寝て起きてクラフト案件。【完結】   作:ハヤモ

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話数的にキリよくしたく、またも別視点。
ちょい過去話。
とあるお話(コメ)にインスピレーションを得て。
【創造主の誕生と消失】
クラフター謹製ホムンクルスの心中。
地下に向かう前の話。
焚書処分に書こうか迷いましたが、此方にしました。
既にこの手のモノを書いてしまっていたので……。


80.誕生と消失

 

 

物心ついた時には、生まれさせられた事を恨んだ。

私は屑連中の言うところの所謂「人造人間」という肉人形らしかった。

人形故か実験台として扱われ、姉はボロ雑巾の如くこき使われ最期は還らぬ人となった。

その骸を連中は無造作に火葬し無かった事にして、弟は屑連中の世界へと拉致された。

そんな事をする連中だ。 奴等を身を寄せ合う家族とも仲間とも感じれず、私も姉弟と同様に恐ろしい目に遭わされると思って過ごしていた。

どうせ殺されるならと自殺も考えた。 せめてなりの抵抗心はあった。

連中は生き返るみたいだけど、姉は死んで還って来なかった。

だから人形の私も死ねば解放される筈なんだ。

だけど連中と違って臆病な私は其れが出来ない。

だから屈辱を感じつつ屑が投げ与えて来るゴミを漁りながら、創造主の作り上げた灰色の世界の片隅で1日1日を怯え震え生きていた。

 

 

(いつ殺される? いつ解放される?)

 

 

そんな生活が終わりを告げたのは、唐突だった。

その日はいきなりトロッコとやらに押し込められて、ビル群が聳える大都市に放り投げられたのだ。

最低限の土地の説明をされると後は自力で見聞を広めろとだけ言い残され、放置される。

以降誰も来ず、食料になるようなものを与えてくれなかった。

私は屑連中のクラフト技術やサバイバルの知識はあれど、あるだけである。

その気になれば何とかなると思っていたが、思うようにならなかった。

知識と実践の違いを思い知らされる。

屑連中のサバイバル、クラフト技術を使ったらそれこそ負けだとすら思っていたのもあるだろう。

詰まらぬ意地が私自らを追い込んでしまっていた。

 

 

(……疲れちゃった)

 

 

やがて訪れた夜の寒さは私の骨に張り付いたような緑のパーカーだけでは到底防ぎ切れるものではなかったから、少しでも暖かいようにとビルとビルの隙間の路地で体を丸めて震えていた。

ひもじくて、寒くて、辛くて、理不尽で、私を生み出したクラフターが憎くて、とにかく悲しくて涙が溢れた。

あんなに恨んでいた屑連中に私は生かされてきたのだと。 生まれさせられたのだと。

なんで。 どうして。 どうしたら良いの。

自決を思っておきながら、いざ自力で生きないとならなくなった今、生きたい気持ちが湧いてきてしまう。

 

 

(私、死ぬのかな……でもアイツらは……)

 

 

皮肉とはこう云うのだろうか。

ふと、目の前に影が落ちた。

顔を上げた私が目にしたのは、この魔国連邦とやらで活動している男の人間。

 

それも数多いる創造主の1人だった。

 

両眼で私を捉え、暫し佇んでいる。

 

 

「クラフター!?」

 

 

私は反射的にその場を飛び退いた。

無論本能によるものでもあったけど、1番の理由は糞親共の所為だった。

もう記憶から消したい連中だが、それでもサバイバルやクラフトは頭ではなく身体に教え込まれたから。

連中に教わったのは、生き方と創造の仕方、そして世界と屑共の恐ろしさだった。

相手の一挙手一投足を見逃すまいと私も目を光らせ、警戒心を滲ませるように右拳を握る。

そんな私を見て彼は優しく微笑んだ。

 

 

食べなさい。

 

 

クラフターは呟いて、徐に白いボールを私の目の前に置いた。

同時に薄暗い路地を松明で照らされる。 久しい太陽の様な温もりが、私を包み込む。

 

 

すまない。 照度確認だった。

 

 

男の姿が路地から消える。すぐさま雑踏の中に紛れて見えなくなった。

私はといえば、目の前の美味そうな白い塊から目が離せないでいた。

匂いから食べ物であることはわかっていたし、何かを食べないと命が危ないということは、私自身が誰よりも知っていた。

この時の私は連中が憎いとか、助けなんかいらないとか、先程まで抱いていた変な意地や憎しみなんて吹き飛んでた。

それ程までに飢餓の苦痛の前には無力だった。

 

手に取り恐る恐る口に入れると、白い塊は噛んだところからポロリと崩れた。

白いスライムボールだと思っていた物は、どうやら白い粒が集まってできた物らしかった。

中には具材として焼鮭が入っていた。

それが稲植物の米からクラフトされた握飯だという物だと知ったのはかなり後になってからである。

研究所の味気ないパンクズとは似て非なる食糧だ。

 

