未来の花   作:ZANGE

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第1話


序章 黎明の鬼
黎明の鬼


寒い夜空に紫色の光が満ちゆく

 

彼は誰時

 

山林の獣道に一陣の風が吹き抜けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン、ドクン、ドクン!

 

とうに忘れて久しい感覚

 

死が、死神がすぐそこまで迫っている

 

走れ、走れ、走れ

走れ!走れ!走れ!

 

肺が潰れようと、脚を止めるな!

 

血が流れようと、脚を止めるな!

 

腕を動かせ!足を動かせ!

 

考えるな!

今は何も考えるな!

 

一歩でも前へ!

一歩でも東へ!

 

夜明けは近い

 

あの死神から一歩でも遠くへ逃げる!

 

速く!速く!もっと速く!

 

逃げろ!逃げろ!逃げろ!

 

息がうるさい!

 

心臓がうるさい!

 

黙れ!黙れ!黙れ!

 

逃げろ!もっと早く逃げろ!

 

右へ走れ!

 

左へ走れ!

 

飛び越えろ!

 

追い付かれる、追い付かれる、追い付かれる!

 

死神がすぐそこまで来ているぞ!

 

もうすぐだ

行け!走れ!走れッ!

 

あの山の向こうから

 

僅かに朱色が差してきた

 

もうすぐだ

夜明けは近い

 

太陽が昇る頃には死神も追っては来れまい

 

それだけは間違いない

 

腕がなくなろうと構わない

 

脚がなくなろうと構わない

 

もうすぐ夜明けが来る

 

アレは死だ

 

自分にとっての死だ

 

死から逃げろ!死から逃げろ!死から一歩でも離れろ!

 

本能が恐怖する!

 

頭痛がする!吐き気がする!

 

それでも逃げろ!

死神よりはマシだ!

 

今日を生き抜けば俺の勝ちだ!

 

生きろ!生きろ!生きろ!

 

生きたい!生きたい!まだ生きたい!

 

走れ!走れッ!走れッッ!

 

もう少し、あと少し、夜明けまであと少し!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!!??』

 

ぽーんと地面が飛んで、空に落ちた。

 

見上げれば、首のない身体が、向こう側に立っている。

 

「いやだ・・・まだ、死にたくない・・・」

 

立ち尽くす身体の向こうに、死神が見えた。

 

「た、助けてくれ・・・」

 

残った身体も瞬く間に細切れの肉片に変わり、地面へと散らばり落ちる。

 

「あのニンゲンがいったいーーー」

 

その呟きを拾う死神の姿は既になく

 

朝日の中でぼろぼろと焼け、消えゆく肉片。

 

嘗て誇った鬼としての力が、存在が、全て消滅していく。

 

最後に残った頭部も、差し込む朝日の中で消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・思い出した」

 

顔の至る所に刺青の入った男の呟きが、日陰の中にポツンと落ちる。

 

その刺青は、男の罪を表すもの。

 

男は嘗て罪人だった。

 

しかし、一人ではなかった。

父親がいた。

 

父は、罪を繰り返す子を嘆き、苦しんだ。

 

呵責の末、父親は死を選んだ。

自殺だった。

 

男は一人になった。

彷徨い歩き、流浪の果てに、二人の親子と出会った。

 

何も無い男にも優しく接してくれた、唯一の安らぎだった。

 

男にとって、かけがえのない存在だった。

 

居場所だった。

 

生きる理由だった。

 

もう二度と大切な人を失わないよう、男は強さを求め、磨き抜いた。

 

しかし、それも全て失った。

 

二人の死因は、毒だった。

 

男は、修羅と化した

 

そして鬼舞辻無惨と戦い、文字通り鬼となった。

 

力を求めて、強さを求めて、己を鍛え続けてきた。

 

「何故、強くなろうとしたのか・・・」

 

男は、鬼を殺すつもりなど無かった。

 

鬼は、ニンゲンを喰らうモノ。

 

それは自然の摂理だから。

 

男もまた、鬼であるから。

 

だから、その鬼がニンゲンを喰らう姿を見ても、何も思うところは無かった。

 

その、雪の結晶のような、かんざしを目にするまでは。

 

「・・・恋雪・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も差さぬ獣道を、一陣の風が駆け抜ける。

 

暗い暗い道の先、闇夜のような絶望の心に、黎明の光が微かに灯る。

 

「そうだ・・・俺の名は、狛治」




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