Side: 猗窩座
街並みから景色が一変、気付けば無限城に立っていた。
無惨様による緊急召集。
そう意識を切り替えて周りを見渡すと、一堂に数多くの鬼が視界に入る。
誰か十二鬼月の上弦がやられたのかとも思ったが、どうやら違うらしい。
一体何が起きている・・・?
「来たか・・・
待っていたぞ、猗窩座・・・」
とりわけ強い存在感を放つ、六ツ目の剣士。
俺が知る限り最凶の頂きに君臨する鬼、上弦の壱・黒死牟。
口数が少なく、一人でいる事の多い黒死牟が珍しく話しかけてきた。
その立居姿を目にするたび、この男に勝つという強い思いと、勝てるのかという相反する思いが心に浮かぶ。
「何の用だ?」
「・・・すぐに、分かる・・・」
それだけ言うと、黒死牟は去っていった。
『・・・気のせいか?
今、笑ったような・・・』
目の前で起きた事が信じられないでいると、不意に背後から気配を感じたので横に一歩避ける。
「猗窩座殿ー!って、あれ?
おっとおっと!待っておくれよ猗窩座殿!」
「・・・・・・」
何も聞かなかったことにして、そのまま歩みを進める。
「猗窩座殿!
猗窩座殿!
猗窩座殿ー!」
首元まで伸びる真っ赤なしゃつ、袴を西洋のべるとで留めるという異様な出立ち。
頭から血を被ったかのような見た目の鬼。
上弦の弐・童磨が、にこにこと気持ちの悪い笑顔を顔に張り付けて向かって来た。
しきりに肩に回そうとする、うざったいその手を一つ一つ避けていく。
しかし童磨は一向にやめる気配がないどころか、その手の勢いは徐々に増していった。
「・・・いい加減、その手をやめろ」
「やァやァ、そんな酷いことを言わないでおくれ。
猗窩座殿がいつまでも来ないものだから、俺は凄く心配したんだぜ!」
「ヒョッ」
相槌を打つような拍子で、無造作に置いてある花柄の壺から不意に声がした。
「猗窩座様。
お元気そうで何より。
これでようやく、十二名が揃いましたかな?」
ズヌヌヌヌーーー
一体その壺のどこに体が入っているのか。
目と口が逆位置、頭から子供の手が無数に生えた、およそ人とはかけ離れた姿の鬼。
上弦の伍・玉壺が、活けられた花のように壺から身体を生やして言った。
「いやはや、私はもしや貴方がやられたのではと、心が踊った・・・
ゴホゴホン!
心配で胸が苦しゅう御座いました。
ヒョヒョッ」
「怖ろしい怖ろしい・・・」
玉壺の声を遮るかのように、襖の陰から別の鬼が声をあげた。
「暫く会わぬ内に、玉壺は数も数えられなくなっておる。
黒死牟様の様子、集められた十一名の十二鬼月・・・
不吉な丁、奇数!
怖ろしい怖ろしい・・・」
小柄な体躯に、体の半分はあろうかという、大きな顔。
額には大きな瘤があり、左右からそり返った二本の角が生えている。
上弦の肆・半天狗は、常に何かに怯えるように振舞いながら、こちらを見下ろしていた。
「ほらなぁ。だからおめぇ、言っただろう。
猗窩座さんがやられるわけないだろうってなぁぁ」
痩せ細りながらも鍛えられた体躯に、長い手足。
上半分が黒髪、下半分が緑髪の男、上弦の陸・妓夫太郎が着物姿で歩いてきた。
「お兄ちゃん!
もう分かったから言わないでってば!」
その後ろからついて来るのは、妓夫太郎の妹の堕姫。
コイツ自身は弱いが、二人は合わせて一人の鬼。
整った顔立ちと器量で、外見は全く似ていないが、時折兄妹だと感じる時がある。
特に、敵と見定めた者を睨む時の目が似ていた。
「妓夫太郎。また少し強くなったか?
お前の挑戦ならいつでも受けるぞ」
「いやぁ、猗窩座さんにはまだまだ敵わないっすよ」
この場には下弦の鬼も集められていたものの、上弦の鬼に話しかけてくるような者はおらず、自分の世界に浸っているか、遠巻きに眺めているだけだった。
特に、下弦の伍・累。
白い着物を赤い帯で締めた、白髪の子供。
あいつには、上弦を恐れているような節がない。
闘気も悪くない。
もし生き残ることができれば、下弦の壱まで上り詰める可能性もあるだろう。
「無惨様が・・・御見えだ・・・」
その黒死牟の声を聞いて、即座に反応しない者はいなかった。
短い場面だけど、この場に妓夫太郎がいると思うと、ほわほわする。