今回は魔国連邦の訪問者の話。
大商人ガルド・ミョルマイル登場へ。
91.悪人顔と明と暗
「むおっ!? なんという発展した大都市か!」
また騒がしい訪問者が首都にやって来た。
悪人顔で肥満体質。 揺れる腹と顎を持つ。
臨戦態勢のクラフターは当然警戒心を強める。 武装は確認出来ないが、ワンパンで建物を倒壊させる奴が平然といる世界故に。
が、その興奮具合は荒らしではない。 寧ろ褒め称えている。 側に例のトリオもいる事で漸く安心した。
「これ程の人口密度でありながら、ゴミひとつなく嫌な臭いもせず、清潔そのものだ! 建造物群も凄まじい! 天を摩する塔が無数に聳え立てられる技術力! これが人魔の国だと!?」
何より創り上げた街を褒める奴だ。 褒める者に悪い奴はいない。
そう莞爾として頷くと、クラフターは剣を収めた。 判りやすくて良い。 皆そうなら良いのに。
「それだけじゃない! 行き交う者の身なりが良い! 生活水準の高さと治安の良さがうかがえるな……おお見てみろ見てみろ! 店頭に並ぶのも良質の商品ばかりだぞぉ!」
「裏町の帝王とか呼ばれてるから、どんな人かと思ったけど」
「見ろよ子供みたいに無邪気に喜んで」
「この街に案内した甲斐があったでやす。 これもあの人達が色々造ってくれたお陰でやすな」
ただでさえ人口増加傾向の連邦だ。
外来往来激しく、監視網を抜ける村人は数多いる。
住居はビルディングで間に合っているとはいえ、元来の村人はもっと警戒して然るべきだ。 その危機感の無さは元の世界の村人と同等かも知れない。
「フューズ殿からの紹介で商談に向かう事になった時はどんなものかと思ったが、いやはや全く……こりゃあ金のにおいがぷんぷんするわい……ぐっふっふっふ!」
「うわぁ悪そうな笑い! キモ!」
「絶対ろくでもない大人だぜあれ」
「楽園に穢れを持ち込んだ気分でやす」
関所を建造するべきか?
いっそ連邦を黒曜石で覆うか?
いや自由に反する。 景観も悪くしたくない。
仕方ないとは思う。 発展し数が増えれば束縛を受けていく。
一度テーマが決まってしまった街とは他の雰囲気を纏う建造物を建てにくいものだ。
ふと、クラフターはハッとする。
ドワルゴンの出入口は関所だったんじゃね?
「商売人が金好きで何が悪い! 思いおこせば、7つの頃野菜売りの行商がワシの出発点だった」
「なんかはじまった!?」
「最初は生きる為がむしゃらだったが、次第に増えるお客様の笑顔と幸せな姿を見るのが楽しみになってな。 以来三十余年この道一筋よ」
なら入場制限や混雑具合も理解できる。
アレを見た時、当初意味不明だったし割り込んでしまったが、理由があるなら話は別だ。
同時に参考になりそうだ。 入口を複数作り上げ混雑具合を分散させよう。
ただ肝心の検査は村人に任せたい。 村人語も村人の持ち物やスキルも我々は解らない。 餅は餅屋、饂飩は饂飩だ。
「売り手が儲かり買い手が満足し、そして世の中をより良く変えてゆく。 それが大商人ミョルマイルの信じる商売の心得だ」
「流石ですおじさま。 でもその大商人の奢りが屋台の立ち食いって……」
「うどん、旨いっすけど」
「何を言っとる。 ここは割り勘だ」
「ぶっ!?」
善は急げ、としたいものの。
箱を作り中身が無いのでは交通の妨げだ。 ある種の建築違反の刻印を押されては堪らない。 今更感もあるが。
やはり通訳が欲しい。 シズだけでは辛いところだし、意図を伝達したところで受け入れてくれなければ頓挫する。
ジオフロントにいる辛辣同志に頼るのも手だが、彼女はIRPやBB研究に勤しんでいる。 邪魔するのも悪い。
ままならないものだ。 建築とは難儀である。 着工する段階に至るまでに複雑難解な壁が立ちはだかっている。 だが思うようにならないものを思うようにするのがクラフターだ。
こんな苦難はありふれている。 だからこそ愉しもう。 何もかも上手く行ったら詰まらない。
「ところで盟主様はスライムと伺っておるが」
「リムルの旦那っすね。 人の姿をする事もあるけど」
「一方で、この都市を造ったのは例の人達でやす」
「それは街中でツルハシやスコップを担いでる奴らか?」
「そうよぉ。 ナニ考えてるか分からないけどぉ」
「彼らのお陰で大都市が築けたでやす」
「成る程、噂通りの驚異的な技術集団……理屈は分からんが只者では無い雰囲気だな。 思えばジュラの森からブルムンドまでの街道が短時間で整備されておった。 これもまた金の匂いが……いや、同時に危険な匂いもするが」
「そうでやすな。 国主でもあるリムルの旦那の意向を完璧に無視した建築を続けてるでやすし」
「それだけじゃないっす。 他国でも好き放題してるし」
「何かを得る打算も無しに人を助けたりもするから悪い人達じゃないんだけどぉ。 なにせ誰にも制御が出来てないから」
「…………惜しくも彼等に取引を持ち込むのは難しいかも知れんな。 いや、これ程の商機を前に怯んでる訳にはいかん」
「逞しいっすね」
「流石ですおじさま」
「取り敢えず言葉は通じないでやすから、直接交渉するのは別の機会が良いでやすよ」
まだまだこの世界から学ぶべき事は多くある。
今日もツルハシにシャベルに植林に採掘に。
様々な物事に興味を持ち続け邁進する事。 ある種いつも通りの人生であるが、それでこそ我等マインクラフターなのだ。
「あぁ……これ以上ジュラの森が白樺の植林場になるのを防がなければ」
「……あそこで嘆いている美しい女性がいるな。 まるで森の妖精のように神秘的な雰囲気、梢の葉擦れのように癒される語り。 ワシの運営する店に欲しいところだが……この国にも色々と明と暗があるのだな」
「あらゆる面で好き放題してるでやすから」
「不幸にする意図は無い筈なんすが、純粋無垢な行動は時に大人達を傷付けるんだなと改めて思ってます」
「ま、まぁ……ごく短時間で急成長を遂げた国と人達だからぁ。 多くの部分で経験不足なのは否めないわよぉ」
「でも同時に幼く純粋である反面、学習する力と柔軟さに秀でているとも取れるでやす。 今はまだ歪な存在でやすが、いずれ真の意味で肩を並べられると信じ温かく見守っては頂けないでやしょうか? 良き友として末永く」
「……うむ。 何事も見た目では分からんな。 魔物という先入観に囚われて商機を逃す所だった。 真摯さと温かみがありつつ成長著しい国。 それ故に敵も現れるかも知れんが、いずれ古い世界を打ち砕き変えていく嵐になるかもな。 魔物の国の盟主リムル=テンペスト。 一度会ってみたい御仁だ……よし! 今夜はワシの奢りだ!」
先程の肥満とトリオが笑顔で駆けていく。
そうだ。 我々もそうである様に村人達も元気に駆け回っていなさい。
共存共栄の関係。 心が触れ合う心地良さ。
それもまた我々は知っている。