 

「ひぐっ、おいしい……悔しい……ッ」

 

 

遠目に見ても、私はまたも嫌いなクラフターに餌付けされた惨めな存在だった。

握飯が塩っぱいのは、涙の所為だ。

それすらも良い塩梅で、更に悔しくて。

それでも感謝なんかしてやるものかと。

私を産んだ仲間に頭なんか下げるかと。

 

 

 

男は翌日も現れた。翌々日にも現れた。

その翌日にも現れた。

何度か寝て起きて昼夜を生き延びた頃、私は男の後を追跡しようと思い立った。

産み落とされてから暫く経過していたとはいえ、箱入り娘……というにはあまりに粗末……育ち故に思慮浅く単純だった私は、男がこの大都市の何処かに食糧を大量に抱え込んでいるのではないかと考えたのだ。

あとをつけてその場所を突き止め、あわよくばその秘密の食糧を全て私だけのものにしてやろう、などと画策していた。

そうすればクラフトせずとも生きていける。

屑連中の技術を振り翳す必要も無い。

村人達の様に働く必要も無い。

愚行とも云える計画は驚くほど円滑に進んだ。

何せ魔国連邦はクラフターが村を魔改造した事により大都市に発展、様々な村人が出入りするものだから、村人形態の私なんて珍しいものではなかった筈だ。

だから人魔に紛れて歩いていてもなんの疑念も抱かれなかったのだ。

誤算は2つあった。

1つ目は案外簡単に見つかった事。

2つ目は男が、私が飼われたがっていると変態思考回路で勘違いした事である。

だけど私自身、餌付けされて心のどこかで男の事を、クラフターを信用してしまっていたのかも知れない。

私が村人からクラフターに転身し、新たに名前を貰ったのはその日の内の事だった。

 

私が男の家……マンションの一室……に上がり込んだ夜、出された握飯を一心不乱に食べる私を見ながら、男は笑いながら色々なことを話してくれた。

男は皆の為に都市の見回りや、その時に必要であろう松明や武具といった地味なクラフトや建材の生産を生業にしていることや、その道を志した理由を。

 

 

駆け出しの時。

先輩達の荘厳な建築物を見て感動した。

しかし己にはその域に到達出来ずにいた。

夢ある想像も実現出来るだけの創造力も。

熱意も努力も己は同志に遠く及ばなかった。

やがて敵わないと建築意欲が消え失せ、それでもせめて役に立つ事をと。

 

 

「良いじゃないですか。 無駄じゃなければ」

 

 

男は眉を下げてはにかんだ。

適当な相槌のつもりだったが、肯定される事に悪い気はしないらしい。

 

因みに私につけた名前は、この緑の衣服から取ったという。

単純で、そのままで。

 

 

「凡庸なセンスです。 敵わないのも納得です」

 

 

そう返しても、彼は激昂する事なく優しく頭を撫でて来た。

大きな右手は温かくて丁寧で。 だけど恥ずかしくて、私は頭の手を退ける。

 

 

「私はペットじゃないですから」

 

 

それから男は嬉しそうに目眩く創造の世界の解説を始めた。

明らかにクラフターを嫌がる眼を向ける私が相手でも、誰かに話せることが心底楽しいとでも言うように。

 

 

この都市の地下にもな、凄い都市が建設されていてな。

それだけじゃないぞ。

未知なる創造への探究だってされている。

きっと世界は天上に散りばめた星の数以上にあって、創造の世界も負けないくらいある筈なんだ。

 

 

今思えば、彼はあの時童心にかえっていたのかも知れない。

 

男は外で素材を集めて、ある程度すると部屋に帰宅し、延々と同じクラフトをしている事が多かった。

朝、私は男と同じ頃に起き、同じ食事を経て共に外と内を出入りして眠りにつく。

その間、男の顔を見ないことはなかった。

優しく彼は微笑みかけて、私はその笑顔に負けて嫌いなクラフトを実践し……採掘したり木こりをしたり、時にはモンスターと戦った。

 

嫌々だった。 でも何処か楽しんでいた。

死にたがっていた私は、もういなかった。

 

でも。

そんな生活は長くは続かない。

 

この先もずっと彼との生活が続いて、そうして世界は回り続けるのだと思い込み始めた。

だけど男はもう先が長くないと本能が警笛を鳴らし始める。

 

その時は何故、と思っていた。

 

クラフターは死ぬ。 だけどまた起きる。 荷物や経験値は失っても還ってくる。

でも何かが違う。

男は日に日に活力を失っていた。

毎日の様にクラフトしていた事もやらず、素材収集にも向かわなくなってきた。

部屋で不気味なまでに棒立ちする時すらあった。

 

