Side: 猗窩座
「グ・・・ゥ・・・ル・・・」
尖った耳、柊の葉のような刺々しい額の痣、肩まで届く伸びた髪。
右目に『下陸』と刻まれた首から上だけの鬼の口から呻き声が漏れる。
彼方此方へと吹き飛んだ四肢が、流れ落ちた血を伝って元に戻ろうと、ズルズル、ズルズルと地を蠢く。
「理解したか?お前は弱い。
柱が相手なら、今のままでは生き残る術はない」
首と胴が繋がり、手足が繋がり、細胞が再生されていく。
「小生は・・・小生の鼓は・・・」
既に百は四肢を吹き飛ばしている。
しかし意外にも心折れる事なく、響凱は立ち上がってきた。
「良い覚悟だ。
短時間で死ぬことに慣れてきたな。
褒めてやる」
グッと大地を深く踏み締め、右手を前に、左手を引いて構える。
『術式展開ーーー』
雪の結晶の紋様が辺りに広がり、周囲に粉雪が舞う。
そのまま空に飛び上がり、両腕から衝撃波を放つ。
『破壊殺・空式!!』
ガガガガガッ!!!
響凱の動きを封じるかのように、その周囲へと無数の衝撃波が飛ぶ。
「死ね」
身動きを封じた上で、頭上から勢いを乗せた拳を振り下ろす。
「小生はーーー!!」
ポポポポポポポン!!!
無数の斬撃が猗窩座を襲う。
額、頬、首、腕、胸、腹、膝と全身に切り傷が走り、血が飛び散る。
無数の返り血を頭上から浴びながらも、響凱は鼓を叩き続けた。
「ぬるいッ!!」
グチャメキッ!
肉が潰れ、骨が折れる感触が拳に伝わるが、構わずそのまま大地まで、拳を振り下ろす。
ドンッ!!!
大地に罅が入るほどの衝撃。
響凱だったものの原形は既になく、辺りには小さな肉片が飛び散っていた。
それらの肉片は地面を蠢きながら、くっついては再生し、くっついては再生を繰り返し、徐々に形を取り戻していく。
やがて人の形を取り戻した響凱に向けて、伝える。
「何故拳を使わなかった?」
随分と考え込んだ後、響凱は訥々と語り始めた。
「・・・すみません・・・
小生は、鼓打ちが好きなのです」
その答えは予想外のものだった。
『好き、か・・・』
「人間の記憶が残っているのか?」
「・・・つまらない話です。
小生は鼓打ちと書き物が好きでしたが、
残念ながら才能がなかった・・・
だから、そのことを馬鹿にした連中を!
俺は!見返してやりたい!!」
粗暴な、いかにも鬼らしい大柄な体躯の中に、線の細い書生の姿が垣間見えた。
初めて聞いた本音から、繊細な性格が見て取れる。
思い違いをしていた。
戦士ではないのだ。この男は。
拳より頭を使わせた方が伸びるかもしれない。
好きにやらせてみるのも手か。
「そうか。
それがお前の生き様なら、やり遂げて見せろ。
御託はいい。結果で示せ」
結果と聞いて落込んだのか、響凱は俯いてしまった。
「猗窩座様・・・
小生の血鬼術は・・・無価値でしょうか?」
『出会った頃の槇寿郎の目を思い出す。
馬鹿なやつだ。
全ての鬼を知る無惨様に選ばれた意味を、
全く理解していない』
「響凱。鬼は死なない。
自分が弱いと思うなら強くなれ。
無価値と思うなら価値を作れ。
時間はいくらでもある」
「!?」
「それに、お前の血鬼術は発展途上だ。
楽器といえば鳴女もそうだが、はじめから今の能力が使えたわけではない。
血鬼術は成長する。
己を圧倒するような、強者とのギリギリの闘いが、能力を深く進化させる。
これは鬼も人間も同じだ」
「成長・・・小生の血鬼術が、進化・・・」
「そうだ。自分の身体を見ろ。
この短時間で鼓の数が増えているだろう。
無価値かどうかは、鍛錬の先に判断すればいい」
その言葉に、響凱はハッとして自分の身体を見直す。
「小生の鼓が・・・!」
両肩・両腿、そして背中に新たな小鼓が発現していた。
「・・・あ、ありがとうございます!
猗窩座様!!」
感謝しきり、といった様子の響凱に向けて、にこにこと笑顔で告げる。
「その調子で強くなれ、響凱。
では早速、新たな能力を見ようか。
構えろ」
「はい!
・・・はい?」
「遅い!」
再び、鼓を打つ間もなく、その両腕と首が宙を舞う。
ぽーんと、飛んで落ちてくる首を受け取り、その耳元で囁く。
「下弦の鬼は殆どが柱によって殺される。
まずは生き残る術を身に付けることだ。
そのことを、戦闘経験の少ないお前には実戦で教えてやる。
覚悟しておけ」
手加減が必要ない相手との鍛錬は、初めてのこと。
思わず口端が吊り上がるのだった。
この章の主役は猗窩座です。
響凱はおまけ程度に思っていてください。
口調については、書生だった過去と、強くなって見返したい鬼としての願望から、二面性を表現しています。
しかし、響凱のキャラは表現が難しいですね。
グルル・・・としか言わないんだもん!