未来の花   作:ZANGE

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第51話
Side: 猗窩座


竈門家 前編

「にくだ!」

 

「美味しい!」

 

「美味しいねえ!」

 

「ああぁぁぁあ!!」

 

「はいはい。

 (しげる)、ちょっと待っててね」

 

子沢山(こだくさん)とは聞いていたものの、まさか五人兄弟とは。

 

食事中だろうと何だろうと、コイツらには関係ない。

常に二人以上の声が家の中を飛び交い、その活発さに圧倒される。

 

珠世(たまよ)の屋敷での日々を懐かしく感じる。

 

『そう言えば、鳴女(なきめ)に呼び出されたことをアイツらに言ってなかったな・・・

 一人で修行するとは伝えていたし、目標も与えた。

 今頃は修行に明け暮れている頃だろう』

 

「・・・・・・」

 

狛治(はくじ)さん、騒がしくて申し訳ない。

 久し振りのご馳走なんだ」

 

「いや、考え事をしていただけだ。

 気にするな、炭十郎(たんじゅうろう)

 それよりも、そこのお前」

 

一人だけ(はし)も付けずに兄弟達の世話をしている長男を呼ぶ。

 

「え?はい!

 何ですか?」

 

「お前は肉が嫌いなのか?」

 

「そんなことないです!好きです!」

 

「そうか。

 それならこれも食え」

 

ずい、と自分の為に用意されたお椀を少年の目の前に差し出す。

 

「ええ!?そんな、貰えないですよ」

 

「遠慮をするな。

 俺はさっき、新鮮な肉を食ってきたばかりだ」

 

炭治郎(たんじろう)。遠慮は美徳だが、

 人の好意を受け取ることもまた、

 相手を思いやることなんだよ」

 

「父さん・・・分かりました!

 では、いただきます!」

 

意識を切り替えた少年の行動は早かった。

差し出しされたお椀を受け取ると、今までの遠慮を投げ捨てる勢いで、ガツガツと平らげていく。

 

見る見るうちにお椀は空になっていた。

 

「ふぅ。美味しかったです!

 狛治さん、ありがとうございます!」

 

屈託のない笑顔が眩しい。

 

感謝されるほど、大したことはしていない。

にも関わらず、他者からこんなにも感謝を向けられる事などーーー

 

「・・・いい食いっぷりだった」

 

考えてみれば、周囲の他者を優先するような性格の子は俺の周りには居ない。

しかしそれも当たり前か。

守るべき者、守られるべき大人を失った者ばかり。

 

全員が全員、生きる事への執着が強い、変わり者の集まり。

沙代(さよ)もいつしか、遠慮がなくなっていたしな。

 

『炭治郎と言ったか・・・』

 

「ああーーー!

 兄ちゃんだけずるい!」

 

「にくー!」

 

「みんな、少しは取っておかないと。

 明日の分がなくなっちゃうでしょう?」

 

「・・・炭十郎。今夜くらいは良いだろう。

 肉ならまた取ってくればいい」

 

「狛治さんがそう言うなら・・・

 葵枝(きえ)、残りの分も出そう」

 

「あら、珍しいですね。

 分かりました」

 

葵枝と呼ばれた、幼子を背負った奥方が台所へと向かう。

 

「炭十郎の言葉は正しかったな」

 

「炭治郎が分かりやすいだけですよ」

 

「何?狛治さん、父さんは何て言ってたの?

 ・・・言ったのですか?」

 

「炭治郎は『我慢強い子』『兄弟想いの優しい子』と言っていた。

 反面『抱え込み過ぎて心配なところもある』とな」

 

「へえ〜〜〜。

 父さんが・・・」

 

「炭治郎、お前の父は凄い男だ」

 

「そうなの?

 ・・・そんなんですか?」

 

頑張って敬語を使おうとする炭治郎には悪いが、俺に敬語は不要だ。

 

「お前は礼儀正しい子だ、炭治郎。

 とは言え、慣れない敬語は使わなくていい」

 

「・・・・・・」

 

顔を真っ赤にして恥ずかしがる炭治郎を見て、長女が笑う。

 

「ふふふ・・・

 お兄ちゃん、赤くなってる」

 

「・・・・・・はい」

 

「炭十郎の話だったな。

 八尺(はちしゃく)大熊(おおぐま)を仕留めたのは炭十郎だ。

 あっという間に熊の首を切り落としたあの早業(はやわざ)

 およそ人間業(にんげんわざ)ではない」

 

今思い出しても、ゾクゾクする。

もし得物(えもの)が鬼狩りの刀だったとすれば、俺を殺し得る斬撃。

背筋が凍るほどに、その技は冴え渡っていた。

 

思いを巡らせていると、当の本人から申告があった。

 

「狛治さん、子供たちには伝えていないんです」

 

「何故だ?

