未来の花   作:ZANGE

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第28話
Side: 槇寿郎


煉獄夫妻とお館様

「来たようだね。ちょうど良いところだから、

 そのまま部屋まで入ってもらえるかな?」

 

「承知致しました」

 

あまね様の声が聞こえてから2分ほど経った頃、下座側の襖の向こう側から、声がした。

 

「お館様、失礼致します」

 

襖を開けた先には、座礼をした着物姿の女性。

 

その女性が顔を上げると、お館様の息を呑む音が聞こえた。

 

不治の病による闘病生活が嘘のように、血色の良い肌色。

艶やかな口元に、肌荒れ一つ見当たらない顔立ち。

後ろで括った長い黒髪は、若い頃の艶を取り戻したかのよう。

 

穏やかな中に一本芯の通った、凛々しい赤い瞳は変わらないまま。

蒼い花柄のあしらわれた着物の裾から覗く手は健康そのもので。

その体は力強い若さに満ち溢れていた。

 

「・・・本当に、瑠火・・・なのかい?」

 

ポカンと口を開けて固まる、お館様の珍しい姿。

 

「はい。正真正銘、煉獄槇寿郎の妻。

 瑠火でございます」

 

その言葉を耳にして初めて、お館様はゆっくりと頷いた。

 

「そうか、そうか・・・

 良かった、瑠火。良かった、槇寿郎・・・」

 

僅か4歳にして当主の座に就かざるを得なかったお館様は、常に落ち着いていて周囲に慌てる姿など見せた事がない。

そんな、滅多に感情を見せないお館様が、声を震わせていた。

 

 

 

 

 

お館様の希望で、お館様の目の前に槇寿郎と瑠火は並んで座っていた。

 

「私は今、奇跡を見ているのだろう。

 だけど、瑠火。君の姿を見て感じたことをありのまま言うけれど、その身体には、何か秘密があるような気がする。

 ・・・ここでの話は他言無用にするから、教えてくれないか」

 

瑠火はチラリと槇寿郎を見る。

槇寿郎が頷き返すのを見て、覚悟を決めた。

 

「仰る通りです。

 私の肺はほとんど壊死しかかっており、その治療には、僅かですが鬼の細胞が使われたと聞きました。

 そのため、直接日の光を浴びても死にませんが、1時間以上日向にいると少しずつ呼吸が苦しくなり、やがて満足に動けなくなります。

 とは言え、日傘を差していれば長時間の外出も出来ますし、鬼舞辻無惨の呪いもありません。

 そしてもう一つ、この身体は血を必要としません。

 普通に年老いていきますし、日輪刀でなくても、斬られれば死ぬそうです」

 

「そうか・・・

 教えてくれてありがとう。

 槇寿郎も、死ぬほど悩んだだろう。

 よく話してくれたね」

 

槇寿郎はその言葉に頭を下げる。

 

「買い被りです、お館様。

 笑って下さって構いませんが、私は愛する人を失うことが何よりも、死ぬよりも怖かった。

 今ここにいる事さえ、妻が一緒でなければ、果たしてどうだったか・・・」

 

瑠火もまた頭を下げる。

 

「私も同じです。お館様。

 鬼の力を借りてまで生きることの意味・・・

 私もまた、幼い子供たちがいなければ、夫と共に果てていたことでしょう」

 

お館様は全てを包み込むように、優しく語りかける。

 

「槇寿郎、瑠火も・・・良いんだよ。

 我ら一千年の悲願は、全ての元凶たる鬼舞辻無惨と、人に仇なす鬼。

 それに相対するものは、姿形がどうあれ、私は同志だと思っている。

 珠世さんのようにね。

 今後もし、鬼の中から鬼殺隊の者が現れたとしても、その心が善で、人を食べないのであれば、私は受け入れるつもりだよ」

 

お館様の前にいると、今まで不安だった心が安らぐのを感じる。

その心のままに、深く頭を下げる。

 

「お館様のお心に、深く感謝致します。

 煉獄家一同、本日より尚一層、お館様と共に死力を尽くす所存です」

 

お館様は微笑んで「ありがとう」と言うと、改めて居住まいを正した。

 

私たちにも緊張が走る。

 

「私の代で、必ず鬼舞辻無惨を殺す。

 これは私の決意であり、そのためならば、この身を擲つ覚悟がある。

 そして今、状況が動きつつある。珠世さんの事だけではない。

 鬼舞辻をも動かしかねない、大きなうねりのようなものを感じるんだ」

 

お館様の直感が、何かを掴もうとしている。

それは、どれだけ強い柱であろうと、どれだけ権力を持った者であろうと、余人には到底測り得ぬもの。

 

「実は最近、とても有望な子が鬼殺隊に入ってくれたんだ。

 悲鳴嶼行冥、というんだけれど、初めて鬼と遭遇して、夜明け近くまで素手で殴り続けたらしい。

 しかも彼、盲目なんだ。信じられないだろう?

 でも私は彼から直接その話を聞いて、これは真実だと感じた」

 

「正直、俄には信じがたい話ですが、他ならぬお館様の直感であれば、信じる他ありませぬ。

 いずれその者が柱となった時、全ては証明されるでしょう」

 

「そうだね。その行冥が言っていたんだ。

 夜明けの直前、既に殺されたと思っていた子の一人を連れて、助けに来てくれた人がいたと。

 その者は猗窩座と名乗り、鬼の生態を熟知していたらしい」

 

言うなれば、幼少から常に死と隣り合わせに生きてきたお館様だけが、生きるために身につけた閃きの力。

悲鳴嶼行冥という有望な者を見つけられたのも、常軌を逸するように神経を使ってのことだろう。

 

「瑠火。率直な意見を聞かせて欲しい。

 君から見て、猗窩座という鬼はどう感じたかな?」

 

「猗窩座、狛治さんのことですね・・・

 とても優しく、そして悲しい方だと思います」

 

「狛治と言うのは?」

 

「彼が人間だった頃の名前です」

 

「そうか・・・

 人間時代の名前を使う鬼なんて、初めて耳にしたよ。

 彼は、人間の記憶をちゃんと覚えているんだね」

 

「はい。そのようです。

 病弱な父親をよく看病していたと言っておりました」

 

「たしかに、今思えば、妙に手慣れていたな」

 

「今日は体調が良いんだ。

 二人とも、少し長くなっても構わないから、

 その話、詳しく聞かせてくれるかい?」

 

「はい。

 では、私が目覚めてから、初めて狛治さんとお会いしたところからーーー」




煉獄瑠火。
彼女の存在抜きに、槇寿郎を魔改造する事は出来ないと思います。
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