Side: 猗窩座
「私は
「そうか。炭十郎と言うのか。
俺は
「早速で申し訳ないが、できれば、
貴方も手伝ってくれると助かる」
「手伝う?何をだ?」
「コイツの解体だ」
そう言う炭十郎の指は、仕留めた
「ふぅ・・・
このくらいで良いだろう」
炭十郎は多くを語る人間ではなかった。
しかし俺の問いかけには必ず返事を返してくれた。
子供は好きかと聞かれたので、
「行動に
と答えた時、ニコリと笑ったことが炭十郎の唯一の感情表現だった。
いつしか炭十郎の口調は柔らかくなっていた。
「ありがとう猗窩座、助かったよ」
「構わない。慣れている」
皮を剥ぎ、内臓を取り、血抜きを済ませた肉を、頭部、手足、胴体に切り分けて、持ち運べるよう袋へ詰めていく。
もはや、慣れたものだった。
最後に残った毛皮を別の袋へと詰め込むと、俺たちはどちらともなく立ち上がった。
炭十郎の顔色は少し悪く、身体は痩せ細っていた。
何も知らない者が見れば、弱者としか映らないだろう。
にも関わらず、解体作業にも疲れた様子はなく、慣れた手つきで作業を進めていた。
この植物のような男を注意深く観察して、ようやく気付いたことがある。
ごく
あまりに自然。一切の無駄が無い。
今まで倒した柱にも、ここまで呼吸を極めた者はいなかっただろう。
そして今もなお、俺の
俺は一体何と話しているのか、まるで植物を相手にしているようだった。
『面白い。
俺が目指す至高の領域。
今までは
この男ならば何か知っているかもしれない』
「炭十郎。育ち盛りの子供が沢山いるのだろう。
解体した肉と毛皮は、全て持っていけ。
その代わり、俺と立ち会ってくれないか?」
「私は貴方のような武人に請われる身ではない。
病弱な、しがない
穏やかな
「
俺の前で爪を隠すのはやめろ」
「・・・では、熊肉のお礼に少しだけでしたら。
それと、立ち会いに際して約束をして頂きたいのですが」
「何だ?」
「私では貴方に
しかしそれでは勝負が付かない。
なので貴方の首を切ることができれば、私の勝ちとさせてください」
穏やかな口調で、まるで今日の天気の話でもするかの如く、その言葉は静かに俺の耳に響いた。
常の己ならば激昂して、目の前の男の
だが、今は違う。
いとも容易くそれを成せると言ったのだ。
目の前の男は。
思わず
「分かった。それでいい」
「それともう一つ」
「何だ?」
「日取りは、私の体調の良い日にさせてください」
「分かった。
それは俺も望むところだ」
「最後に一つ。
これは忠告なのですがーーー」
「何だ?」
「俺の家族に危害を加える者は、
たとえ鬼であろうと、容赦はしない」
初めて向けられた殺意に、死を感じたーーー
この男にとって守る者は、家族なのだろう。
俺にはもう、そんなものは残ってはいないが・・・
「・・・俺の名は狛治。
我が妻、恋雪の名にかけて、
正々堂々とやり合うことを誓おう」
「・・・良いでしょう。
では袋を持って、私に付いて来てください」
「どこへ行く?」
「貴方が追い込み、私が仕留めた熊です。
先ほどは解体まで手伝って頂いた。
ここは猟師の習いとして、家で熊鍋をご馳走しましょう」
まだ戦いません。
本来の予定では、猗窩座が炭十郎に負けて殺されそうになるところを、ギリギリで響凱が助け、代わりに死ぬという筋書きでしたが・・・
何故か生き残ってしまいました。