 

「今日もクラフト……しないんですか?」

 

 

私は嫌いなクラフターにクラフトを尋ねる。

彼は首をぐりん、と私に向けて疲れ気味に言葉を放つ。

 

 

すまない。 意欲が湧かないんだ。

 

 

クラフターがクラフトを放棄する。

そんな卒爾の事態になっていた。

 

 

「そう……疲れてるんじゃないですか」

 

 

私は何故か震える声で、だけどなるべく冷静沈着に返答し、取り敢えずストックしていた握飯を食べた。

彼は食べなかった。

 

それから何をするでもなく、部屋で共に過ごしていた。

数日が経ち、男がやっと動いた。

私を一目見るなり泣きそうな顔をする。

かつて私に微笑んでくれた男の、たった数日でここまで変わるものかと驚くほどの表情を見て、男の寿命がもう幾ばくもないことを悟った。

 

 

「クラフターは寝て起きて作って……死んでも生き返って、いつだって自由で……ッ」

 

 

私は別れが嫌で、クラフターが嫌いなのに共にいたいと願い始めた。

彼以上に私はくしゃり、と顔を歪ませて彼に擦り寄った。

そんな私に彼はあの時みたいに優しく頭を撫でて云う。

 

 

クラフターは死なず。

ただ消え逝くのみなんだよ。

 

 

彼は別れを告げる様に、そう云った。

ここで初めて私はクラフターが消失する理由を悟る。

 

クラフトする意欲を無くす時が消える時なんだと。

彼はもう、己の存在意義を失っているのだと。

マインクラフターじゃなくなる時が消える時だと。

 

 

「なら何か作りましょう! 建物でもツールでも!」

 

 

私はらしくなく駄々っ子の様に振る舞った。

消える基準も消えない条件も明確には分からない。

だけどと私は必死に作り笑いを浮かべて提案した。

それでも、彼は微笑むばかりで動かない。

それよりもと。

残された時間を私と部屋で過ごしたいと彼は強く訴えた。

私はどうして良いか分からず、結局は彼の望みに応える事にした。

 

彼は日に日に痩せて、薄れていった。

 

食事を摂るのも億劫な様子だった。

ある日を境に、彼は仕切りに己が死んだら次はもっといい同志と付き合えよと言うようになった。

 

ある日から、彼はベッドの上から起き上がらなくなった。

 

その日から、私も彼と同衾して動こうとしなかった。

 

私を見ると泣きながら、お前に会えて良かったよと頭を撫でて呟く彼に「勝手に消えて酷いです」と私は彼の体を抱きしめた。

 

 

それから数日。

 

 

ある朝、私が目を覚ますと同時。

彼はおはよう、元気でなと微笑んで消えた。

抱きしめていた腕の輪の中は、もう彼はいない。

 

私はベッドの上から動こうとはしなかった。

彼はもう逝ったのだと頭では理解していても、どうしても彼の温もりの傍らを離れようとは思えなかった。

 

どれくらいそうしていたんだろう。

外は日が沈み、摩天楼の明かりが揺らいでる。

 

そういえば、と。

あの日、彼が嬉しげに語っていた話を思い出した。

 

 

きっと世界は天上に散りばめた星の数以上にあって、創造の世界も負けないくらいある筈なんだ。

 

 

あの日の彼の笑顔が脳裏に蘇る。

星とは夜空に浮かぶ輝く宝石で、空の向こう側にある、手を伸ばしても届かない、きっととてつもなく広い世界にあるのだという。

 

彼は消えて輝く星々の世界へ向かったのだろうか。

 

ベッドの上から窓へと目をやった。

黒い絨毯の上に鉱石でも散りばめたように、無数の星が輝いていた。

小さくても大都市の明かりに負けぬ輝きだ。

 

彼がいなくなってしまったから、私は生きる為に動かないといけない。

かといって、彼の代わりを探す気があるのか、と聞かれれば答えはNOになるだろう。

彼は彼だ。

地味だけど唯一無二のクラフターだった。

聞かれたら絶対にそう答えよう。

彼が彼らしくいられたなら、私はそれで良い。

ああ、だけど。

もう少し一緒に暮らしたかったかな……。

 

それに言い忘れていた事がある。

 

 

「貴方に出会えて人生、楽しくなったよ。 ありがとう」

 

 

そう夜空に広がる数多の輝きを見つめながら、私は笑った。




その後、彼女は地下へ向かいました。
(辛辣同志の話へ)
恋愛ぽくなった気がします……。
詳細は皆様のご想像にお任せします(殴。

なんだか本編と関係ないけど許して(殴。
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