未来の花   作:ZANGE

26 / 97
第26話
Side: 猗窩座


悪巧み

大の男を背負った和装の鬼。

懐に荷物を抱えた和装の人間。

 

不思議な組合せの二人。

珠世達の隠れ家へと襲来した。

 

「珠世!愈史郎!

 急患だ!!開けてくれ!」

 

「すみません!

 血が流れ過ぎて、今にも死にそうなんです!」

 

愈史郎はイライラしていた。

 

毎度毎度、どこから患者を拾ってくるのか。

何の連絡も寄越さず、いきなり現れては治せと言うばかり。

 

子供に、幼児に、今度は何だ?

ただでさえ沸点の低いこの男は、有り体に言えば怒っていた。

 

「五月蝿いぞ!猗窩座!!

 何度も言うが、珠世様を危険に晒す真似はやめろ!

 いったい今度はどんな患者・・・だと!?」

 

愈史郎の背後から、スッと珠世が姿を表す。

担がれている人間を一見して、目を見開いた。

 

「!!・・・この方は・・・」

 

「その隊服、鬼殺隊の人間じゃないか!

 そんな危険人物を連れて来るな!

 珠世様を危険に晒す気か!?」

 

喚き続ける愈史郎に対し、猗窩座の斜め後ろに立っていた慶吾が腰を低くして訴える。

 

「すみません!すみません!

 ウチの師匠がすみません!!

 でもお願いします!!

 この人を死なせるわけにはいかないんです!」

 

「この髪、この羽織。炎柱の一族ですね。

 しかし柱ともあろう方が、いったいどうして?」

 

ぺこぺこと頭を下げる弟子に対して、無愛想なこの男。

「ハァ」とひと息吐くと、バツが悪そうに顔を逸らして答える。

 

「・・・すまん。調子に乗ってやり過ぎた。

 治せるなら、なんとか治してやって欲しい」

 

もちろん、その言葉を聞き逃す愈史郎ではない。

 

「はぁぁぁぁあああああ!?

 加害者はお前か!?」

 

至極もっともな反応である。

不詳の弟子は、今度は地面に頭を埋め込む勢いで頭を下げる。

 

「すみません!すみません!ホントすみません!

 吹き飛んだ手足は氷に漬けて持って来ました!

 これでなんとか繋げられないでしょうか?

 この人の奥様は不治の病で死にそうなんです!

 まだ小さなお子様もいるんです!

 だから何とか治してあげてください!!」

 

「・・・不治の病に、子供か。

 この男が背負っているものは分かった。

 しかし珠世様に危害を加える可能性がある人間をーーー」

 

そこに、小さくも確かな声が響く。

 

「愈史郎」

 

「はい!」

 

珠世の瞳は目の前の男ではなく、どこか遠くを見ているようだった。

その焦点が、愈史郎へと向けられる。

 

「そういう事情であれば、できる限りのことはやってあげましょう」

 

「分かりました!珠世様!」

 

そのあまりにも綺麗な手のひら返しに、慶吾の顔が怪訝に歪んだ。

 

「・・・師匠、なんなんですか?コイツは?」

 

耳打ちする慶吾に対し、猗窩座は諦めたように答える。

 

「・・・そのうち慣れる。

 腕も良いし、悪いやつではない」

 

そんなコソコソ話を鬼の聴覚が聞き逃す訳もなく。

愈史郎の罵声が飛んだ。

 

「そこの馬鹿二人!

 無駄に喋る暇があれば患者を運ぶのを手伝え!」

 

「!そうでした。師匠、急ぎましょう!」

 

「分かった。

 珠世、恩に着る」

 

無愛想だが、猗窩座の声には僅かな安堵の色が混じっていた。

 

「私はまだ死ぬわけには参りません。

 もしこの方に私が斬られそうになったらーーー」

 

「俺が必ず止める」

 

「・・・分かりました。

 あなたの強さを信じましょう。

 でも、次はやり過ぎないでくださいね」

 

そう言って微笑む珠世に、猗窩座は再びバツが悪そうにそっぽを向いた。

 

「猗窩座ぁ!!

 珠世様と楽しく喋ってないで、

 とっとと患者を治療室に運べ!!

 今夜は徹夜だぞ!!」

 

「では、よろしくお願いしますね」

 

「ああ、分かった」

 

勝手知ったる他人の家。

猗窩座は真っ直ぐに治療室へ向かった。

背中に残る微かな命の灯火を感じながら。

 

「槇寿郎、死ぬな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、それとーーー」

 

「なんだ?」

 

「この方の治療がひと段落ついたら、一つお願いがあるのですが」

 

そう言って振り返る珠世の表情は、悪巧みを企てる鬼そのものだった。




ここから少し話が飛びます。

ちなみに慶吾が平謝りしているのは、事の発端が自分にあって、もし二人が戦えばこうなると分かっていたから。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。