Side: 猗窩座
ブンブンブンブンブンーーーーー!!!
ソレは
強いて言えば、武芸十八般が一つ、
長い鎖に繋がれた、刺々しい鉄球と手斧。
鎖鎌のように、手斧を左手に構え、右手で鎖を持ち、先端の鉄球を振り回している。
人の顔より大きな鉄球が凄まじい勢いで回転する音が周囲に響く。
既に人払いは済ませていたのだろう。
周囲からは人気がなくなっていた。
鬼殺隊の黒い隊服の上から、南無阿弥陀仏と仏文字が刺繍された草色の羽織を羽織っている。
この一年、死ぬ気で鍛えたのだろう。よく視れば大きく、そして引き締まった筋肉が伺える。
軽い鎖鎌の分銅とは異なる、重量のある鉄球を軽々と振り回す姿。
今まで数多の鬼狩りを見てきたが、紛れもなく強者の一角。
行冥は、まさに柱と呼ぶに相応しい闘気を纏っていた。
「ふッ!」
僅かなひと呼吸の間に、鉄球が目の前へと迫る。
避けようと思えば避けられるソレを、両腕を眼前に突き出し、敢えて身体で受け止める。
ずざざざざーーー
あまりの威力に、思わず後ろへと圧されていた。
目を見張る成長に、心が躍り始める。
視線は行冥から逸らさないまま、呆けている馬鹿弟子へと叫ぶ。
「
「分かりました!」
「かいがく!
ひめじまさんがーーー」
「ごめん沙代。
でも、ここにいたらダメだ!」
「ひめじまさーーーーん!!」
獪岳達が離れたことを確認すると、
受け止めた鉄球をそのまま投げ返す。
行冥は鎖を器用に操り、眼前に迫っていた鉄球を逸らすと、再び元のように回転させていた。
手のひらから流れてしまった血を舐める。
「久しいなァ、行冥。
嬉しいぞ。お前の強さ。
その練り上げられた闘気、柱だな?」
鬼殺隊と鬼、相対すれば戦闘は必至。
にも関わらず、過去の因縁が二人の間に会話を生んでいた。
「忘れる筈もない、その声。
今なら分かる。貴方も鬼だったのか・・・」
「そうだ。
改めて名乗ろう、俺は
「
上弦の鬼が、一体何を企んでいる!?」
「企むだと?くだらん。
企んでいるのは、貴様ら鬼狩りの方だろう。
まさか、アレを利用されるとは思わなかったぞ」
「それはーーー」
「大方、あの馬鹿が、やらかしたのだろう。
行冥。あれからどれだけ強くなったのか、俺が興味があるのはそれだ」
「やり合う前に一つ聞きたい。
獪岳と沙代を、どうするつもりだ?」
「どうもしない。
あいつらが勝手に付いて来ているだけだ」
「・・・
「当たり前だ。
嘘や卑怯は、弱者が使うもの。
至高の強さを目指す俺には必要ない」
「そうか。
しかしーーー」
「行冥。
これ以上の問答は不要だ」
ダンーーー!!
地面を大きく踏みつけ、右掌を前に、左手を引いて大きく腰を落とす。
「ここから先は、力で押し通してみせろ」
素流の構えで、行冥と相対する。
「是非もなしーーー!」
ジャララララーーー
鎖が生き物のように行冥の周囲を舞う。
「!?」
気付けば、鉄球が目の前へと迫っていた。
しかも先ほどまでの生温い速度ではない。
受け止めれば腕ごと持っていかれそうな威力のソレを、後ろに飛んで避ける。
『
血鬼術を発動させる間もなく、横から抉り込むような角度で手斧が首元へと迫っていた。
「ハッッ!!!」
闘気を込めた右の拳で、手斧を側面から叩き落とす。
しかし、手斧の硬度は非常に高く、武器破壊までは至らなかった。
ダンーーー!!!
地面を強く踏み締める音が響くーーー
「岩の呼吸、弐の型ーーー」
見れば、行冥の足が伸びる鎖を大地に縫い付けていた。
『
いつの間にか、空高く打ち上げられていた鉄球が、頭上から振り下ろされる。
「
驚嘆すべき事だが、行冥の攻撃には間というものがない。
鉄球、手斧、鎖が生き物のように蠢き、一つを避けたと思った瞬間には次の技が迫っている。
『
その流れを断ち切るが如く、振り下ろされた鉄球へ、威力の高い乱れ蹴りを放った。
鉄球を再び空へと打ち返した好機に、行冥へ向かって走り始める。
鎖が生き物のように左腕に巻き付いて来る。
巻き付いた鎖ごと腕を切り落とす。
次の瞬間には左手が再生する。
トンーーー
瞬時の攻防を経てたどり着いた場所。
そこは既に、こちらの間合いだった。
「破壊殺・脚式ーーー」
行冥は後ろへと飛び退きながら、手斧と鉄球を見事に操っていた。
左右から挟まれるような形で二つの獲物が迫る。
だが、そんなものは関係ない!
『
右から迫る手斧を一歩で置き去りに
左から迫る鉄球を飛び越えて
空中へと回転しながら連続で飛び蹴りを放つ。
ガガガッ!!!
周囲に衝撃波が生じるほどの威力。
辛うじて鎖で受け止めたものの、行冥の身体は対岸へと吹き飛んでいった。
この二人、全然本気じゃありません。