未来の花   作:ZANGE

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第56話
Side: 響凱


小生、十二鬼月の末席を汚す者 参

「・・・響凱と・・・言ったか・・・

 ・・・猗窩座は、どこだ・・・?」

 

猗窩座様と別れて数日、山を離れるべきかどうか悩んでいたところ、

目の前に最凶剣士(トラウマ)が不意に現れた。

 

「・・・こ、ここ、黒死牟様!!?」

 

走馬灯が蘇る。

 

以前は殺気を当てられただけで意識を失った。

 

あれから随分と死に鍛えられたお陰で、今ではより強く、その強大な鬼気を肌で感じられる。

 

不思議な感覚だった。

山を登れば登るほど、より遠く感じる。

今の方が、以前よりも尚、遠い。

 

こちらを値踏みするような目と目が合う。

 

「・・・どうした・・・?

 ・・・殺気は、抑えている・・・」

 

そこにいるだけで感じる、凄まじい存在感。

 

はっきりと分かる。

鬼とか人間とか以前に、生物としての格が違う。

師ならともかく、小生の如き者が気軽に相対して良い相手ではない。

 

ゆっくり、冷静に両膝を着き、平伏して頭を下げる。

 

『ここで答えを間違えれば、小生は死ぬ』

 

下弦の陸と上弦の壱。

同じ十二鬼月とは言え、その実力には天と地ほどの隔たりがあった。

 

からからに乾いた喉に、ごくりと唾が流れる。

 

「猗窩座様は、ここにはおりませぬ。

 今ごろは、気に入った強い人間と戦っていることでしょう」

 

「・・・そうだ・・・その人間・・・

 お前も・・・見たのだろう・・・

 どのような人間だった・・・?」

 

何故ーーー?

最初に感じたのは疑問だった。

 

黒死牟様までもが、あの不気味な強さの男のことを知りたがるのか・・・

 

嫌な予感がする。

背中を這いずるような、嫌な予感が。

 

ひょっとしたらーーー

もしかしたらーーー

 

そんなことはあり得ない。

そう、自分に言い聞かせていた不安が、再び頭をもたげてくる。

 

「額に痣のある、不気味な、植物のような男でした」

 

「痣者・・・植物のような・・・

 まさか・・・その男・・・」

 

ぶつぶつと思考しながら呟くこと数秒。

僅かな思考の後、黒死牟様は小生に命令を下した。

 

「響凱・・・

 猗窩座の元へ・・・案内せよ・・・」

 

「承知しました。案内致します。

 その前に、お願いしたき儀がございます」

 

小生は腹に力を入れて、言葉を紡いだ。

 

「・・・言ってみろ・・・」

 

「猗窩座様は、その者との勝負を心から望んでいます。

 至高の領域へ至り、貴方に勝つために。

 ですから勝負が決するまでは、どうかお待ち頂けませんでしょうか」

 

「・・・・・・」

 

瞬間、細切れになった体が、雪の残る地面へと落ちた。

 

『痛い・・・』

 

慣れたもので、僅か数秒で体が再生する。

何度となく殺される内に、事前に意識して殺されると、再生速度が上がる術を身に付けていた。

 

平伏した体勢のまま、再度声をかける。

 

「そこを何とか、お願い致します」

 

細切れになる。

 

再生する。

 

土下座する。

 

微塵切りになる。

 

再生する。

 

土下座する。

 

ミンチ肉になる。

 

再生する。

 

土下座する。

 

繰り返すこと数分。

最後にため息のような音が聞こえた。

 

ハッとして頭を上げると、濃密な殺気を至近距離で浴びせられる。

 

「・・・次は・・・ない・・・」

 

それだけ言うと、黒死牟様の手から刀が霧消した。

 

「猗窩座に・・・伝えておけ・・・

 負けることは・・・許さぬと・・・

 ・・・また来る・・・」

 

現れた時と同じく、唐突に黒死牟様の気配が消えた。

 

張り詰めていた緊張の糸が切れる。

かろうじて繋ぎ止めていた意識も、そこで途切れてしまった。




このところ過去一忙しく、投稿が遅れてすみません。

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