未来の花   作:ZANGE

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第22話
Side: 猗窩座


本当の言葉 参

忍び込んだ天井裏は、人が余裕をもって歩ける広さの空間が広がっていた。

 

つま先を梁にかけ、ゆっくり体重をかけていく。

 

軋む音すらしない。

なかなか良い木材を使っているようだ。

 

強度を確認したところで、

後ろに付いてくる沙代へ、音を抑えて声をかける。

 

「沙代、俺の背に乗れ」

 

「ーーー!」

コクリと頷き、飛び乗って来るのを、右手でしっかりと背負う。

 

振り向かないままに、静かに告げる。

 

「ここからは絶対に物音を立てるな。

 壁や柱にも当たらないようにしろ。

 言う事を聞かずに落ちた時は、死ぬと思え」

 

「ーーー!」

真剣な表情になり、沙代はコクリと頷き返す。

 

「行くぞ」

 

スッ、スッ、スッーーー

 

柱に手を当てながら、物音一つ立てずに梁を渡っていく。

 

スッ、スッ、スッーーー

 

緊張しているのだろう、掴まっている首が少しずつ絞まってくる。

大の大人でも苦しいと感じる締め付け。

 

しかし、数多くの柱の刃が届かなかった上弦の首である。

生半可な硬さではない。

 

「・・・・・・」

 

一通り歩けるところは見終わった。

その中に、どこからも入る経路の見つからない空間がある。

 

『壁か、この先が怪しいな・・・』

 

器用に梁と梁に足をかけ、地に体重を下ろし、

素流の構えを取る。

 

『術式展開・羅針』

 

足下に雪の結晶のような紋様が浮かび上がる。

その紋は木目を伝い、瞬時に家中へと広がって消えた。

 

『やはりそこか・・・』

 

所詮は木材。

柱を傷つけぬよう、静かに真っ直ぐ手刀を振るい、スパッと壁をくり抜いて穴を開ける。

 

音を立てぬよう、くり抜いた壁をそっと横に置いておき、穴の中へと侵入する。

 

いる。

おそらくは行冥の行き先を知る人間が真下にいる。

 

穴を開けて中を覗くのは愚策。

耳をすませば、無駄に大きな声が天井裏まで聞こえてきた。

 

「チッ・・・

 産屋敷とやら、面倒な事を・・・」

 

「だが、これであの土地には誰も・・・

 この一帯は手に入れたも同然・・・」

 

「邪魔者の悲鳴嶼もいなく・・・

 あとは、あの子供さえーーー」

 

ガターーー!

 

止まる間もなかった。

居ても立っても居られず、背中から飛び降りたらしい。

 

「ーーー!?!?」

 

しかし降り立った天板の脆さを知らず。

 

バキバキバキバキーーー!!

そのまま板をぶち抜いて、沙代は部屋に落ちていった。

 

「何事だ!?」

 

まさか落ちるとは思っていなかったのだろう。

上手い着地などできる筈もなく、落ちた際に足を挫いたらしい。

沙代は蹲って、ただ目の前の男を睨み付けていた。

 

『チッ・・・

 これだから後先を考えない子供は・・・』

 

「ーーー!!!」

 

一方、落ちて来た子供の顔を見るなり、驚いた表情から一変。

男は不敵に笑った。

 

「・・・愚かなガキだ。

 わざわざ自分から殺されに来たか」

 

「むーーーーー!!

 んーーーーー!!!」

 

動けず、声もあげられないその姿を見て、男は嗜虐心をそそられたのか、完全に警戒を緩めて話し始めた。

 

「・・・私が憎いか?

 そうだ。あの土地を頂くために、

 無実の罪で悲鳴嶼を捕まえたのは私だ」

 

「むーーーーー!!!」

 

「だが、結果的にそれを成せたのは・・・

 沙代、お前のお陰よ」

 

「ーーー!?」

 

「私たちが寺に辿り着いた時、お前は言ったな」

 

『あの人は化け物

 みんなあの人が

 みんな殺した』

 

「ーーー!?」

 

「まったく、どこまでもバカな子供よ。

 お前達の言う化け物は、どこにも居なかった。

 あの場にいたのは、血塗れの悲鳴嶼行冥と、お前だけ」

 

「ーーー?!」

 

「ありがとう、沙代。

 お前の証言が、悲鳴嶼を容疑者にしたのだ。

 ・・・私の言っていることは、分かるな?」

 

「ぃぇ・・・ぃぁ・・・ちが・・・」

 

「ククク、バカなりに理解したようだな!

 邪魔が入ったお陰で死んではいないが・・・

 もう二度とこの地へ戻る事はあるまい。

 私の計画を遮る者は、もういないということだ・・・」

 

「わた・・・ちが・・・」

 

「最後にキサマを、ここで殺せばな!!!」

 

飾ってあった剣を取り、無慈悲に振り下ろす。

 

「死ね!!!」

 

 

 

パキィィィィィィィィィィイイイン!!!

 

振り下ろされた刃が半ばから折れ、壁に突き刺さる。

 

「然らば」

 

貫手による刺突。

 

「カハッ・・・なん・・・だ・・・と」

 

ズン!

仰向けに倒れた死体。

胸には、綺麗な穴が開いていた。

 

「バカは貴様だ。

 行冥は、お前のような弱者がどうこうできる者ではない」

 

何一つ理解できなかったのだろう。

目を見開いたまま倒れているニンゲンは放っておいて、沙代の方を振り返る。

 

「まったく、落ちたら死ぬと伝えたーーー」

 

「ひ!・・・ヒュ・・・ヒュ・・・」

 

呼吸すらままならず、こちらを見るなり、ガタガタと震えるだけの子供がそこにいた。

 

「・・・そうか、俺が怖いか。

 ・・・だろうな。それが普通だ」

 

左手の中には、まだ赤く脈打つ心の蔵が握られている。

赤い血の滴るそれを掲げ、ポタポタと垂れる血を口に含む。

 

「・・・ふぅ。

 こんなクズの血でも、人間の血は、

 いったい何年ぶりになるかーーー!?」

 

 

 

ドクンーー!!

 

赤い・・・

 

紅い・・・

 

久し振りのニンゲンの血ーーー

 

「ぐ・・・これは・・・!?」

 

心臓が強く脈打つ!

 

抗えない衝動が全身を駆け抜けていく。

 

まるで鬼になったばかりの頃のように、流血から目を離せない。

 

「く・・・グ・・・」

 

ドクンーーーーー

 

『血を啜れ!』

 

ドクンーーーーー

 

『血を喰らえ!!』

 

ドクンーーーーー

 

『ニンゲンの血を喰らえ!!!』

 

「カッ・・・ガ!・・・グ・・・」

 

視界が真っ赤に染まる。

全身の血の一滴に至るまで、鬼の食人衝動が身体を動かし始めた。

 

『ニンゲンの血を喰らい尽くせ!!!』

 

「グゥ・・・グ・・・ガァ!」




唐突な鬼ムーブ!!
たぶん、新鮮なハツが嫌いな鬼はいないと思うんだ。
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