Side: 慶吾
「罠か、懐かしいな!
元水柱との修行を思い出す!」
まるで次に訪れる罠が分かっているかのように、炎のような男は次々に襲い掛かる罠を全て掻い潜り、時に払い落とし、距離を詰めて来る。
足の裏に目が付いているかのように、落とし穴に掛かったと思った瞬間に避けられる。
丸太や矢などの飛び道具は、一瞬で斬り払われる。
飛び出す竹槍も、発動してから斬って避けられる。
そもそも、直感的に罠の設置場所を避けながら進んでくる。
『あの人、対応が早過ぎる!
獣用の罠どころか、鬼向けに開発した罠が全て躱される!』
「・・・そろそろ鬼ごっこは終わりにしないか?」
気付けば目の前の開けた場所に回り込まれていた。
『ちくしょう、早い!
だけど、その場所は・・・』
落ち着いて、全ての仕掛けを頭の中で組み立てながら、男の前に姿を現す。
「おじさん、めちゃくちゃ強いですね。
ひょっとして、十二鬼月よりも強かったりします?」
「坊主、よく知っているな。
俺は鬼殺隊が炎柱、煉獄槇寿郎。
無論、十二鬼月も斬っている」
「へー、それは凄いですね。
オレは素流の素木慶吾と言います。
先日、師匠から師範代の称号を頂きました。
尤も、道場も何もありませんが」
『柱!!この人が!?
師匠と戦える数少ない人間という、あの!?』
鬼殺隊と出会う可能性は考えていたが、いきなり柱と出会うなんて。
流石に想定外だった。
『しかし、この人が相手ならば、
師匠用に開発した新しい罠を試せる』
「今からオレの最後の罠を仕掛けます。
もし槇寿郎さんがそれを突破できたら、師匠の事を話しましょう」
「慶吾と言ったな。良いだろう。
俺は継子を持たぬ身なれど、
若者の挑戦を受けられぬとあっては柱の名折れ。
どこからでも掛かってくるがいい」
「ありがとうございます。
ではーーー」
足元に隠しておいた蔦紐をつま先で引く。
と、オレの立つ場所だけを避けるように、男に向けて全方位から矢が放たれる。
瞬間、背後に飛び退いて矢継ぎ早に罠を発動していく。
矢は一刀のもとに全て切り落とされ、返す刀が目の前へと迫って来ていた。
もし後退しなければ、既に負けていただろう。
男を中心に正面、側面、背後からと、次々に丸太が放たれる。
通常、刀では切り裂けぬそれを、目の前の男は造作もなく斬り捨てていく。
その男の足元へ、ころころと転がった丸い煙玉から、もうもうと煙が立ち上がる。
周囲に煙が満ちていく中、周囲の投石器から放たれた岩が弧を描き、幾重にも男に襲い掛かる。
フウゥゥゥゥゥゥゥーーー
男の口元から、炎のようなものがチラついて見えた。
そこからは怒涛だった。
男が刀を振るう度に、炎が舞い、岩がまるで紙のように切り払われていく。
煙に乗じ、足元に転がしておいた特製爆弾。
花火を作ろうとして出来なかった、火薬の成れの果てが、爆発する。
「炎の呼吸、肆ノ型」
男を中心に炎の渦が生まれ、その爆発を飲み込んでしまう。
そこへ紫色の玉を一つ、投げ込んだ。
煙で視界が遮られる中、男がそれを勘だけで切り落とした瞬間、辺りに白い粉がばら撒かれる。
植物の根から作った麻痺毒。
男が呼吸の使い手であるならば、先の爆発で少なくなった酸素ごと吸い込んで、これで終わり。
後は距離を取って待つだけ。
煙で何も見えぬ中、キン!という納刀の音が聞こえた。
「炎の呼吸、壱の型!」
ダン!
大地を蹴る音が響く。
ダダダダダン!!!
煙を吸わないよう十分な距離を取っていたはずなのに、何かを蹴る音が一瞬で迫って来る。
気付けば男は目の前にいて、刃が目前に迫っていた。
『!?』
その刹那、世界がゆっくりと感じられた。
この距離、この速度で迫り来る攻撃は、連日に渡り死ぬほど身体に叩き込まれたもの。
男の目線が、刃の動きが見える。
無意識の内に体が動き、迫る刃を潜り抜け、男の懐へと両拳を叩き込む。
「カハッ!」
それと時を同じくして。
脇腹に激痛が走ったと思ったら、体ごと吹き飛ばされていた。
強かに木に背を打ち付けられ、地面に落ちる。
「しまった!!」
意識が朦朧とする中、男が駆け寄って来る音がする。
どうやら、オレの負けらしい。
「・・・ちく、しょう・・・」
そこでオレは意識を失った。
「・・・俺に一撃入れるとは。
なかなかに末恐ろしい子だ。
鬼に鍛えられていたと言っていたが・・・
あながち、嘘ではないのかもしれん。
隠よ!いるか!?」
「ここに」
「佐伯か。この者の手当を頼む。
応急処置の後、拘束して我が家へ運んでくれ」
「承知致しました」
「俺は少し休んでから戻る。
頼んだぞ」
「ハッ」
呼吸を極めつつある柱とでは、引き出せる身体能力に差があります。
体勢を崩しつつも、反撃で放たれた蹴りを受けて、慶吾は撃沈しました。
結構ヤバい毒を使ったので、もしあと10分も耐えられれば、慶吾は勝っていました。