未来の花   作:ZANGE

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第29話
Side: 瑠火


狛治さんと慶吾さん

「だから、師匠〜。

 その件はもう何度も謝ってるでしょう?

 いい加減に許してくださいよ〜」

 

小動物のように、狛治さんの後ろをちょこちょこと歩き回る少年。

 

「何度も言わせるな、慶吾。

 俺は許すと言っているだろう。

 強くなるためには、お前が何をしようが構わない。

 強い柱と戦えた事にも感謝している」

 

狛治さんの方は、慶吾と呼んだ少年の方を見向きもせず、ズンズンと歩いていた。

 

「だから、そこじゃなくて〜。

 戦いを止めた事、絶対根に持ってるでしょう?」

 

「それは・・・・・・許さん」

 

ボソッと囁くような呟きはしかし、離れていても普通に聞こえる声量である。

それだけで、表裏のない人柄が垣間見えた。

 

「ほら〜〜〜〜〜」

 

「しつこいヤツだ。

 これでも感謝している。

 俺は槇寿郎に死んで欲しく無かった。

 圧倒的な力で捩じ伏せるつもりだった。

 だが、最後の奥義・・・槇寿郎は、死ぬつもりだった。

 もしお前が止めなければ、珠世でも治せたかどうか・・・」

 

「師匠・・・

 それって、タテマエですよね?」

 

ピキッ。

そんな音が聞こえてきそうなほど、狛治さんのこめかみに青筋が立っていた。

 

胸の前で、左手の指を一本一本曲げてパキパキと鳴らす。

 

「ほう?

 今夜は久し振りに100人組手と行こうか」

 

「いーやーでーすー!!

 100人って、全部師匠じゃないですか!?」

 

「そうだが?」

 

「『そうだが?』じゃないですよ!

 どこが100人組手なんですか!?」

 

「ちゃんと構えや技を変えているだろう?」

 

「あーもう!これだから脳筋の人たちは!!」

 

「大丈夫だ、慶吾。すぐに慣れる。

 何事も登山だと思うから疲れるんだ。

 底無し穴に転がり落ちると思えばいい」

 

「だから、いーやーでーすー!!

 それってオレに選択肢は無いって事じゃないですか!?」

 

「慶吾、弟子に選択肢などある筈がないだろう?

 もしそんなものがあるとしたら、それはお前が弟子でなくなった時だけだ」

 

「あー」「うー」と頭をガシガシ掻きながら、慶吾くんは折れた。

 

「あー、もう!分かりましたよ。

 じゃあ夜のために、今から準備して来ます!

 新しい罠、楽しみにしておいてくださいよ!」

 

「ようやく諦めたか。怠け者め。

 お前こそ、覚悟しておけよ。

 槇寿郎には不発に終わったがーーー」

 

「オレを殺す気ですか!?!?」

 

狛治さんは慶吾くんに対して、ニッコリと笑った。

 

「勘違いだよ、慶吾。

 俺はお前の限界を見極めているだけ。

 お前が手を抜かなければ死ぬことはない。

 それに・・・」

 

「それに?何ですか?」

 

「ここには珠世もいる。

 俺には医術の事は分からないが、槇寿郎のように、手足が欠損したくらいでは死にはしないだろう」

 

 

 

『あの人の手足が!?』

 

そう思った時には、私は動き出していました。

一人用の病室の外に出ると、狛治さんと慶吾くんが並んでいて、驚いた様子でこちらを見ていました。

 

「あの人は、槇寿郎さんは無事なの!?」

 

しかし、その時は分かりませんでしたが、治療直後の身体です。

急に視界がぐるっと歪んだかと思うと、急に床が近付いてくるのをどうすることもできませんでした。

 

 

 

「慶吾!珠世さんだ!」

 

「分かりました!」

 

痛みはありませんでした。

おそらく、倒れる私を狛治さんが支えてくれたのだと思います。

 

「・・・すみません。

 お手間を、かけて・・・」

 

意識を失う前に視界に映ったのは、狛治さんの悲しげな表情でした。

 

「何故、謝る?

 病で一番苦しいのはお前だ。

 ・・・今は無理をするな」




分かりづらいですが、瑠火は鬼の細胞を取り込むことによって、いくつかの能力を得ています。
部屋の外の様子が視えたのも、そのお陰です。
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