未来の花   作:ZANGE

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第31話
Side: 瑠火


珠世さん

まん丸な月が、敷地を明るく照らし出していた。

 

獪岳さん、慶吾くん、沙代ちゃんの三人が、あの人と対峙している。

夫の鍛錬の様子をよく見ていたから、なんとなく分かってしまう。

 

あの人の立ち回りは圧倒的だった。

獪岳さんはまだ力量不足。

沙代ちゃんはサポート役。

 

唯一の勝機は、全く行動の読めない慶吾くんだけ。

 

「遅い!!」

 

「獪岳!一旦引け!」

 

「ぐっ!クソ!!」

 

「慶吾、次はお前だ!」

 

「残念、そこです!」

 

「な!?

 こんなところまで落としーーー」

 

「今だ!沙代ちゃん!!」

 

「えいっ!えいっ!」

 

「チッ!!ゲホッゴホッ!!

 な、なん、ゲホッゴホッ!!

 いき、が、ゴホッゴホッゴホッ!」

 

「特製粉わさび爆弾です!

 獪岳!反撃だ!!」

 

「・・・ハッ!!

 いや、呆けてる場合じゃない!

 やってやる!やってやるぞ!!」

 

「かいがく、いけー」

 

「ゲホッゴホッゴホッ!

 き、さま、ゴホッゴホッゴホッ!

 ちょう、しに、ゴホッゴホッゴホッ!」

 

「まずい!師匠が目を瞑った!

 獪岳、引けええええええ!!」

 

「え?」

 

雪結晶の紋様が地に走る。

 

「グハッ!!」

 

物凄い勢いで殴り飛ばされた獪岳さん。

そのままの勢いで家にぶつかり、壁を破ったまま動かなくなっていた。

 

「「あ!」」

 

「かべ、こわれちゃった・・・」

 

「マズい!愈史郎さんに見つかったら・・・

 え?師匠が消えた!?逃げたな!!」

 

「お〜ま〜え〜ら〜」

 

「ゆ、愈史郎さん!?

 違うんです!これには訳がーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ」

 

広い敷地で遊んでいるとしか思えないやり取りに、思わず笑ってしまう。

 

「瑠火さんも、だいぶ元気になりましたね」

 

先ほどから診察をしてくれているのは、珠世さん。

鬼、という事だが、恐怖は感じられない。

彼女は人間の側に立つ存在だった。

 

息を吸ったり吐いたりしながら、診察は進んでいく。

 

「ええ、おかげさまで。

 はじめは、本当に、悩みました・・・

 息子達に、どんな顔をして会えば良いのかと。

 でも、あの子達を見ていると、色々と考えるのが馬鹿らしくなってしまって・・・

 それに、貴女のような鬼もいると知れました」

 

珠世さんの手が、肌の上から内臓の動きを丹念に確認していく。

 

「・・・私は、私のような鬼を二度と生み出さないために、研究を続けているのです。

 貴女は見ず知らずの、しかも鬼である私を信じてくれました。

 たとえこの身は鬼であろうと、信頼には信頼で応えたい。

 貴女をご主人とご子息に会わせます、必ず」

 

胸の辺りをとんとんと優しく叩かれる。

何をしているのかは分からない。

でも、信頼しているお医者さんに触れられるのは、不思議と心地よく、安心感があった。

 

「・・・貴女の苦労は、私には想像もできませんが。

 貴女の心は、人間よりも、人間らしいですね」

 

珠世さんの手が止まる。

診察を終えたのか、慣れた手つきで開けていた衣服を元に戻していく。

 

「やめてください。

 私は・・・褒められるような者ではないのです・・・」

 

和服の帯を自分で巻きなおしながら、私は提案した。

少しだけ、ずるい言い方で。

 

「・・・ねえ珠世さん。

 私が元気になったら、煉獄家にご招待させて下さい。

 もちろん、愈史郎さんも。

 恩を返すは人の道。

 どうか、煉獄家を不知恩と言わせないでください」

 

「・・・ずるいですね」

 

そう言って、困ったように珠世さんは笑った。

 

「ええ。ずるいんです」

 

自信を持って、衒わない素直な言葉を送る。

すると根負けしたように、珠世さんから笑顔が溢れた。

 

「ふふふっ・・・

 では、煉獄家の名誉のために。

 その時はお伺いさせて頂きます」

 

「ええ、喜んで。

 静かな夜に、軒先で風鈴の音を聞きながら月を眺めている時間が、とても風情があって良いんですよ」

 

「風鈴ですか・・・

 それは楽しみですね」




その後
「ちなみに、猗窩座さん達は招待されないんですか?」

「いえ、その・・・夫が・・・」

「あ、その・・・すみませんでした」
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