 子供は強者に憧れるもの。

 子を強く育てるのも親の務めではないのか?」

 

竈門家(かまどけ)は代々、神楽(かぐら)を受け継ぐ者。

 強さは、無用な厄介事(やっかいごと)まで呼び寄せてしまう。

 それでは駄目なのです」

 

『厄介事・・・』

 

「そうか・・・そうだな。

 このことは他言無用(たごんむよう)にする。

 しかし、いずれ継ぐのだろう?」

 

「時が来れば」

 

「そうか」

 

炭治郎を見る。弱い。圧倒的に弱い。

まだ子供故に仕方のないことだが、話にならない。

この子供が強くなるなどと信じられないが、継ぐのはこの子だろう。

 

周りの兄弟へと気を配る配慮。

少しでも親の負担を減らそうとする心。

笑顔で家事を手伝う振舞い。

綺麗事の塊のような子供だが・・・

甘い。甘過ぎる。

 

自分の事を二の次にしているせいで、自己鍛錬(じこたんれん)が全く出来ていない。

人間の時間は有限(ゆうげん)

このままでは成長が見込めない。

 

この世はそれほど甘くない。

もし炭十郎がいなければ、野獣か強盗か賊か、或いは鬼か。

この家の者は抵抗できないまま、奪われるだけだろう。

 

しかし考えてみれば、何故このような地に炭十郎のような強者が住んでいるのか・・・

何か秘密があるのだろうか。

 

 

 

鍋が空になった頃、小さな子たちは、うつらうつらと船を漕ぎ始めていた。

 

「炭十郎、今夜は冷える。俺が火の番をしよう」

 

「狛治さんも雪山を越えられて、さぞお疲れでしょう。

 ここは私が見ておきます」

 

「お前が早々に仕留めたお陰で、体力が有り余っている。

 一宿一飯(いっしゅくいっぱん)の礼だ。これぐらいはさせて貰おう」

 

「そうでしたか。

 では私もご一緒しましょう」

 

「そうか。分かった」

 

まるで事前に話を決めていたかのように、どちらともなく居残るよう話が進んでいく。

 

「葵枝。こちらは大丈夫だから、

 子供たちを寝かしつけたらお前も休みなさい」

 

「分かりました。

 炭治郎、禰豆子(ねずこ)。行きますよ」

 

「はい!」

「はーい!」

 

葵枝が三男の茂を、炭治郎が次男の竹雄(たけお)を、禰豆子が次女の花子(はなこ)を連れ立って、寝室へと下がっていく。

 

炭治郎と禰豆子の二人は、(ふすま)を閉める際にぺこりと頭を下げてから去っていった。

 

『この礼儀正しさは、うちの馬鹿弟子達に爪の(あか)(せん)じて飲ませたいくらいだ・・・』

 

 

 

 

 

人の気配が去った静かな場に、炭十郎の呟きが溢れる。

 

「狛治さん。

 炭治郎と話してくれてありがとう。

 あの子はいずれ、ヒノカミ神楽を継いでゆく。

 貴方のことは一生忘れないだろう・・・」

 

「炭治郎か。不思議な子だ。

 見ていると、昔を思い出す。

 しかし、そうか・・・

 ヒノカミ神楽と言うのか」

 

「ああ、その舞を後世に伝えゆく約束なんだ。

 私はまだ、炭治郎に伝え切れていない。

 貴方が私との約束を守るなら、

 三日後、私も約束を果たしましょう」

 

「二言はない。

 それに、お前の家族を見ていると懐かしい気分になる。

 約束のついでだ。お前の家族も守ってやろう」




明けましておめでとう御座います☀️

この絡み、セリフが、イメージが難しい・・・
しかし考えてみれば、そりゃそうだろう。
まさか猗窩座が炭治郎の父さんと同じ食卓を囲うことになるとは思うまい。

あまりにイメージが湧かないので、アニメ版の声を思い浮かべながら作りましたが、どこまで近づけたことやら。
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