Side: 猗窩座
あの盲目の男は、この程度で倒れてくれるような並の人間ではない。
すぐさま追い打ちをかけるべく、空中へと飛び上がった。
『
瞬時に六発、虚空を拳で打ちつける。
と、そこから放たれる衝撃波が吹き飛んだ相手を追いかけていく。
ダン!!
しかし、
六発もの衝撃波が全て空を切る。
スタッ
と、対岸の岸辺に立ち、行冥は自然体でこちらを見据えていた。
その距離、優に六十間はある。
ここから盲目の人間がどう動くのか、興味が湧いた。
手のひらを上に向け、人差し指をクイクイッと曲げて挑発をする。
しかし、彼の表情は変わらない。
「さて、どうする・・・?」
呟きが洩れた瞬間、闘気が揺れた。
ジャララララララララーーー
見れば、手斧が頭上高く伸びている。
上へと視線を向けた瞬間、恐るべき勢いで鉄球が正面から迫って来ていた。
『手斧は囮か!』
先からの手合わせで学んだことがある。
行冥は長い鎖を自在に操り、絶え間ない攻撃を仕掛けてくる。
この攻撃も、避けて終わりではない。
ゆえに、次の攻撃に繋がらないよう、止めるか弾き返す必要がある。
「
右拳を大きく振りかざし、闘気を溜めるーーー
『
迫る鉄球を、上面から思い切り殴り落とす!!
ドゴッッッ!!!
「グッ!」
『鉄の純度が高い!?
それに吸い込んだ太陽光が灼けるように熱い!』
鉄球の動きは止めたものの、右拳は焼け爛れ、肉はぐちゃぐちゃ、手の甲からは骨が飛び出していた。
その傷も一瞬で元に戻る。
その刹那の逡巡が、行冥にとっての僥倖だった。
人間離れした跳躍力で河川の上を飛び、
空中で、鉄球の勢いに引かれるような軌道を描いていた片手斧を掴む。
左手に片手斧、右手に鎖を持ち、全集中の呼吸を更に深く、強く体に行き渡らせる。
「
鎖、手斧、鉄球と共に、鷹の如く空から襲い掛かる。
『
必殺の呼吸、必殺の間合い、そしてーーー
「
その言葉が響いた瞬間、辺りの空気が凍った。
「素晴らしい闘気だった。褒めてやる」
真冬のように冷たい蒼い闘気が全身から立ち昇る。
行冥の鬼のような膂力から繰り出される猛攻はまさしく、必殺の呼吸だった。
もし首に直撃していれば、確実に死んでいただろう。
しかし、その一つとして当たることはない。
まるで未来を先読みしたかのように、全ての攻撃を避けていた。
行冥の背筋に、冷たい汗が流れ落ちる。
底冷えするような金色の瞳が、哀しげに笑いかける。
「行冥、お前に至高の一端を見せてやろう・・・」
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
「無駄だ、行冥。
お前の攻撃はもう当たらない」
しかし、届かない。
鬼殺隊の最高戦力たる柱が、全ての攻撃を避けられるなどと、悪夢以外の何ものでもない。
鎖も手斧も鉄球も、攻撃をされる前から既に避けており、広範囲の技はその出掛かりを衝撃波で潰す。
目が見えないからこそ、行冥は何かが変わった事を明敏に感じていたようだ。
だが、そこまで。
最後まで見えない何かを突き止めようとしていたが、
それが何なのか、今の彼の力量では悟ることができなかった。
しかしながら、だからと言って諦めるような者が、僅か一年で柱に届く筈もない。
「この見えぬ目は、本質を見抜く・・・
お前達鬼にできることは、必ず人間にもできる!」
その叫びは、
『お前ら人間にできて、俺にできないものなどない!』
最近のことのはずなのに、もう随分と昔のことのように感じられる。
「・・・お前は正しい。
この『透き通る世界』は人間から教わったものだ。
これでもまだ、ヤツの全力には及ばないだろうが・・・」
「何、だと・・・!?」
「世界は広いぞ、行冥。
柱より強い人間も、世に隠れているものだ」
「・・・・・・その者の名は?」
「それは言えない約束だ。
行冥も短期間でよくぞここまで鍛錬した。
お前はまだまだ強くなる。
次に相見える時を楽しみに待っているぞ」
さぁ、馬鹿弟子の闘気は・・・
意識を次へと切り替え、立ち去ろうとするのを、行冥が呼び止める。
「・・・待て!!
私を殺さないのか!?」
「・・・・・・」
コイツは一体何を言っている。
何のために
まったく理解できない。
やはり柱たちはみな、人の話を聞かないのだろうか。
「そんな事をして何になる?
二度とお前と戦えなくなるじゃないか」
「は・・・?
それでは何故、あの地主を殺した!?
何故沙代を拐った!?
私を追って来るためではなかったのか!?」
その時、沙代と
「はくじーーーーー!!!」
「悲鳴嶼さーーーん!!!」
元気いっぱいに駆けてくる沙代。
猗窩座の腰元へ全力で体当たり、体をよじ登り、肩車をせがむ。
沙代、髪の毛を引っ張るのだけは、ちょっと痛いからやめようか。
そこへ遅れて、獪岳も合流する。
「沙代・・・?」
先ほどまでの覇気が抜け落ちたような、そんな弱々しい呟きが行冥の口から溢れた。
柱になりたての悲鳴嶼さんなら、このくらいの強さなのかなという妄想です。
全集中の呼吸・常中を行うと、どんどん身体が強く鍛えられるようですし。
猗窩座の透き通る世界は完璧ではありません。
血鬼術で五感の感覚を底上げして、ようやくといったところです。