Side: 槇寿郎
い草の香る和室に、綺麗な声色が響き渡る。
「槇寿郎。あなたが無事で本当に良かった」
その言葉を耳にするだけで、心地良さに心を揺さぶられる己がいる。
綺麗な顔立ちに、14とは思えぬ佇まい。
着物に羽織姿の若い男が目の前に座している。
稀代の鬼殺隊当主、産屋敷耀哉。
まるで未来を見通すかのような人並外れた直感と決断力で、資産を大きく伸ばし、鬼殺隊を非公式ながら政府にも認めさせた傑物。
その頭脳は全ての隊士の顔と名前を記憶しており、声の持つカリスマ性も相まり、クセの強い隊士達や柱達の心の支えとなっている。
「百年以上、情報すら掴めていない上弦の鬼。
その参と交戦したと聞いて、ずっと心配していた。
さあ、私にも元気な顔を見せてくれないか?」
尊敬すべき主人の言に、じっと下げていた面を上げる。
「じゃあ、聞かせてくれるかな。
ここ数日で、あなたの身に何があったのかを」
「はい、実は・・・」
一度は失ったはずの両足と右手。
下弦の鬼とは比べ物にならない強さを持つ、真の上位者。
圧倒的な強さに加え、驚嘆すべき再生力を持つ上弦の参。
義手義足ではない、本物の自分の手足の感覚。
それを施した珠世という鬼と、そこで見た信じられない出来事について、槇寿郎は詳らかに話した。
信じられないけれども、事実として起こったこと。
それに伴って生じた心の変化。
悩みに悩んで、それでも答えの出ない問いを、ずっと心に問いかけながら。
「私の見たことは、以上になります」
全てを語り終えると、槇寿郎は剣士の命とも言うべき刀を目の前に置き、再び頭を下げた。
「私の処分は如何様にも。
ただし、家族には寛大な処置を賜りますよう、伏してお願い申し上げます」
目の前に置かれた刀を、産屋敷耀哉は大事そうに撫でた。
「ありがとう、話を聞かせてくれて。
槇寿郎の話を、私は全て信じるよ」
「しかし、お館様ーーー」
産屋敷耀哉は口に人差し指を当てて、槇寿郎の言い分を遮ると、ゆっくりと話し始めた。
「今から話すことは、時が来るまでは、私と煉獄家だけの秘密にして欲しい。
実は、珠世さんの存在は産屋敷家にも伝わっているんだ。
始まりの呼吸の剣士がいた時代、彼女はどうやってか無惨の呪いを解いたらしい。
そして今も、鬼舞辻無惨に復讐するために、この国のどこかに潜んでいると」
「そんな、まさか・・・
しかし、そう考えれば腑に落ちる点が・・・」
「私は槇寿郎の話を聞いて確信したよ。
珠世さんは鬼だけど、私たちの敵じゃない。
無惨討伐に際しては、寧ろ協力し合える余地がある」
「しかし、彼女もまた鬼です」
「そう、その通り。だから、槇寿郎。
時が来るまでは内緒にしておいて欲しい。
直接見た君はともかく、他の柱は納得しないだろうからね」
「はい。ことは隊の士気に関わります。
それに、彼女は例外中の例外でしょう。
彼女のような存在が他にもいるとはーーー」
「そう、まさにそこなんだよ、私が聞きたいのは。
次は私から質問をしてもいいかな?」
「はッ!何なりと」
「上弦の参、猗窩座。
彼は、私たちの敵なんだろうか?
それとも、味方になり得るのか?
直接交戦した君の率直な意見が聞きたい」
「お館様、それはーーー」
それは悩みの中心の、正に核心だった。
意を決し、お館様に話を切り出そうとした瞬間ーーー
トントントンーーー
襖が叩かれる音がして、あまね様の声が聞こえてきた。
「お話中、失礼致します。
煉獄瑠火様がご到着されました」
煉獄瑠火さん。
公式情報が少な過ぎて、妄想の産物になりそう。
割り切って、進めるしか。