未来の花   作:ZANGE

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第5話
Side:猗窩座


素流の弟子

その日から『けいご』と名乗る押しかけ弟子との奇妙な日常が始まった。

 

特異な事に、けいごは鬼の力を見せても全く逃げなかった。

寧ろ全部教えろとせがんでくる始末。

これ以上の脅しは無用。

完全にお手上げだった。

 

日中は、生きるために金を稼げと言い渡し。

人里離れた場所で、日の暮れた時間帯から師弟の時間が始まる。

 

ほとんどが見取り稽古と実践。

不器用な俺には、師範の真似は出来そうにない。

 

人間が寝ている間は、自らの修行に充てている。

最近では流れる滝の水滴を全て打ち落とすのが目標だ。

これが出来た時、俺はまた一歩至高の領域へと近づくだろう。

 

元より鬼と人間では膂力が天と地ほど異なる。

人間が身に付けるべきは、人間の技。

剛拳の最たる鬼の技は、何の参考にもならない。

 

やむを得ず、素流の技を教える。

 

師範から継ぐ筈だった技。

今更という思いもある。

 

しかし、俺はこれしか知らない。

 

絶えて久しい技術。

歴史から消えて無くなるかと思っていた技術だが、けいごには才能があった。

 

もし真っ当に生きてさえいれば、何かしらの門流を開いていたかもしれない。

そう思えるほどの才能と、不屈の精神が彼にはあった。

 

『変わりたい!』

あの言葉は、嘘では無かった。

 

弱者は、平気で嘘を吐く。

本当の強者は、戯言をも実現させる。

だから、嘘でない言葉は、心地がよかった。

 

しかし、いくら才気煥発な子供と言えど、俺に勝つなど、100年早い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、師匠が強すぎる!」

 

そんなたわ言を言いながら、

いつまでも地面に横たわる弟子の頭上へと、体重を乗せた踏み付けを落とす。

 

「よっ、と!」

 

寸前。

相手は反転し、四つ足で地面を蹴って距離を取り、再び構える。

 

「いいぞ!まだまだ行けるな」

 

思いの外、元気そうな弟子の姿に、ギアを一段階上げる。

 

血鬼術は使わない。

無闇に傷付けぬように、両の手のひらは開いたまま。

掌底の構えで左脇を締め、右手はゆるりと前へ伸ばす。

 

相手との距離によって右手の位置は自在に変わる。

闘気を感じずとも、一対一ならば、これで良い。

 

「来い」

 

「いきます!」

 

そう言うと、けいごは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

 

次の瞬間。

けいごの拳は一足一刀の間合いに迫っていた。

 

そこから無呼吸で繰り出される拳打乱打を、右手で全て打ち払っていく。

 

今使っている技は、鬼の視力と膂力に頼ったものではない。

 

拳が繰り出される一瞬の兆し。

手足の動きと距離を正確に見極め、打撃の軌道を読む。

 

剣の達人が間合いと呼ぶ感覚を、男は右腕で行っていた。

 

目の前の弟子ならば、いずれ会得するであろう事を確信しながら。

 

一分にも満たぬ拳打の末、弟子が息を乱した瞬間ーーー!!

その胸へと掌底を放つ。

 

パァン!!!

 

まるで銃声のような音が山に響き渡った。

 

背後の樹木へと強かに叩きつけられ、

「カハッ!!」

弟子は大地へと崩れ落ちる。

 

「・・・・・・・・・」

 

さすがに、やり過ぎただろうか?

最後はほんのちょっと、鬼の膂力が滲み出てしまったかもしれない。

 

倒れた弟子を見る。

反応がない。

 

仕方ない。

頭から水でもぶっかけてやろう。

と考えた瞬間。

 

嫌な予感でもしたのだろうか。

不意にがばっと跳ね起きた。

 

「いッッッ、てぇぇぇ〜〜〜〜〜!!!」

 

「なんだ元気じゃないか。心配したぞ」

 

「『なんだ元気じゃないか!』

 じゃねえよ糞爺!

 どんだけ馬鹿力なんだよ!?」

 

「お前なら大丈夫だ」

 

「はあ!?

 師匠と違ってオレは普通の人間!!

 死んでからじゃ遅いんだってば!!」

 

「手加減はした。問題ない」

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

とても非常に物凄く大きな溜め息を一つ。

これ見よがしに見せつけるように吐き出してくる。

 

鬱陶しい。

しかし、少々やり過ぎてしまった事実は否めない。

 

「・・・食事にするか?」

 

「師匠の手作り!」

 

キラキラした目で、何かを訴えて来る。

鬼は普通の食事などしないから、味付けなど分からないと言うのに。

 

「・・・味は保証しないぞ」

 

「やった!!

 今日は仕事の帰りに取れた鮎があるんですよ」

 

なるほど。

やけに突っかかってくると思ったら、それが理由か。

わざわざ粗野な言い方に変えてまで・・・

 

「現金なヤツだ・・・」

 

何がそんなに嬉しいのか。

途端に元気になった弟子は、足取りも軽やかに家へと帰っていく。

 

その後を追いながら、自らの両手を見詰める。

 

「・・・糞爺、か」

 

鬼の力に、人間の技術。

双方を極めた先に、新たな強さが薄らと見えてきた。

 

人に技術を教えるというのも、強くなる道の一つなのかもしれない。

幸い、時間は無限にある。

 

けいごを見ていると、不思議と過去に教わった技が鮮明に思い出される。

よく出来た弟子だった。

 

決して口にはしないが。




今夜の料理
『至高の焼き鮎』

煉獄さん「うまい!うまい!うまい!」
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