Side:弟子
「けいご、お前はどこまで強くなりたい」
師匠から放たれる攻撃。
拳打、掌底、突き。
まともに受けられない威力のそれを、
右手でいなし、払い、避ける。
「理不尽な、鬼から、自分と、周りの人を、守れる、くらいです!」
中段突き、下段突き、双手突き。
逸らし、打ち払い、避ける。
「鬼の性質や血鬼術については教えたな。
なりたての鬼ならもう負けないだろう。
どれくらいの鬼より強くなりたい」
乱打、乱打、乱打。
両手で払う払う払う払う払う払う!
「そりゃ、師匠を、倒せる、くらいです!」
「ほう・・・」
そう呟くと師匠は獰猛な笑みを浮かべた。
いやいや待ってよ師匠なんでそんなに怖い笑顔してるの。そもそも師匠以外の鬼を知らないんだから仕方ないでしょう。目標が師匠って言ったら、可愛い師弟のほのぼのストーリーじゃないか!!そんなに気合い入れないで!こっちは人間だって事忘れてない!?
なるほどこれが走馬灯かと思うほどに、思考が高速回転していく。
故に、途中までは過去最高の反応が出来たと思う。
上段蹴り、回し蹴り、二段蹴り。
躱す、打ち払う・・・
『あ、無理』
なんだ今の技は。
下半身と頭部へほぼ同時に打ち込まれ、気付けば倒れていた。
しかし悲しい哉、倒れる事に慣れてしまった身体は、考えるよりも先に起き上がってくれる。
意識があるのに倒れていたら、平気な顔して追撃が来るからだ。
それに最後の二段蹴り、あんなヤバい技を出して来るって事は、恐ろしく機嫌が宜しくない。
良くないのではない。
寧ろ良いのだ。良いから困るのだ。
どんどんテンションが上がっていって、体のいいサンドバッグ代わりにされるんだ。
さて、師匠の機嫌はどうだろう・・・?
今ので、少しは元に戻ってくれてると嬉しい。
恐る恐る師匠の顔を伺う。
と、実に楽しそうな表情で待っていた。
『あ、これマズいやつだ』
「いやいやいや!ちょっと待ってくださいよ!」
「・・・けいご、素晴らしい提案をしよう」
「はい?」
もう、嫌な予感しかしない。
この笑顔を見たら、人喰い熊だって逃げ出すに違いない。
「お前も鬼にならないか?」
「・・・は?」
イマナンテ?
思考がフリーズ。
説明プリーズ。
「お前も鬼になれば、俺の攻撃を受けても死にはしない。
そうすれば百年でも二百年でも鍛錬し続けられる。
お前の才能なら、いずれ俺より強くなれる」
なるほど。
つまり鬼になったら、手加減無しの師匠に今後何百年もサンドバッグにされ続けるって事だな?
「死んでも嫌です」
こうなった時の師匠は人の話を聞かないから困る。
なんとか元のテンションに戻って貰うしかない。
まったく、とんでもない師匠だ!
さて、そうなると・・・
今日はプランBでいきますか。
「人の身で俺を倒すと言い張るか!良いだろう!
お前の成長が楽しみだ!!」
『術式展開』
師匠の足元に、雪の結晶のような模様が浮かび上がる。
ああ、始まった・・・
『破壊殺・羅針』
師匠の血鬼術。
全方位の気を感知するとかいう謎の武人理論で、例え背中から攻撃しても避けられてしまう。
「さて、けいご。おさらいをしよう」
弱点と言えば、闘気の無いものには反応しない事。
「素流の構えは、自分の身を守り、相手の牙を折るために突き出した腕と、相手を牽制し、倒すためにやや引いた腕をもって相手と相対する」
例えば、見えない位置から石を投げたとする。
これは投げた人間の気を感知して避けられる、らしい。
「腰は低く、両足は親指の付け根に体重をかけ、踵は皮だけが大地に触れるようにやや浮かしておく。そして体の重心を常に真ん中に置く事で、あらゆる角度から攻撃されても対処できるように立つ。これが基本」
一方で、目の前にある落とし穴を感知する事はできない。
よく分からないが、そこに気は無いからだそうだ。
「我が師、素山師範は、強く優しい人だった・・・
だが、この世にはどうしようもなく卑怯で弱い人間もいる。
けいご。お前の敵は腕っ節の強い鬼だけではない。
血鬼術には、人の心が反映される。
お前は人の心を見抜く人になれ!」
原理は分からないが、要するに、人の手を離れて時間が経過したものは、師匠の感知に引っ掛からないのだと思う。
とは言え、並の罠なら師匠の観察力で気付かれてしまう。
「では、師の言葉に従って伝えよう。
弱い『お前をボコボコにやっつけてやる』
そして『生まれ変わって』強くなれ!」
必要なのは、分かっていても避けられないような罠。
ここ数日間、早朝の時間帯に作っておいた、心理の穴を突いた罠の数々。
プランBをーーー!!
その後、相手が強くなれば強くなるほどテンションが上がってうっかり手加減を忘れてしまう師匠と、鍛えれば鍛えるほどに罠師としての成長著しい奇妙な弟子との交流は、約1年に渡って続けられた。
あの台詞が言わせたかっただけのギャグ回。