未来の花   作:ZANGE

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第17話
Side: 黒死牟


上弦の壱

「ただいま戻りました、無惨様」

 

六ツ目の剣士が音もなく書斎に現れ、

片膝をついて即座に臣下の礼を取る。

 

「ご苦労。それで?」

 

スーツ姿の男。

鬼舞辻無惨は立ったまま本を読みつつ、報告を聞いていった。

 

「結論から申し上げて・・・

 猗窩座自身に謀反の心配はないかと・・・」

 

「そうか」

 

会話と、パラパラとページを捲る音だけが、静かな室内に落ちていく。

 

「はい、このひと月観察しましたが・・・

 強い人間を探す事と自らの修行・・・

 猗窩座の行動は、それだけでした・・・」

 

「私の見立ては正しかったようだな」

 

「はっ・・・ただ・・・

 人間であろうと鬼であろうと・・・

 強き者に重きを置いていることが・・・

 少々、気掛かりでした・・・」

 

パタンーーー

本を閉じる音がして、パラリとまた次の本を開く音が響く。

 

「人間に情を寄せないかとお前は危惧するわけか」

 

「御意」

 

「構わん。捨ておけ。

 それより猗窩座は強くなっていたか?」

 

「間違いなく成長しております・・・

 これまでの修行で何か掴んだのか・・・

 完全に気配を絶っていた私を・・・

 幾度か牽制してきました・・・」

 

「ほう!

 偶然ではないのか?」

 

そこで初めて無惨は顔を上げた。

 

黒死牟は強い。

上弦の壱、というのは伊達ではない。

修練の果てに会得した感覚で、予知のような先読みができる。

 

気取られるという事は、有り得ない筈だった。

 

「あの距離からの攻撃、偶然ではあり得ませぬ・・・

 元々、闘いに身を置く者・・・

 殺気の感知には優れておりましたが・・・

 人間との交流で、何かを掴んだのでしょう・・・」

 

「なるほど。

 透き通る世界とやらは?」

 

「そこまでは、まだ・・・

 入り口には立っていると思いますが・・・」

 

「未だその程度か。

 血戦をすれば序列が変わると思うか?」

 

「今であれば、必ず私が勝ちましょう・・・

 童磨も相性がいいので負けぬでしょう・・・

 しかし十年後は、正直分かりませぬ・・・」

 

「十年か」

 

本を捲る音が途切れ、主人が思考に浸る時間を、黒死牟は静かに見つめていた。

次に主人が口を開いた時、その実現に全力を尽くすのみ。

 

おそらく台風の目は猗窩座になるだろう。

 

「私は“変化”が嫌いだ。

 殆どの場合、それは“劣化”に他ならない。

 序列が変わるのは、いつも新たな配下が加わった時だけだ。

 序列から落ちた者が、血戦によって地位を取り戻した例を、私は見たことがない」

 

「はい・・・」

 

「しかしごく稀に、“進化”する者もいる。

 私とお前がそうだ。

 あの最強の剣士との邂逅を経てなお、生きること、前に進むことを諦めなかったゆえに、今がある。

 私は弱点の一つを克服し、お前は透き通る世界を会得するに至った。

 だが、黒死牟。再びあのような者がこの世に生を受け、私たちの前に立ちはだかったとして、お前は勝てるか?」

 

「それは・・・

 申し訳ありませぬ・・・」

 

最強の鬼の全身が、ぶるりと震えた。

それは武者震いか、あるいは・・・

 

「良い。許す。

 あのような男が、この世にそう何人も現れてはたまらぬ。

 だが、もしもの時は、私は過去を克服しなければならない。

 そしてあの男を前に立てる者は、今は私とお前だけだ」

 

「はっ・・・」

 

「二人ならば戦えるだろう。

 しかし勝てるかと問われれば、断言できぬ。

 私たちは限りなく完璧に近い生物だが、未だ先があるのだ」

 

その時、無惨の表情に浮かんだのは、怒り。

生涯で唯一、天敵とも言える相手への、冷めやらぬ激情だった。

 

「・・・お前があの男を葬った後、日の呼吸の使い手は二人で念入りに絶滅させた。

 実に、呆気ないものだったな」

 

「はい・・・」

 

「生まれながらの強者は、その技術を伝える事はできても、決して同じ高みに導く事はない。

 鬼狩り共に赫刀の使い手がいないのがその証拠だ。

 故に私は、配下の鬼から進化する者が出てくるのをずっと待っていた。

 才だけでなく、向上心を持ち、努力する精神を持った者を」

 

「猗窩座に、その兆しがあると・・・」

 

「少なくとも、嘗て私に忠実でいながら、

 鬼の呪いを解いた者はいなかった。

 もしかすると、私たちの領域まで這い上がってくるかもしれぬ」

 

「では・・・」

 

「十年も要らぬ。五年だ。

 五年後に猗窩座と童磨の血戦を行う」

 

「はっ・・・恐れながら・・・

 無惨様にお願いしたき儀がございます」

 

「構わん。言ってみろ」

 

「私も、猗窩座と手合わせしたく・・・」

 

「・・・なるほど。

 ではこうしよう。

 上弦の序列を一対一の勝ち残り戦で決める。

 観戦は自由だが、参加できるのは五年後の上弦六名のみ。

 自分より上位者に勝った者、最後まで勝ち残った者には望みの褒賞を取らせる。

 采配は黒死牟、お前に一任する」

 

「はっ!有り難き・・・」

 

「些細が決まれば連絡しろ。

 十二鬼月を集める」

 

「はっ!

 委細、お任せください・・・」

 

「それと、黒死牟。

 時間が足らぬと思うなら、お前から猗窩座に助言しても良い。

 お互い、意地もあろう。

 どうするかは任せる」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「縁壱、お前から唯一逃げ果せた主と共に・・・

 私は・・・過去を乗り越えてみせる・・・

 たとえ、お前の生まれ変わりが現れようと・・・

 お前以外の者に、私は負けるわけにはいかない!

 そうだ・・・そのためであれば私は・・・」




無惨様の雰囲気がちょっと変かもしれません。
もし、唯一認めるビジネスパートナーと二人だけの場があれば、案外まともな事を言うんじゃないかなという妄想です。

子供猗窩座が放った空式の先に、実は黒死牟がいました。
ただ、威力の落ちた攻撃が当たるわけもなく、猗窩座は気のせいだったか?と思っています。

ちなみに黒死牟が本気で殺気を消せば、猗窩座からは絶対に発見できません。
今回は単純に、猗窩座の探知範囲が異常拡大していたことを知らなかっただけです。
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