Side: 猗窩座
「オオオオオオオオオオオオ!!!!!」
哀しき男の慟哭が、寂れた境内に響き渡る。
ガン!
ガン!!
ガン!!!
原型の分からない、潰された肉の塊。
悲しみの拳を振り上げ、殴り続ける者。
声を殺し、その惨劇を見ている事しか出来ない者。
「・・・あ・・・ああ・・・」
「・・・グ・・・ェ・・・」
ガン!
グシャッ
ガン!!
ゴシャッ
殺意を込めた両の拳が振り下ろされる度、
鮮血が辺りに飛び散り、壁を、床を赤黒く染めていく。
「・・・ひ・・・ぁ・・・」
「・・・ガ・・・カ・・・」
ガン!
バキッ
ガン!!
ゴキッ
骨が折れ、肉が潰れる。
生々しい音が、静かな寺院に響き渡る。
「・・・あ・・・ぁぁぁ・・・」
「・・・ア・・・ァ・・・」
ガン!!
ボキッ
ガン!!!
グシャ
ガン!!!!
ブシャッ
地獄は終わらない。
骨は砕け、肉は飛び散り、血は流れても、再生は止まらない。
鬼は打撃では死なない。
地獄は終わらない。
肉を抉り、骨を砕く生々しい感触が拳から伝わってくる。
しかし、今手を止めれば、最後の一人まで殺される。
「オ・・・オオ・・・
オオオオオオオオオオオオ!!!」
男の慟哭は、まだ続いていた。
「弱過ぎる!」
目の前に転がる雑魚鬼。
狛治の格好で歩いていると、偶にこういった雑魚が襲いかかってくる。
「今までよく生き残ってこれたものだ。
お前のような雑魚が」
ゆっくりと瞳を閉じ、開く。
「な?!・・・じ、上弦の、参!?
も、ももももも申し訳ーーーーー」
瞳に刻まれた文字を目にした瞬間、雑魚鬼は綺麗な土下座をキメた。
何度となく見たその光景に、ため息が漏れる。
「この辺りで強い鬼や人間を知っているか?
正直に答えればよし。そうでなければーーー」
「は、はい!しかし、鬼狩りは言うに及ばず、
この辺りには貴方様のような強い鬼はおりませぬ」
「分かった、言い方を変えよう。
お前の知る中で、最も強い鬼か人間は誰だ?」
「は、はい。そうなりますと・・・
御嶽山の方に縄張りを持つ、鎌鼬を操る鬼は私より遥かに強いです」
「ほう・・・」
「敵を近付ける事なく、相手を切り裂く血鬼術・・・
視界に映るものは全て射程圏内です」
「なるほど、珍しいな。
風の血鬼術かーーー」
それだけ聞ければ十分だ。
次の目的地は御嶽山に決まった。
大地を蹴り、一瞬で20メートルほど離れた大樹の枝に移動する。
後には、膝を付いたまま、周囲をキョロキョロと見回す鬼だけが残された。
夜中の山々を、風を切って駆け抜ける。
鬼は夜目がきく。
辺りが見渡せるよう、山林の海を泳ぐように枝から枝へ飛び移ってゆく。
「釣れるのは雑魚ばかり・・・」
無残様との謁見の後から、普段から狛治の和装姿で行動をするようになった。
目的の一つは、鬼からの情報収集。
もう一つは、人間に見つかった時の対策。
先ほどのような雑魚の相手は面倒だが・・・
鬼の姿では、強い人間を探すという目的に反する。
人間にも強者はいる。
柱の称号を持つ鬼狩りなどもそうだ。
才能を持ち、尚鍛え抜いた人間は強い。
俺の求める至高の領域、過去にはその領域に近い者とも相対してきた。
そして慶吾との修行が、人の成長を見せてくれた。
いずれ強くなる人間は、おそらく若い頃から何か強い才能を持っている。
強い人間を、強くなる人間を、侮らない方がいい。
先ほどから、まるで鋭い刃物で力任せに切り裂かれたかのような木が散見される。
鎌鼬の鬼とやらの縄張りなのだろう。
どうやら、根本の幹から切り倒すほどの力は無いらしい。
それは良い。
しかし、この先から感じる鬼の気配。
それに人間の血の匂い・・・
「食事中か?
いや、それにしては・・・」
妙だ。
人間の気配も感じる。
「まさか、戦っているのか・・・?」
探りを入れるか。
『術式展開・羅針』
足下に雪の結晶のような紋様が浮かび上がる。
その紋は大地を伝い、瞬時に広がって消えた。
『鬼・・・1
生存者・・・3
死者・・・7』
「1人は外か。近いな。
・・・会ってみるか」
次回、獪岳死す!