未来の花   作:ZANGE

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第3話
Side:猗窩座

一人称が分かりづらいですが、そのままお付き合いください。


走馬灯

「この家の者か?」

 

男はそう尋ねたが、返事が無い。

 

夕闇に立つ背格好から見るに、兄弟だろうか。

 

昨日までの男であれば、おそらく無視していた。

場合によっては殺していたかもしれない。

 

しかし今はそういう気分ではなかった。

もし家族であれば、面倒だが、せめて経緯くらいは説明してやるかと、男が立ち上がった瞬間ーーー

 

ダンッッッ!!!

 

地面を踏み締める音がしたかと思うと、男の背に拳筋が迫っていた。

 

ヒラリ、と。

攻撃を軽々と躱し、男は部屋の奥へと降り立つ。

 

少し驚く。

『まだ若い人間でありながら、思い切りの良い事だ』

 

しかし男にとっては、その程度。

他の人間と比べて少しばかり強い程度の事は、脅威でも何でも無かった。

 

子猫が戯れついて来るようなものである。

 

追撃もない。

見れば、その人間は遺体の前に立ち尽くし、全身をぶるぶると震わせていた。

 

その光景に、男の記憶に漣が走る。

 

ふと、人間からポツリと呟きが漏れた。

 

「・・・嘘だろ、父さん・・・あゆみ・・・」

 

男は口を開きかけ、そこで動きを止めた。

 

先ほどから記憶がざわざわと騒めく。

走馬灯のように、過去の光景が目の前の光景と重なって見えていた。

 

攻撃を受けたのだから、反撃しても良かった。

そうすればこの人間は一瞬で挽肉になるだろう。

 

しかし、その選択肢はすぐに消えた。

 

人間から、悲しみが伝わってくる。

 

この人間は既に察している。

ただ、少しでも長く、現実から目を逸らしているだけだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

人間は無言のまま、遺体を確認しようともしなかった。

ただ、何かを耐えるように立ち尽くしている。

 

古い記憶と重なる。

弱い人間は、嫌いだ。

 

ややあって男は口を開いた。

 

「その二人は、鬼に喰われて死んだ」

 

 

 

ゆらりと、幽鬼のような表情で此方を振り向いた人間。

その瞳の奥には、どこまでも空虚な怒りが満ち満ちていた。

 

『少しばかり武道の心得があるようだが、まるで子供だな・・・だが・・・』

 

男には、人間の感情が手に取るように理解できた。

出来てしまった。

 

一つボタンを掛け違えれば、猛獣のように向かってくる事も、決して止まらない事も、視線から全て察せてしまった。

 

だからこそ、突き放すように男は言い放った。

 

「悔しいか?だが、それはお前が弱いからだ。弱い者には何の権利も選択肢もない。圧倒的な強者の前では何も守れない。それがこの世界だ」

 

人間の動きがピタ、と止まる。

 

まだ爆発させるには怒りが足りないと、

熱い感情がグツグツと煮詰まっているのだろう。

 

嵐の前の静かさのような、ピンと張り詰めた空気の中、男は続けた。

 

「強くなければ、何も持って帰って来られない。

 弱い者は、生きることさえ許されない。

 弱者は何も守れない!」

 

男は忌々しい記憶を全て思い出していた。

だから、ほんの少しだけ、人間がどんな反応をするのかに興味があった。

 

「・・・お前は何をしていた?」

 

「・・・見殺しにした、と言ったら?」

 

弱い人間は、何も守れない。

故に男は、少しだけ人間を試す事にした。

 

「殺す!」

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