未来の花   作:ZANGE

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第40話
Side: 瑠火


弟子達の挽歌 伍

その日、大事な話があると伝えて夫を呼んだ。

 

真剣な表情で私の言葉を待つ夫に向けて、

三つ指をつきながら、しずしずと丁寧に頭を下げる。

 

「槇寿郎さん、お願いがあります。

 私を鬼殺隊士として戦わせて下さい」

 

瞬間、夫の顔から優しさが消え、戸惑いと怒気が溢れ出した。

 

「は!?

 何を言う!瑠火!

 せっかく助かった命を、無駄に散らす気か!」

 

こんなに取り乱す夫を見るのは、私の病気が決して治ることはないと言われた時以来だろうか。

その様子に、不謹慎ながらも、心が温かくなる。

 

しかし、ここで引くくらいなら、そもそもこんなことを口にはしない。

頭を上げ、ずっと溜め込んでいた思いを伝える。

 

「助かった命だからです。

 前々からずっと考えておりました。

 もしもこの身体が生きる事を選べたなら、

 私は、貴方や子供たちと共に在りたいと」

 

「瑠火、その思いは嬉しい。

 嬉しいが、無謀が過ぎる。

 鬼どもはそのように容易い相手ではない。

 柱の私とて、猗窩座には敵わなかったのだ・・・

 もう二度と、お前を失いたくはない。

 頼むから考え直してくれ」

 

優しく諭すような夫の言葉が心に波紋を呼び起こす。

波紋はやがて凪ぎ、静かな決意だけが残った。

 

固い決意を込めて、夫の目を見つめる。

 

「では、もしも私が、狛治さんから一本取れば、隊士として戦うことを認めて下さいますか?」

 

「そんな事は不可能だ!!

 何を言い出すかと思えば・・・

 鬼殺隊士を、我々を舐めるな!!」

 

その時、偶々近くにいたのか、珠世さんが驚いた様子で話しかけてくれた。

 

「お二人とも、少し声が大きいですよ」

 

あっと驚いた様子で、夫が頭を下げる。

私の命が助かったと聞いて以来、この様子。

夫の中では、お館様と同じくらい尊敬すべき人になっているらしい。

 

「珠世さん、失礼致しました」

 

「いえ、気を付けて頂ければ大丈夫です。

 それよりも、瑠火さん。本気ですか?」

 

「え?」

 

「知りませんでしたか?

 鬼は、普通の人よりも耳が良いんですよ」

 

「それはつまり・・・」

 

「はい。

 申し訳ありませんが、聞こえておりました。

 ですが、槇寿郎さんの心配も尤もです。

 普通の人より少し強い身体になったとは言え、

 貴方は普通の人間です。

 せっかく助かった命です。

 いたずらに危険に赴くのは、医者としても看過できないのですが・・・」

 

その言葉を受けて、夫の目が『それみたことか』と訴えてくる。

正直、少し鬱陶しい。

 

「珠世さん。

 お館様に恩を受け、鬼殺隊に夫を持つ者として、ただ座して待つことは、生きているとは言えません。

 力ある者は、その責務を果たさなければなりません。

 私は、死にに行くのではありません。

 生きるため、使命を果たしに行くのです」

 

「・・・決意は固いようですね。

 ですが、どれだけ言葉を並べようと、

 力がなければその責務は果たせませんよ」

 

「珠世さんの言う通りだ」

 

訂正。

夫がかなり鬱陶しい。

 

「珠世さん、本当にありがとうございます。

 しかし、私の決意は揺らぎません」

 

「そうですか・・・

 しかし、困りましたね。

 貴女が槇寿郎さんくらい強ければ、私からは何も言いませんが。

 医者としては、貴方が死なないと保証ができるまでは、そのお願いに頷くことはできません」

 

決して意志を曲げない者。

過度に心配し、認めぬ者。

立場上、看過できぬ者。

 

膠着した状況を破ったのは、この場に現れた最強の鬼だった。

 

「面白い話をしているな。槇寿郎」

 

「猗窩座・・・」

 

「瑠火、聞こえていたぞ。

 まさか俺から一本取れると、本気で思っているのか?」

 

「はい。

 煉獄家の者に、二言はありません」

 

「ほう・・・」

 

「・・・・・・」

 

「なるほど、良い目をしている。

 少しは楽しめそうだ。

 良いだろう、立ち合いを認めよう。

 一本と言わず、一撃でも俺の防御を抜くことができれば、強者としてお前を認める」

 

「猗窩座!?」

 

「心配するな、槇寿郎。

 女を甚振る趣味はない。

 こちらから一切の攻撃はしないと誓おう。

 それに、このくらいの条件が無ければ面白くない。

 瑠火、覚悟は良いか?」

 

「その条件で構いません」

 

「では決まりだ」

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