未来の花   作:ZANGE

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第49話
Side: 猗窩座


植物のような男

「俺の家族に危害を加える者は、

 何人(なんぴと)であろうと容赦はしない。

 腹を空かせているのは気の毒だが、

 それ以上こちらに来れば、命を奪うこととする」

 

グオオォォーーーーー

 

その男に敵意を向けた熊の咆哮(ほうこう)は、そのまま断末魔の叫びとなった。

 

 

 

 

 

『馬鹿な・・・

 動きが見えなかった・・・』

 

八尺(はっしゃく)ほどの大型の熊の首がストンと落ちる。

 

仕留めたのは額に(あざ)のある、闘気のない植物のような男。

 

幾度となく周りを見渡しても、他には誰もいない。

 

あの男がやったのだ。

 

視線の先にいる植物のような男。

右手に携えた、小さな(まき)割り用の斧だけで。

 

あんな小さな斧で、熊の太い首があんなにも綺麗(きれい)に切り落とせるはずがない。

しかし現に、なす術もなく熊の首は落ち、大きな身体が雪の中へと倒れている。

 

背筋に戦慄(せんりつ)が走る。

 

もし引き返すのであれば、ここが分水領(ぶんすいりょう)だったのかもしれない。

 

しかし、最早遅かったーーー

 

響凱(きょうがい)と二人、無言で遠く離れた木の上から見ているにも関わらず、その男の視線は確実にこちらを捉えていた。

 

猗窩座(あかざ)様。あの人間は不気味です。

 筆舌(ひつぜつ)に尽くし難い恐怖を感じます。

 ここは引き返しませんか?」

 

「もう遅い。既に見つかっている。

 ここで逃げれば怪しいと教えるようなものだ。

 それに、あの男に興味が湧いた。

 少し、話をしてみたい」

 

「・・・いざとなれば逃げますよ?」

 

「分かっている」

 

ストンと木から飛び降り、植物のような男の方へ向かって雪道を歩いていく。

 

その間も、男の視線が外れることはなかった。

 

鬼の能力ならば、一足で間合いを詰められる距離まで近づいたところで、男から声をかけられる。

 

其処(そこ)童子(どうじ)殿。

 このような夜更けに何用ですか?」

 

優しい、穏やかな声音だった。

しかしその声を聞いた瞬間、まるで蛇に睨まれた蛙のように、そこから先へ一歩たりとも足を踏み出せなくなる。

 

久しく感じていなかった、強者との邂逅(かいこう)

羅針(らしん)が闘気を感知しない男。

無意識の内に、額から汗が流れ落ちる。

 

至高(しこう)領域(りょういき)』という言葉が脳裏を過ぎる。

 

まずは対話だ。

この男が本物かどうかを知らなければならない。

もし本物ならば、不用意な攻撃は死に繋がる。

 

「そこの熊を追っていた。

 お前が倒したのか?」

 

「そうでしたか。倒したのは私です。

 突然の大雪で、あなた方もお腹を空かせているのでしょう?

 もし私達に危害を加えないと約束して頂けるなら、

 獲れた血肉(ちにく)を分けてあげてもいいですが、どうしますか?」

 

植物のような男の瞳。

怒りも憎しみもなく、殺気も闘気もない。

 

不思議だ。

しかし、その瞳に全てを見透かされているかのような気がしてならない。

 

「連れと話がしたい。

 少し時間をくれ」

 

「どうぞ」

 

視界から決して男の姿を外さないように、響凱へと言葉をかける。

 

「響凱、お前とはここでお別れだ」

 

「え、何故ですか!?」

 

「今の会話を思い出せ。この男は血肉と言った。

 ああ見えて、俺たちのことを知っている。

 そしてあの立居振る舞い。強者に違いない。

 つまり、お前は足手纏(あしでまと)いだ」

 

「そんなまさか・・・!

 とても鬼狩(おにが)りには見えませんが・・・

 しかし、確かにあの男は得体が知れません。

 本当に人間なのでしょうか・・・?」

 

「響凱。

 お前も五年後を目指しているのだろう?

 俺もそうだ。至高の領域が目の前にあるならば、

 我が幾百星霜の武の道は、前にこそある」

 

「正確にはあと四年と少しです。

 ・・・仕方ないですね。分かりました。

 必ずまた無限城(むげんじょう)でお会いしましょう。

 小生もまだまだ、強くなりますので」

 

「ああ、妓夫太郎(ぎゅうたろう)ならともかく、堕姫(だき)を相手に無様な負けを晒してみろ。

 その時は俺が殺してやる」

 

「殺すってそんな、冗談に聞こえませんよ・・・

 冗談ですよね?そうですよね?」

 

「俺は嘘が嫌いだ」

 

「嗚呼、そうだ。

 この人はこういう人だった・・・」

 

()らば、響凱」

 

「さようなら、猗窩座様」

 

鬼の姿となり、背中の鼓を叩く。

と、一瞬にしてその場から響凱の姿が消える。

 

懸念が無くなったことで、俺は改めてこの不気味な男に向き直った。




当初のプロットだと、ここで猗窩座が炭十郎と戦う予定でしたが、キャラが勝手に動きました。

こういう時は、流れに身を任せます。
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