未来の花   作:ZANGE

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第50話
Side: 猗窩座


炭売りの青年

「私は竈門(かまど)炭十郎(たんじゅうろう)という」

 

「そうか。炭十郎と言うのか。

 俺は猗窩座(あかざ)

 

「早速で申し訳ないが、できれば、

 貴方も手伝ってくれると助かる」

 

「手伝う?何をだ?」

 

「コイツの解体だ」

 

そう言う炭十郎の指は、仕留めた(くま)を指していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・

 このくらいで良いだろう」

 

炭十郎は多くを語る人間ではなかった。

しかし俺の問いかけには必ず返事を返してくれた。

 

子供は好きかと聞かれたので、

「行動に際限(さいげん)がなく、面倒(めんどう)(きわ)まりない」

と答えた時、ニコリと笑ったことが炭十郎の唯一の感情表現だった。

 

いつしか炭十郎の口調は柔らかくなっていた。

 

「ありがとう猗窩座、助かったよ」

 

「構わない。慣れている」

 

皮を剥ぎ、内臓を取り、血抜きを済ませた肉を、頭部、手足、胴体に切り分けて、持ち運べるよう袋へ詰めていく。

もはや、慣れたものだった。

 

最後に残った毛皮を別の袋へと詰め込むと、俺たちはどちらともなく立ち上がった。

 

炭十郎の顔色は少し悪く、身体は痩せ細っていた。

何も知らない者が見れば、弱者としか映らないだろう。

にも関わらず、解体作業にも疲れた様子はなく、慣れた手つきで作業を進めていた。

 

この植物のような男を注意深く観察して、ようやく気付いたことがある。

 

ごく自然体(しぜんたい)で、呼吸法(こきゅうほう)を使っている。

あまりに自然。一切の無駄が無い。

今まで倒した柱にも、ここまで呼吸を極めた者はいなかっただろう。

 

そして今もなお、俺の破壊殺(はかいさつ)羅針(らしん)が闘気を感知しない。

俺は一体何と話しているのか、まるで植物を相手にしているようだった。

 

『面白い。

 俺が目指す至高の領域。

 今までは漠然(ばくぜん)としたものだったが、

 この男ならば何か知っているかもしれない』

 

「炭十郎。育ち盛りの子供が沢山いるのだろう。

 解体した肉と毛皮は、全て持っていけ。

 その代わり、俺と立ち会ってくれないか?」

 

「私は貴方のような武人に請われる身ではない。

 病弱な、しがない炭売(すみう)りですよ」

 

穏やかな微笑(ほほえみ)()やすことなく自然体のまま、炭十郎は答える。

 

謙遜(けんそん)が過ぎるな、炭十郎。

 俺の前で爪を隠すのはやめろ」

 

「・・・では、熊肉のお礼に少しだけでしたら。

 それと、立ち会いに際して約束をして頂きたいのですが」

 

「何だ?」

 

「私では貴方に致命傷(ちめいしょう)を与えられないでしょう。

 しかしそれでは勝負が付かない。

 なので貴方の首を切ることができれば、私の勝ちとさせてください」

 

穏やかな口調で、まるで今日の天気の話でもするかの如く、その言葉は静かに俺の耳に響いた。

 

常の己ならば激昂して、目の前の男の頭蓋(ずがい)を砕いていたに違いない。

 

だが、今は違う。

いとも容易くそれを成せると言ったのだ。

目の前の男は。

 

思わず口の端(くちのは)が吊り上がる。

 

「分かった。それでいい」

 

「それともう一つ」

 

「何だ?」

 

「日取りは、私の体調の良い日にさせてください」

 

「分かった。

 それは俺も望むところだ」

 

「最後に一つ。

 これは忠告なのですがーーー」

 

「何だ?」

 

「俺の家族に危害を加える者は、

 たとえ鬼であろうと、容赦はしない」

 

初めて向けられた殺意に、死を感じたーーー

 

この男にとって守る者は、家族なのだろう。

俺にはもう、そんなものは残ってはいないが・・・

 

「・・・俺の名は狛治。

 我が妻、恋雪の名にかけて、

 正々堂々とやり合うことを誓おう」

 

「・・・良いでしょう。

 では袋を持って、私に付いて来てください」

 

「どこへ行く?」

 

「貴方が追い込み、私が仕留めた熊です。

 先ほどは解体まで手伝って頂いた。

 ここは猟師の習いとして、家で熊鍋をご馳走しましょう」




まだ戦いません。

本来の予定では、猗窩座が炭十郎に負けて殺されそうになるところを、ギリギリで響凱が助け、代わりに死ぬという筋書きでしたが・・・
何故か生き残ってしまいました。
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