Side: 悲鳴嶼行冥
「あの人は化け物
みんなあの人が
みんな殺した」
脳内で沙代の言葉が何度も何度も繰り返される。
命を賭して鬼と戦ったというのに、
今の自分は何なのだろう。
「沙代にだけは、労って欲しかった
ありがとう、と言って欲しかった」
誰もいない牢屋の中に、独白が溢れる。
消えた鬼。
血塗れの私。
7人の子供の死体。
まさかと思う沙代の告白によって、
この身は容疑者として牢屋へと入れられた。
碌な弁明もできず、この身は刑を待つばかり。
もし無実が証明出来なかった時、命は無いだろう。
脱力感が全身を覆う。
分からない。
何も分からない。
「子供はいつも、自分のことで手一杯だ」
まだ4歳の子供。
恐怖に怯えるのは、仕方のないこと。
それでも、この仕打ちはーーー
と考えてしまう。
「子供はいつも、周りの事なんて見ていない」
鬼は塵と消え、その存在を証明できるものは何もない。
幸いだったのは、何かを拘束していた痕跡が残っていたこと。
拘束痕のある死体は無かったこと。
「鬼の存在を知る人がいれば・・・」
鬼の伝承を知ってはいても、鬼がどういう存在なのかを知る者はいなかった。
しかも、私は目も見えないのに素手で倒してしまった。
助けてくれたあの人でさえ、初めて見たと言っていた。
この事実が、私の話を余計に荒唐無稽なものとしていた。
もはや誰も信じてはくれないだろう。
「確か、猗窩座、と言っていた。
あの人と獪岳が証言してくれれば・・・」
しかし獪岳は腕を失い、意識を失うほどの出血だったと言う。
医者のいる人里は遠い。
治療に時間も掛かる事だろう。
沙代の証言で、皆が私を恐れていた。
子供たちは、喉を掻き切られて死んでいたらしい。
「私は人殺しではない!
その上、あの子達を殺した罪で裁かれるのだけは!
私には耐えられない!!」
誰も近寄ろうとしない座敷牢。
重犯罪者のみが入れられる牢屋に、悲鳴嶼行冥の叫びが消えていく。
取調べに多少の疑問点はあったものの、
鬼の存在を知らず、また唯一の生存者の証言を鑑みて、
悲鳴嶼の味方をする者は、誰もいなかった。
また、唯一の証人たる獪岳は治療中。
猗窩座も獪岳の治療中は、愈史郎の
「もし珠世様を危険に晒したら、二度と治療しない」
という言葉に従って身を潜めていた。
「あんな小さな子供たちを殺すような
人間が生きているなんて許せない。
人殺しは早く殺してくれ」
そんな声も後押しして、あと一日遅ければ、悲鳴嶼は死刑を執行されるところだった。
だがその日、類稀なる直感に従って、鬼と対する組織の当主は動いていた。
「君が人を守るために戦ったのだと
私は知っているよ。
君は人殺しではない」
『嗚呼、この人は私が一番欲しかった言葉を・・・』
藤棚に紫の花が咲き乱れる場所で、
守り抜いた子供からは化け物と呼ばれ、
人殺しと呼ばれた悲しき男・悲鳴嶼行冥は
鬼殺隊当主・産屋敷耀哉と出会う。
悲鳴嶼行冥、18歳。
産屋敷耀哉、14歳。
この時、悲鳴嶼は産屋敷の立ち居振る舞いを見て、
己より四つも歳が下だとは思えなかったと言う。
第一章 鬼と呼ばれた男-終-
第一章のテーマ。
鬼と呼ばれた男、鬼上司たる無惨様の登場会。
表の主人公は猗窩座。
裏の主人公は悲鳴嶼さんです。