未来の花   作:ZANGE

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第21話
Side: 猗窩座


本当の言葉 弐

未だ襲撃の痕跡が残る境内に、ポツンと一人佇む幼い影。

行冥の後ろに隠れていた子供が、そこに立っていた。

 

「ーーーーーー!」

 

俺の声に振り返るなり、すぐに近付いてきて、

服の袖を引っ張りながら、何かを訴えようと口を開く。

 

しかし、声が出なかった。

 

口は動く。

手も足も問題なく動いている。

しかし、話す時に喉が動いていない。

 

「ショックで声を無くしたか。

 俺の言葉は分かるか?」

 

「ーーー!」

コクコクと頷いて返す。

 

「よし。声以外は問題ないな。

 獪岳が意識を取り戻した。

 行冥がどこにいったか知らないか?」

 

「ーーー!!」

ふるふると首を振る。

 

眉を寄せたと思ったら、袖を引っ張る力が強くなる。

この辺りに気配がない事は分かっているが、何か情報を知っているのかもしれない。

 

「どっちの方角だ?」

 

「ーーー!」

コクリと頷いて、指を刺した。

 

小さな指が示す先。

人里から離れた場所に、大きな屋敷が建っている。

 

「分かった。お前も来るか?」

 

「ーーー!」

コクコクと頷く。

 

「口を開くな。掴まってろ」

 

軽く沙代を抱き上げると、屋敷へと向けて地面を蹴る。

瞬間、夜空に姿が消えた。

 

大地を蹴り、枝を蹴り、幹を蹴り、風となって夜空を駆け抜ける。

 

 

 

瞬く間に屋敷の前に立っていた。

 

「着いたぞ」

 

そう伝えると、沙代は胸にしがみついていた手を離し、パッと地面に飛び降りる。

辺りをキョロキョロと見渡して場所を確認すると、再び袖を引っ張り始める。

その行き先は大きな屋敷ではなく、離れの方に向かっていた。

 

「なかなか良い度胸だ。

 その先だな?」

 

声の代わりに、大きく頷く。

二人して屋敷の裏手へと回った。

 

人目に付かないような場所に、木造の格子が見えてくる。

 

「・・・牢屋か。

 沙代、ここに何かあるんだな?」

 

「ーーー!」

コクコクと頷いて、袖を引っ張る力が強くなる。

 

「ちょうど誰もいないな・・・」

 

遠慮なく手刀を振るい、木格子を外す。

手足で薪が割れるのだから、この程度のことは容易かった。

 

牢屋の中を眺める。

最近までここに人が閉じ込められていたような、生活の気配があった。

 

よくよく床を見れば、誰かが正座していた跡のようなものが見える。

その正座の跡から、だいたいの脚の大きさが読めてくる。

 

おかしい。

この脚の大きさには見覚えがあった。

 

「まさか、ここに行冥が?」

 

「ーーー!」

コクリと頷く。

 

「人間の悪意が牙を剥いたか。

 しかしそうなると、行冥の命は・・・」

 

「ーーー!!」

ふるふる、ふるふると首を振って、涙を流す。

 

「そうだ。まだ殺されたと決まったわけではない。

 しかしそうなると、この屋敷が怪しいな・・・」

 

「ーーー???」

頭をコテンと傾けて疑問を浮かべる。

 

「行冥が誰かに陥れられたとしたら、

 犯人は土地の権利を狙う人間の可能性が高い。

 そういうヤツらは、大抵大きな屋敷に住んでいるものだ」

 

「ーーー!!!」

プンプン!怒ってます!というような表情。

 

思わず苦笑が漏れる。

しかし、笑ってばかりもいられない。

 

ここから先は、鬼の時間だ。

膝を着き、沙代と目線を合わせる。

 

「沙代、お前は家に帰れ。

 ここから先は俺一人で探る」

 

「ーーー!!」

ふるふる、ふるふると首を横に振る。

 

「危険だ。それに、足手纏いになる。

 お前は家に帰れ」

 

「ーーー!!」

瞳に涙を浮かべながら、首を横に振る。

 

「分かった。後で結果は伝える。

 だから今日のところは家に帰れ」

 

「ーーー!!」

いやいやと、首を横に振り続ける。

 

「・・・何故そこまで嫌がる?」

 

「いえ、いあ、あー。

 あーう、あいお。

 あーいあ、あーいお」

声にならない声が、微かな音となって空気を震わせる。

 

「・・・何が言いたいのか分からん。

 しかし、鬼をも恐れぬ気概は気に入った。

 一緒に来るなら、命の保証は無い。

 それでも付いて来るか?」

 

「ーーー!」

コクリと頷く。

 

「分かった。

 しばらくの間、お前を守ってやる。

 俺から勝手に離れるなよ」

 

「ーーー!」

首に手を回し、抱きついて来る。

 

「・・・チッ」

首にしがみ付く沙代を、そのままくるりと背中に回し、右手だけで背負う格好になる。

 

「いくぞ。

 しっかり捕まって、口を閉じていろ」

 

膝にグッと力を込め、一瞬で屋根瓦の上へと飛んだ。

 

「ここから先は、絶対に物音を立てるな。

 いいな?」

 

「ーーー!」

コクリ。

 

二階の窓を開け、そのまま静かな闇の中に溶け込んでいった。

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