Side: 鬼舞辻無惨
鬼と呼ばれた男
頭を下げて片膝を付き、臣下の礼をとる鬼。
江戸時代に鬼にして以来、強さに貪欲な姿勢はずっと変わらない、猗窩座の姿を流し見る。
「お呼びにより参上致しました。
無惨様」
本日の商談も恙無く終え、ダークグリーンのスーツに白いネクタイ姿のまま、書斎の椅子に座る。
まるで猫のように縦に細長い瞳孔を、手元の資料に向けたまま素っ気なく応じた。
「例のものは、見つけたのか?」
「関東中の山々を調べましたが、存在も確認できず・・・
青い彼岸花は見つかりませんでした」
いつもの結果報告か。
まったくもって代わり映えのないことだ。
「で?」
「鬼狩りの刀は、一年中陽の当たる山で採れる砂鉄と鉱石で作られると聞きました。
そのような場所にも調査の手を広げるべく、
見込みのある人間を一人、育てておりました。
青い彼岸花について、人間の立場で調査をさせようと思います」
なるほど、そういうことか・・・
「ほう・・・それで、何か見つかったのか?」
「調査はこれからですが、無惨様のご期待に応えられるよう、これからも尽力致します」
しかし、遅い。
鬼は死なぬからか、考え方が遅い。
これは私が指導してやらねば。
「お前は何か、思い違いをしているようだな。
猗窩座!」
目の前の存在を押し潰さんと、声に物理的な威圧を込めて放つ。
腕、肩、脚と、猗窩座の身体に罅が入るように。
「たかが人間。
それをたった一人育てたから、何だと言うのだ?」
ひと言放つ度、圧力は次第に増す。
すぐに頭、腹、胸と亀裂が広がってゆく。
「私の望みは、日の光を克服すること。
そのために青い彼岸花を手に入れること。
これまで何百何千と鬼を作った筈だ。
それなのに未だ叶わぬ・・・」
全身、罅のない部位がないほどに圧殺する。
「お前は得意げに人間を育てたと言うが、
たった一人の人間に何が出来る?
なぜもっと多くの人間を使おうと考えない?
数年ぶりの報告がそれだけか・・・」
しかし、ここで容赦はしない。
その誤った認識ごと、思い違いを粉砕してやろう。
「猗窩座!
猗窩座!!
猗窩座!!!」
おっと、私の書斎が血反吐で汚れては面倒だ。
全身の細胞が軋みをあげる程の威圧を止める。
しかし、あの猗窩座が認めた人間か。
人間などどうでもいいが、猗窩座の成長に繋がるなら良かろう。
「だが、人間に調べさせるという発想は悪くない。
引き続き、調査人数を増やし、捜索に当たれ。
足手纏いはいらん。お前が認める人間だけでいい。
下がれ」
「ハッ」
ふと見れば、猗窩座のいた場所には、血の一滴すら落ちていなかった。
なるほど、面白い進化をしているようだ。
「・・・猗窩座」
退出しかけたところへ声を掛けておく。
「・・・?」
「私の前で貴重な血を一滴も流さぬその気概は認めよう。
では行け」
強くなれ。
もっと強くなれ、猗窩座。
「ハッ!」
「・・・鳴女、黒死牟を呼べ」
べん
「ここに・・・」
琵琶の音が鳴り響いた瞬間、
目の前に六ツ目の鬼が臣下の礼を取っていた。
「頼みがある」
「ハッ・・・何なりと・・・」
「ひと月ほど猗窩座の行動を監視し、私に報告して欲しい」
「猗窩座に・・・
何か、ありましたか・・・?」
「このところ行動が読めないことがある。
鬼の呪いを克服しかけているのかもしれない」
「まさか・・・
猗窩座に限って謀反など・・・」
「それはない。真面目で忠実な男だ。
仮にそうだとしても、私に勝てると思うか?」
「お戯れを・・・私に勝てぬ者が・・・
どうして無惨様に勝てましょうか・・・」
黒死牟に対し、視線を送る。
「今は畏まらずとも良い。
・・・と言っても、お前は聞かぬだろうな」
「ハッ・・・
無惨様は・・・主人でありますゆえ・・・
どうか・・・このままで・・・」
「・・・黒死牟、覚えているか?
十二鬼月には、私と出会う前から鬼と世に騒がれていた者がいる」
「お懐かしゅうございます・・・
無惨様が・・・
十二鬼月をお作りになられた時・・・」
「修羅と化した人間が、真実の鬼となった末に至る高み、私はそれを楽しみにしている。
私とは異なる過程で、進化を果たすのではないかとな」
「確かに・・・いつか私を倒すのだと・・・
その日を・・・楽しみにしている・・・
自分がどこかにおります・・・」
「今の猗窩座は、これまでと何かが違う。
何かの殻を破ろうとしている。
あるいは、頸の弱点を克服する可能性もある。
もしかすると・・・
もし、猗窩座が更に強くなろうとしているのなら、止めるな。
ただ、私に知らせるだけでいい」
「承知・・・しました・・・
万が一・・・謀反の疑いありと思わば・・・?」
「その時は、私自ら処断する」
「御意・・・」
本当は猗窩座の事がお気に入りの無惨様。
自分に忠実で、強さに直向きな向上心がある内は、多少の事にも目を瞑るくらいお気に入り。
→上弦の壱、黒死牟がログインしました。
透き通る世界を会得しているため、猗窩座の探知にも絶対に気付かれないチートです。