未来の花   作:ZANGE

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第2話
Side:猗窩座


滝行

日本が誇る、三名瀑。

 

なかんずく、そのスケールの大きさ・水流の激しさ・力強さにおいて他の追随を許さぬものと言えば、おそらく大半の者が『華厳の滝』と答えるだろう。

 

約100メートルの高さから降り注ぐ滝の水量は、雨の日には毎秒10トンを超える。

 

古来、滝行は不可能と言われる所以である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水と言うより、ただただ全身を貫くような轟音と、全身をバラバラに打ち砕くような凄まじい水圧を身に浴びながら、男は岩場に立ち構えた。

 

「術式展開ーーー」

 

「破壊殺・脚式・・・」

 

男には、超えるべき目標がいる。

 

今の実力では、確実に勝てないであろう、六ツ目の剣士。

 

幾度となく目に焼き付けた、その立ち姿を幻視する。

 

その剣士と相対した際の重圧に比べれば、こんな滝行など可愛いものだった。

 

記憶を取り戻しても、変わらずに追い求め続けたもの。

それは何者にも、何人たりとも侵されない強さ。

 

嘗ての守るべき者達は、既にない。

 

しかしそれでも、この命に意味があるとするならば、我が一身を賭してそれが何なのか見極めるのも一興。

 

所詮、死して地獄に落ちる身。

人殺しの鬼の身で、あの世で三人に会えるハズもなし。

 

この身は修羅。

 

ならば、至高の領域を目指すもまた良し。

 

「流閃群光!」

 

「飛遊星千輪!!」

 

連続で繰り出される絶技。

その脚技を前に尚、無傷で立てる者はおそらくこの国に5人といまい。

 

幻視の男は、中でも最強の技を持つ一人だった。

 

剣士の技。

触れれば身体が吹き飛ぶような斬撃が無数に襲いかかる。

 

その太刀筋に寄り添う。

夜闇に煌めく三日月のような、無数の月牙の追撃。

 

刀剣でありながら、まるで鞭のように襲いかかり、その鞭の至る所に月牙が生えてくる。

 

正しく、降り注ぐ滝の一粒一粒を全て避け続けるようなもの。

 

全ての斬撃を躱す事は不可能。

 

故に、全てを打ち落とす!

 

「終式・青銀乱残光!!」

 

散らす、散らす。

降り注ぐ全ての水飛沫が、男に当たる事なく散ってゆく。

 

「オオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

もっと速く、もっと多くの打撃を!

 

足りない!

まだ足りない!

 

「オオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

もっと!もっとだ!

 

この程度で至高の領域などと、笑わせるな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡る。

男は鬼を滅した後、その発端となった惨殺現場へと戻って来ていた。

 

何故、ここに戻って来たのかは、自分でも分からない。

 

ただ、なんとなく、足が向いた。

 

それだけの事。

 

そこは、山村の離れにポツンと建つ小さな一軒家だった。

 

ドアは開けっ放しのまま。

おそらく、他に家族はいないのだろう。

日光を避けながら、その家屋に素早く入り込む。

 

血の、むせかえるような臭いが辺りに漂う。

 

腕と内臓の無い大きな死体が1つ。

顔の無い小さな死体が1つ。

 

常であれば、湧き上がるような食欲が、その顔の無い死体を見てしまうと、不思議と消えていくのだった。

 

まだ死んでから、さほど経っていない。

 

今は午前、日が差している。

本格的な埋葬は夜になると決め、男はせめてもと、物言わぬ遺体となった二人を綺麗にしようと思い立った。

 

ふと、思えば、

男にとってその作業は、初めてでは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

床の間に二つ布団を敷き、その中へ二人を静かに寝かせた。

 

顔の位置には、布きれを被せてある。

 

ついでに、血の匂いがしなくなるまで、部屋中の掃除も済ませた。

 

これには相当に時間も手間も掛かったが、

物言わぬ二人を眺めているより、身体を動かしていた方が、気が紛れた。

 

男は手を合わせて目を閉じる。

偽善、という言葉が頭を過ぎる。

それでも今だけは、こうしていたかった。

 

「・・・・・・・・・」

 

そこを通りがかったのは、偶然でしか無かった。

この二人の事など、男は全く知らない。

二人を殺した鬼の事も、男は知らない。

 

ついぞ忘れて久しい、死を悼む心が、そこにはあった。

 

腰元から、遺品となった簪を取り出して見つめる。

芯は真ん中から綺麗に折れ、雪の結晶のようなつまみ細工はバラバラに砕けていた。

 

見るものが見れば、小さな破片さえ欠けてはいない事が分かるだろう。

 

彼女とは違うと知りつつも、男の心は過去へと飛んでいた。

果てしなき強さを求めた、幾百星霜の過去へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、どれだけの時が過ぎただろうか。

 

日没を迎える頃、玄関へ人の気配が立っていた。

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