未来の花   作:ZANGE

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第13話
Side: 獪岳


頭痛

その天災は、何の前触れもなく、空から舞い降りた。

 

短髪の黒髪、涼やかな青い瞳、紺色の着流し姿。

一見、穏やかな表情をした人間に見えるが、普通の人間は空から降って来たりしない。

 

ただ立っているだけで、なんて力強い存在感だろうか。

 

この男と比べれば、さっきの鬼なんて、

ただの人殺しでしかない。

 

この男を例えるなら、

たった一人で、木々を薙ぎ倒し家々を吹き飛ばす巨大な台風と向き合うようなもの。

 

相対するだけでも喉が詰まって息苦しい。

 

ジッとこちらを見ていた目と、目が合ってしまう。

瞬間、死を連想したーーー

 

 

 

 

 

つい数時間前、生まれて初めて鬼と出会った。

子供の俺にとってそれは、紛う事なき死の具現だった。

 

確実に殺される!

いやだ!

いやだいやだいやだ!!

死にたくない!

 

まだ死にたくない!!

 

その鬼が、

「ガキ、一人か?・・・馬鹿なヤツだ。

 大人しく藤の香に守られていれば、

 こんなに早く死ぬ事もなかったのに」

と呟いた刹那ーーー

 

心に湧いて来たのは、死への恐怖に勝る、怒りだった。

『なぜ俺が死ななければならない

 なぜ俺が殺されなければならない

 俺を寺から追い出したアイツら・・・

 アイツらのせいで・・・

 俺が殺されなければならないのか!!』

 

「ふーん?

 オマエ、人間にしては良い顔するなぁ・・・

 良い鬼になれる素質がある」

 

『なんだ?鬼になる?

 俺を殺して喰うのでは無かったのか?

 そもそも鬼は人間の言葉を喋るのか。

 会話ができるのなら、何か助かる手はないか?』

 

「だけど、弱いガキはダメだ。

 あのお方がお認めになる筈がない。

 それに、ククク・・・俺はガキの肉が好きなんだ。

 オマエはちょっと育っちまってるが、関係ない。

 恨むなら、こんな所にいる自分を恨むんだな」

 

その言葉を聞いた瞬間、血が沸騰するような怒りが、

冷たい冷たい暗い思考に切り替わった。

 

手をついて、額を地面に擦り付けるようにして懇願する。

 

「頼む!俺を見逃してくれ!

 見逃してくれるなら、たくさん子供がいるところに案内します!」

 

『どうせ死ぬなら、道連れにしてやる!

 俺は、俺を殺そうとしたアイツらを、決して許さない』

 

嗚呼、この瞬間、俺は悪魔に魂を売ったのだーーー

 

『どんな手を使ってでも生き延びてやる!

 そして必ず、強くなる!

 強くなって、俺を殺そうとする鬼も必ず殺す!

 そのために、必ず生き延びてやる!』

 

その言葉に何を思ったのか、目の前の鬼はニタァと笑い。

「よし、案内しろ。

 ただし、嘘だったら・・・

 オマエを生きたまま、指先から一本一本切り落として、全身をゆっくりと貪り喰ってやる。

 ククク・・・どんな声で泣き叫ぶか、楽しみだなァ」

 

もう、引き返せない。

鬼を案内する間、ズキズキと偏頭痛が止むことはなかった。

 

 

 

そして、俺は境内の外縁に焚かれた藤のお香を静かに消し、鬼を招き入れた。

今日まで俺を育ててくれた、みんなの住む、悲鳴嶼さんの寺に。

 

そして、皆が泣き叫ぶ声を聞きながら、今しかないと逃げ出した。

 

 

 

嗚呼、だけど・・・

嗚呼、だけど・・・

やっぱり罰が当たったのだろうかーーー?

 

さっきの鬼が、まるで小さく見えるくらい、死を感じる存在に、またすぐ出会うなんて・・・

 

視界がチカチカと明滅する。

ようやく止まったと思っていた偏頭痛が、またズキズキと頭を蝕み始めた。




獪岳君には、偏頭痛持ちになって貰いました。
身体のどこかに常の痛みを抱えている人というのは、どうしても他人に厳しく当たってしまうものです。それが子供なら尚更。
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