未来の花   作:ZANGE

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第30話
Side:瑠火


狛治さん 前編

「この修行バカども!!!」

 

その日、溜まりに溜まった愈史郎さんの怒りが、屋敷全体を揺るがした。

 

「お前らが次々に患者を連れて来るから、珠世さんも俺も大変なんだ!

 いったい誰がみんなの食事まで見ていると思っているんだ!!

 慶吾と獪岳!お前らは働いて日銭を稼げ!!

 猗窩座と沙代!お前達は患者の対応や機能回復を手伝え!!

 従わない者は、明日から飯抜きだからな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、またここに来たのですか?」

 

「・・・これも仕事だ。

 槇寿郎は死んでも俺の助けは受けたくないと言う。

 沙代とは仲良くやっているようだが」

 

「夫は柱の中でも上位の強さでした。

 剣士として、男の意地があるのでしょう。

 敗れた相手に助けられて、今は戸惑っているだけだと思います」

 

「そういうものか」

 

「あなた、勝負に負けた事は?」

 

「・・・チッ」

 

「あるようですね。

 それなら、その負けた相手に手を差し伸べられたら、どうしますか?」

 

「・・・・・・・・・殺す」

 

「ほら、そういうことですよ」

 

「忌々しいが、理解した」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

窓から覗く外の風景には、

朝からしとしとと雨が降り続いていた。

 

無言の空間に、静かな雨音が聞こえてくる。

 

そんな静かな時間も、すぐに終わる。

きっとこの人は、人と話すのが好きなのだろう。

 

「元気になったら、したい事はあるか?」

 

「そうですね。

 一番は子供達の成長をこの目で見届けることです」

 

「お前たちの子か。きっと強くなるだろう。

 名前は何だ?覚えておきたい」

 

「それは・・・今は内緒にしておきます」

 

「そうか、警戒心の強い事だ。

 だが『今は』という事なら、いずれまた聞くぞ」

 

「ええ、それで構いません。

 あなたと、珠世という方は、他の鬼とは少し違うようですから」

 

「当たり前だ。

 そこら辺の雑魚と一緒にするな。

 珠世も、あれほどの腕を持つ医者はいない」

 

『そういう意味ではないのですが・・・

 まぁ、良いでしょう』

 

「私は、いつ夫と会えますか?」

 

「病気が完治したと珠世が判断した時だ」

 

「そうですか・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・その病気は感染る可能性があると聞いた。

 俺や珠世は平気だが、槇寿郎は人間だ。

 完全に治ったと判断するまで待て」

 

「・・・分かっております。

 それでもせめて、ひと目と思っただけです」

 

「・・・分かった。

 見るだけで良いんだな。

 それなら、少し待っていろ」

 

「え?あの・・・?」

 

そのまま何の説明もなしに、すたすたと部屋を出て行ってしまう。

 

それから、外で騒がしい音が聞こえてきたと思ったら、今度は赤色の奇妙な目の模様が描かれた紙切れを持って戻ってきた。

 

「あの、何を・・・」

 

「少し目を瞑っていろ」

 

夫をも退けた鬼が近づいてくる。

いざ生きられると思ったら、また子供達に会えると考えたら、私に触れようとするその手が怖かった。

 

でも、実際に額に当たる手の感触は、まるで昔から病人の看病に慣れているかのような優しい手つきで、不思議と今触れているのが鬼だという事を全く感じさせなかった。

 

夫のように、日々の鍛錬を欠かしていないことが分かる手。

 

「目は瞑ったままでいい。

 見えるだろう?」

 

目は閉じたままだと言うのに、視界が広がっていく。

『これは、廊下?

 廊下を歩いているの?

 扉の取手が目線より上にある・・・』

 

低い視点は、まるで子供の視点で世界を見ているかのよう。

 

いえ、実際に視界を共有しているのでしょう。

視界の低さを考えると、おそらく沙代ちゃん。

なんて不思議な・・・

これが、血鬼術・・・

 

そして、扉を開いた先には、ベッドの上に座って外を眺めている、夫の姿があった。

こちらを見ると、少し表情が和らぐ。

 

何かを話しているようだけど、音は聞こえない。

見えるだけ。

 

それでも、四肢の殆どを失う重症だったと聞いて、ずっと心配していた心の重荷が、すっと溶けて行くのを感じる。

 

『ああ、お元気そうで良かった・・・』

 

手も足もあるその姿に、じんわりと心が満たされていく。

 

 

 

 

 

そうしてどれくらい、目を閉じていたのか分からない。

 

ふと目を開くと、病室にあの人の姿はなかった。

 

『本当に変わった鬼・・・

 害意もなければ、血の臭いもしない。

 いったい、どうして鬼になったのだろう』

 

ふと、外に目を向ける。

番傘を手に雨道を歩く和装姿がチラッと見えたような気がした。

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