Side: あまね
「あまね。
僕の部屋に飾ってある刀を持って来てくれないか?」
「分かりました」
鬼殺隊当主、産屋敷耀哉。
私の夫は生まれつき身体が弱い一族で、自室に飾られているこの二振りの刀も、一度として満足に振るう事は叶わなかった。
扱いが下手だとか、そういう話ではない。
持ち上げて、振り下ろす。
この単純な動作さえ病弱な身体に大きな負担となり、立てないほどに憔悴してしまう。
鬼殺隊の魂、日輪刀。
それを生み出せるのは、刀鍛冶の里の人間のみ。
その刀鍛冶の長、鉄地河原家でも有名だった人が、かつて鬼殺隊当主のために、特別に打ってくれた刀。
そして今代の長、鉄地河原鉄珍さんが、身体の弱い夫のために打ってくれた脇差。
私が持っていても仕方ないと、常々言っていた二振りの刀。
屈強な柱の人たちが扱うには、少し短く、軽いそれ。
大切に降ろし、丁寧に布で包む。
私には何も感じられないけれど、持つ者が持てば、この刀はその人の資質に合わせて色を変える。
久し振りに訪れてくれた客人、それも柱の方を待たせてはならないと、私は日輪刀を両手で抱えると、その場を後にした。
「さて、槇寿郎、瑠火。
話しづらいことも全部話してくれてありがとう。
それで、二人はこれからどうするつもりか聞かせてくれるかな?
私としては、君たちの意見を尊重しようと思っている」
「それは・・・」
「それは私からお話しさせて頂きたく存じます」
「うん。
良いのかい?槇寿郎?」
「お館様。私からもお願い致します。
もし私が妻の立場なら、同じ事を言っていたでしょう」
「そうか。分かったよ、槇寿郎。
瑠火、話してくれるかい?」
「はい、お館様。
私は鬼に助けられ、一命を取り留めました。
当然、この事実を快く思わない者もいるでしょう。
人の心を持つ鬼達に救われて得たこの力。この命。
これからは弱き人を守るため、鬼殺隊士として全うしたく存じます」
「・・・槇寿郎、柱として君の意見が聞きたい。
瑠火は隊士として、どのくらい強くなると思う?」
「はい。
今すぐ最終選別を受けたとして、問題なく突破できる実力はあります。
その後、どこまで成長するかは正直なところ、私にも分かりません」
「すると、既に呼吸や型を幾つか使えるのかい?」
「はい」
「それは凄い。
日頃から君の姿を見ていたとは言え、素質がなければ成し得ない事だ」
「はい。私も驚いております」
「瑠火。君の行く道は、険難な道だ。
意思を貫き通すための、その力。
私にも見せてくれないか?」
「はい、お館様。
私は日輪刀を持たぬ身ですが、それでも宜しければーーー」
「実は、君がこの部屋を訪れた時から、必要になる気がしていたんだ。
あまね。あの刀をここに」
「はい」
襖を開け、座礼。
二振りの刀を持ち、夫の元へと届ける。
珍しい事に、届けられた刀の封を、夫は手ずから解いていった。
「瑠火。こちらにおいで」
「はい!」
産屋敷家の持つ、二振りの刀。
『鬼殺』と銘打たれた、赫く力強い一振り。
『悪鬼滅殺』と銘打たれた、短く軽い脇差。
「これは、私が持っていても使い道のないものだからね。
良かったらこれを使って見せて欲しい」
「恐れ入ります。
それでは、拝借致します」
差し出された二刀を瑠火さんが恭しく受け取ると、夫は嬉しそうに微笑んだ。
「槇寿郎、瑠火。今はまだ日も高い。
刀は預けておくから、また日没頃に見せて貰えるかな?」
「「はい」」
二人が退出したのを見届けると、私は夫を抱き寄せ、膝枕の体勢になって貰った。
「あなた、お疲れ様でした」
「ありがとう、あまね。
少し、疲れたみたいだ・・・
もう少しだけ、このままで・・・」
煉獄瑠火の強さは、夜に限って言えば、経験値の少ない現時点でも戊に匹敵します。
鬼は夜にしか出ないので、隊士として生きるには支障ありません。