未来の花   作:ZANGE

15 / 97
第15話
Side: 猗窩座


強くなるために

「・・・避けられなかったようだな」

 

ボタボタと夥しい血が溢れ出し、地面を濡らす。

 

「グ・・・ゥゥウガアアアアアアア!!!!!」

 

肘から先の無い右手を押さえながら、目の前の子供は獣のような叫び声をあげる。

 

「所詮、その程度だったか・・・」

 

ザッザッザッ・・・

一歩ごとに体の大きさを元に戻しながら、

痛みに叫び続ける子供の下へ、ゆっくりと近づく。

 

「ああアアアアア!!!

 グゥゥゥウウウウウウウウウウ!!!」

 

亡くした右腕から、ボタボタと命がすり減っている。

その命の前に立つ。

 

「さて・・・

 苦しむのが嫌なら、ひと思いに殺してやる。

 お前はどうする?」

 

ボロボロに涙を流しながら、それでも、子供とは思えぬほどの気概でこちらを睨み付けてくる。

今にも倒れそうな身体にも関わらず、最期の闘気が揺らめいて見えた。

 

「ぐぅぅぅぅ・・・俺は、獪岳・・・

 鬼、俺はまだ・・・生きているぞ・・・」

 

血の気の引いた顔で、それでも闘志を失わない。

子供ながら、生への強い意志を感じる。

 

約定は『俺の一撃を無事に避ける』こと。

 

無事ではない。

無事ではない、が・・・

この人間の持つ闘志までは消せなかったか・・・

 

「・・・そうか。

 ならば獪岳、お前は何を望む?」

 

既に危険な量の血を流している。

目も虚ろで、視界もぼやけてきているのだろう。

望み次第では、彼を認めてやってもいいと考えていた。

 

「俺は、強く・・・強くなりたい・・・

 俺を見下した鬼も、俺を認めない人間も・・・

 絶対、絶対に・・・許さない・・・

 絶対に生き延び・・・てやる・・・」

 

もし生き延びる事ができたならば、この少年はきっと強くなる。

 

「・・・良い闘気だ。

 弱い者を鬼にはできないが・・・

 その気概に免じて、少しだけ手を貸してやろう」

 

そこで獪岳は気を失った。

 

倒れそうになる彼を支える。

血は流れ、肉は削げ、骨が覗く右腕の先を手刀で綺麗に切断し、切断面へと包帯を直接当てて圧迫止血を施す。

 

くるくると包帯を巻く行為が懐かしい。

 

あの人間時代、隣の道場の人間が陰に陽に襲い掛かってきては戦り合う事が多く、日常的に怪我はつきものだった。

俺自身が怪我を負う事は稀だったが、中には闇討ちのような受けざるを得ない攻撃もあり、そんな時は師範が怪我を手当してくれた。

 

俺の包帯を見るたびに恋雪が泣くのには、困ったものだが・・・

今思えば、あの頃から背後の気配にも目を光らせるようになっていたのかもしれない。

 

慶吾との訓練以降、着物と一緒に入れておいたものだが、案外役に立つものだ。

 

「・・・これで、しばらくは大丈夫だろう」

 

気を失ったままの獪岳を優しく背負うと、俺は鬼のいる場所へと歩いて向かった。

 

「・・・獪岳、死ぬな。

 恐怖を知るのは、決して悪いことでは無い。

 その目に焼き付けろ。鬼の姿を。

 そして生き延び、強くなれ」

 

 

 

月が照らす静かな山道を、一人の鬼が一人の子供を背負って進む。

その巨大な気配に、獣たちは身を潜めて物音ひとつ立てなかった。




獪岳は、獪岳。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。