付ける。
当然、石製感圧板を敷設。 外も同様。 よし満足だ。 設備は機能的であれ。 些細なクラフトでも後先配慮してこそ良き創造と言えよう。
「ま、まぁ良いや。 旅立ちの時だ」
改めて外に出た。 森だ。 かなり広い。 中には枝別れしている木もある。
「森だったのか」
クラフターは歓喜した。 右腕を闇雲に振り回し、激しく腰を振りをし、首を回した。 歓喜の舞である。
複雑な木の伐採は時間を要するから嫌いだが、差し引いて木材が手に入る。
木材さえあれば最低限のツールは準備可能だ。 仮にリスポーンして全ロストしても詰む事はない。 木さえあれば何とかなる。 創造幇助の源は木材に有り原点だ。 過言では無い。
「急に激しく腰振るなよ!?」
木こりだ。 ダイヤ斧を取り出し伐採だ。 効率強化のエンチャントを施している。 みるみる切れる。 快感だ。 手が止まらない。
「今度は木を切って……なんで根本切ったのに倒れないんだよ!? は? 何故林檎が落ちてくる!? これ林檎の木じゃないよな!?」
やはり最高のツールとは最高の付加をしてこそ真価を発揮する。 エンチャントを施さないダイヤ装備など未完成に等しい。 急に止まれず損をする。
「……お前らはお前らなりの道があるんだな。 邪魔にならないよう、俺はスキルの練習してくるよ。 その内戻って来る、じゃ」
よし。 洞窟の出入口 四方を開拓しよう。
伐採して開けた土地に建築だ。 手に入れた木材と丸石を併用し、仮拠点を確保。
質素な豆腐陳列は避ける。 木色は一色のみで色材に事欠く。 それでも木の導入で幅は広がった。
地上から1マス分は丸石で囲い、2マス目から木材を使用。 原木も良いが効率の面を重視し原木から木材にクラフトした。 屋根は馴染みの階段ブロックだ。 丸石を使う。 窓はガラスが無いので木材からフェンスをクラフト、格子として嵌めた。
内装は余りのフェンスの上に木製感圧板を載せて簡易テーブルとする。 椅子は余りの階段ブロックとしたいが、統一感から木製階段をわざわざクラフトして設置。
左右端に看板を付ける。 肘掛けだ。 部屋の隅には土ブロック。 上にその辺の草を鋏で刈ったのを置く。 それをハッチで囲い観賞植物とした。 掛け流し風の無限水源も用意。
勿論、かまど に ベッドに作業台は完備。 これさえあれば拠点として機能する。
実に良い。 簡素でも 拘りってあるからさ?
ここでハタ、と気付く。
そうだ。 水色スライムはどこ行った。 拠点制作に夢中で見失った。 柵で囲っておけば良かった。
まぁ良いか。 スライムはスライムだ。
奇妙な出会いも一期一会。 運が良いならまた巡り会う。 此方から捜索する事もあるまい。 スライムボールを欲してもいない。
気持ちを早々に切り替え、森を切り拓く。 松明と苗木も忘れない。
クラフターが斧を振るう中、早くも再会は訪れた。
探索組が近くに緑色の村人モドキの村を発見し、浮く様にして水色スライムが鎮座していたからだ。
クラフターは天を仰いだ。 スライムではない。 村そのものだ。 我々が知る村より粗末だったからだ。 沸き潰しがなってないのはいつも通りだが、棒と藁で家としている。 烏滸がましいにも程がある。 ゾンビイベント抜きで全滅しても可笑しく無い。 落雷火災で焼畑すら有り得る。
元より村人は危機管理に疎いとはいえ、過去最低の村だ。 建築物に対する侮辱は畢竟、世界を侮っていると言える。
残酷を道理とする世界で己の空間を切り取る。 その手段たる建築物。 それが如何に至難の技か。 舐め腐る奴から運命は決めつけられる程に重要だ。 建築物は万事万端に繋がり世界と繋がる。 つまり携わる者は常なる晴れ舞台を生きるという事だ。 クラフターはだからこそ建造物に全力で情熱を注いできたのだ。
「あっ、お前らも来たのか。 このゴブリン村は牙狼族って奴らに攻められそうになってるんだ。 俺と助けてくれないか?」
頷いた。 やるしかないと。
速やかなる改修を施さねば。
不完全な建築物を見せられて、どうして我等が黙っていられよう。
ある種の火中に放置は出来ない。 何故とは考えない。 故に動く。 造る。 打ち建てる。
世界に生きる為、生きた証を残す為、常なる晴れ舞台を堂々生きる為に。
笑顔でツルハシを握る。 スコップを握る。 斧を握る。 闘志に燃える。
それがクラフターだ。 それが全てだ。 創造の人生だ。
刮目せよ。 天下創造の真髄を。
ヴェルドラ消失を受け、調査しに来た某冒険者トリオ
「洞窟の前に家があるでやんすよ!?」
「扉新しくなってね? うおっ、石板踏んだら自動で開いた!?」
「中松明だらけなんですけど!? なんか町が出来てるんですけど!?」