Side: 猗窩座
花火の打上げ場所が見渡せる、小高い場所へ辿り着く。
夜空には静寂が戻り、地上では数え切れないほどに並ぶ屋台が賑わいを見せていた。
「・・・そこか」
紺色の着物を黒帯で締めた普段の着流し姿のまま、花火を見に来た人達で、がやがやと賑わう人混みの中へと入っていく。
そのまま見知った闘気を持つ人物へ向かい、人の流れの隙間を縫うように歩いていった。
やがて土手の坂道に馬鹿弟子の一人を見つけると、音もなくその背後に立つ。
「獪岳」
「うわッ!!
あ、猗窩座さんか・・・
え?猗窩座さん!?
今までどこ行ってたんですか!?」
飛び上がるほど驚いたのは、黒い着物姿の年若い少年。
普段は無愛想な方で、ころころと表情が変わっていく姿は新鮮だった。
「まだまだだな。
俺がその気なら、お前は死んでいたぞ」
「そんな、今のは殺気が無かったからーーー」
その時、棒に刺さった猫の飴細工を両手に持ち、自分を目掛けて突撃してくる懐かしい子供の姿が見えた。
「はくじーーーーー!!!」
ぴょん、ぴょんと飛び跳ねる沙代の持つ飴細工が、服に当たらないようにサッと持ち上げ、肩車に乗せた。
花柄の着物が、紺の着物の上に明るく映える。
「かいがくをたおせー!」
無邪気な言葉にも、一理ある。
久し振りの邂逅だ。
寧ろその方が俺たちには相応しい。
「それもそうだ。
獪岳、どれだけ成長したか見てやろう」
「はぁ!?」
両手で沙代を支えつつ、獪岳の鼻先を掠めるように、足刀での寸止めを放つ。
「え、ちょ、待っ!
猗窩座さん!」
「安心しろ。
手加減はしてやる」
騒ぎになると面倒なため、決して当たらないように足技を繰り出していく。
前蹴り
髪の毛が舞い落ちる
「待っ!」
半回転からの後ろ蹴り
着物の袖が切れる
「ちッ!」
二段蹴り
膝と胸を僅かに掠める
「クソッ!」
回し蹴り
目鼻の先を掠める
「ふッ!!」
始めは避け切れていなかった獪岳の動きが、少しずつマシになってくる。
「ようやくその気になったか」
口端が持ち上がる。
さて、獪岳はどこまで反応できるだろうか。
反応速度を見極めながら、同じ蹴り技でも少しずつ速度を上げ、反復することで限界を引き出していった。
「このくらいで良いだろう」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・っす!!
ありがとうございました!」
息も絶え絶えに、河川敷に立ったまま膝に手をつく獪岳。
そんな獪岳に少しだけ助言を送る。
「反応速度は悪くない。その速さはお前の武器だ。
だが、最後まで反撃してこなかったな。
相手の力量を見極めるのは良いが、見極めたなら更に一歩、踏み込んで見せろ。
今のままでは、どれだけ修行して強くなろうと、強者に媚び諂う未来しか見えない」
以前から自覚はあるのだろう。
復讐心は人一倍強く、強くなるための努力を惜しまない、努力家の一面を持っている。
だがそれも、自分が安全な場所にいる限りの話。
獪岳には闘う者としての覚悟が足りていない。
「・・・はい」
いくら守られているとは言え、それなりに動いた後にも関わらず、肩の上に乗っている沙代は元気一杯だった。
「かいがく、弱い?」
「今のままではな。
だが、切っ掛けは与えた。
あとは本人の心次第だ」
「かいがく、強くなる?」
「当たり前だ。
誰の弟子だと思っている。
それにもし弱いままなら、俺が強制的に根性を叩き直してやる」
「ふーん・・・
そうだって、かいがく」
「・・・チッ・・・
そう言えば、猗窩座さんはどうしてここに?」
その表情は純粋なもので、嘘や駆け引きとは無縁のものだった。
とすれば、あの花火を用意した犯人は自ずと決まってくる。
「・・・そうか、そういう事か。
慶吾め、やってくれる」
いつの間にか辺りから人気が無くなっていた。
それは、花火の後にしては不自然な光景だった。
「獪岳!!」
「はい!」
何やら不穏な空気が辺りに漂っている。
肩に乗せていた沙代を持ち上げ、意識を切り替えた獪岳へと渡す。
「沙代を守れ!!
これは命令だ!」
「はい!」
その手を放した瞬間、直前まで立っていた地面が陥没するほどの衝撃が走る。
見れば、巨大な鉄球が地面に突き刺さっていた。
「・・・鬼は、滅するのみ」
「・・・見違えたぞ、行冥」
そこには、鬼殺隊を示す隊服を見に纏った、悲鳴嶼行冥の姿があった。
2月は十日間隔の投稿でしたが、なんとか3月には七日間隔での投稿が出来そうです。
やはり人間は慣れるもの。