Side: 響凱
蛙の合唱が響き渡る深夜。
町外れの
月明かりに照らされて男の輪郭が浮かび上がる。
「こんなところで出会うたぁ、実に運が良い!
その気配、十二鬼月だな?」
「そうだ。
若輩ながら末席を汚している。
そういうお前は、ひょっとして柱か?」
宝石を散りばめた派手な額当てを着け、花火のような化粧を左目の周りにした男。
「俺は柱じゃねぇ。が、いずれ柱になる男!
ここでド派手にお前を倒せば、晴れて柱だ!」
そんな派手な大男が包を開くと、大きな刀身の二刀が煌めいた。
『
「
どんな攻撃が来るのかと構えていれば、目の前の地面が爆発した。
辺りに濛々と煙が立ち込める。
「・・・
『だがーーー』
ポンッ
『小生の鬼血術は、空間ごと切り裂く』
五条の斬撃が空間ごと切り裂き、土煙の向こう側の景色を映す。
しかしそこには影も形も、罠さえも無かった。
『!!?』
ゾクっと嫌な予感が背筋を走る。
咄嗟にしゃがみ込み、首元に迫っていた刀身を躱す。
しかし相手は二刀流。
もう片方の斬撃が避けた先へと迫る。
キンッ!
刃物が擦れ合う音が辺りに響いた。
その間に距離を取る。
弾かれるとは思っていなかったのか、相手はこちらの様子を注意深く見詰めていた。
「なんだそりゃあ・・・?
その地味な鼓、鬼血術だろう。
それがどうして
血鬼術で生み出した長さ三尺ほどの棒を右手に、派手な男と対峙する。
「これは
察しの通り、太鼓の撥のようなものだ。
実際のものよりは、かなり長いが・・・」
手元で鼓枹をくるくると回す。
くるくる、くるくる、くるくる。
「地味というのは、取り消せ!」
ポンッ!
腕を背中に回す事なく、鼓枹で背中の鼓を打つ。
瞬間転移。
一瞬にして男の背後へと移動する。
「なッ!?」
そのまま、男の
ドン!
火薬が爆発する。
確実に当たると思っていた打撃は、火薬玉に当たって弾かれていた。
男は振り向く事なく、隠し持っていた火薬玉をばら
「おいおい!
地味に派手な血鬼術を隠し持ってるじゃねぇか!」
手元でくるくると鼓枹を回しながら、間合いをはかる。
「小生にとって、鼓打ちは大切なもの。
お前は自分にとって大事なものを貶されて、黙っていられるのか?」
「ハッ!そんなもの、答えは一つだろうが!」
男はそう言うと、こちらに見せつけるように両手の大刀をグルグルと回し始める。
「ド派手にやり返す!!」
その回転が目にも見えないほどの速さに到達すると、男の周囲に爆発が発生する。
『音の呼吸、伍の型ーーー』
「
ドドドドドン!!!
掠ったものを次々と爆発させながら、回転する斬撃が襲い来る。
棒術の要領で迎撃するも、相手は鬼狩用の日輪刀。
はっきり言って分が悪い。
斬撃を受けた鼓枹は寸断され、更に爆風で吹き飛ばされていった。
『ここだ!』
ポポンッ
空いた両手で、ほぼ同時に腹と背、二つの鼓を打つ。
並の相手なら一撃で終わる、瞬間転移と空間攻撃の合わせ技。
その上、武器を失ったと見せかけ、相手を油断させての一撃。
しかし目の前の男に油断や慢心はなく、その僅かな動きから攻撃を察知し、素早く飛び退いて回避していた。
「厄介な血鬼術だ。
だが、お前自身はそれほど強くない。
付け焼き刃の棒術で、俺様に勝てると思うなよ!」
「・・・五月蝿い人間だ。
そんなことは小生が一番よく分かっている」
右手に新しい鼓枹を生み出して回す。
くるくる、くるくる。
ポポポポンッ
転移に転移を重ね、反撃の間も与えず男のいる場所を次々に切り裂いていく。
ポポポポポンッ
「ハッ!やるじゃねぇか!」
逃げる。逃げる。逃げる。
男は次々に襲いくる斬撃を全て躱しながら、ジッとこちらを見ていた。
「だが、この程度の攻撃で俺様が!」
避ける。飛び退く。躱す。
徐々にだが、男の避ける動作が小さくなっていく。
「やられるわけねぇだろうが!」
斬撃を擦り抜けるようにして、男の大刀が伸びるように迫る。
『この男、強い!
本当に柱じゃないのか!?』
首元に迫る刃をギリギリで避けるも、切っ先が急に曲がり、鼓枹を持つ右手が腕ごと切り落とされた。
すんでのところで、左手で背中の鼓を打つ。
ポンッ!
だが、相手の男の瞳は、まるで未来を見通すかのように、既にこちらの転移先を向いていた。
「そこだ!!」
『しまった!!』
鳩尾から脳天まで冷たい危機感が突き抜け、ゆっくりと時が流れゆく。
転移先へ先回りされたかのように、喉元へ刃が迫ってくる。
避けられない。
ザクッ!
喉に刃が食い込んでいく。
右手の再生は間に合わない。
転移も間に合わない。
やられると覚悟した瞬間、刃が少しずつ喉から抜け落ちていった。
「うおおおお!」
派手な男の叫び声があがる。
生命を脅かしていた刃が首元から離れ、男の体が後ろへと飛んでいく。
『・・・危なかった・・・』
左大腿部の鼓。
唯一左手が間に合う位置にある血鬼術。
その効果は、相手の重力を後ろに回転させること。
強力な血鬼術ではあるものの、効果範囲はそれほど広くない。
間合いの仕切り直しに一度だけ使える、初見殺しの技。
しかしそれでも、首と右腕を再生するには十分な時間だった。
せめてリーチのある獲物がないと、師匠に近づけもしなかった、響凱の修行時代。