未来の花   作:ZANGE

63 / 97
第63話
Side: 猗窩座


盲目と悲哀と

あの盲目の男は、この程度で倒れてくれるような並の人間ではない。

 

すぐさま追い打ちをかけるべく、空中へと飛び上がった。

 

破壊殺(はかいさつ)空式(くうしき)!!!』

 

瞬時に六発、虚空を拳で打ちつける。

と、そこから放たれる衝撃波が吹き飛んだ相手を追いかけていく。

 

ダン!!

 

しかし、行冥(ぎょうめい)は受け身を取る事なく大地を蹴り、瞬時に反転して空へと飛び上がっていた。

 

六発もの衝撃波が全て空を切る。

 

スタッ

と、対岸の岸辺に立ち、行冥は自然体でこちらを見据えていた。

 

その距離、優に六十間はある。

ここから盲目の人間がどう動くのか、興味が湧いた。

 

手のひらを上に向け、人差し指をクイクイッと曲げて挑発をする。

しかし、彼の表情は変わらない。

 

「さて、どうする・・・?」

 

呟きが洩れた瞬間、闘気が揺れた。

 

 

ジャララララララララーーー

 

見れば、手斧が頭上高く伸びている。

 

上へと視線を向けた瞬間、恐るべき勢いで鉄球が正面から迫って来ていた。

 

『手斧は囮か!』

 

先からの手合わせで学んだことがある。

行冥は長い鎖を自在に操り、絶え間ない攻撃を仕掛けてくる。

この攻撃も、避けて終わりではない。

 

ゆえに、次の攻撃に繋がらないよう、止めるか弾き返す必要がある。

 

破壊殺(はかいさつ)砕式(さいしき)ーーー」

 

右拳を大きく振りかざし、闘気を溜めるーーー

 

万葉閃柳(まんようせんやなぎ)!!!』

 

迫る鉄球を、上面から思い切り殴り落とす!!

 

ドゴッッッ!!!

 

「グッ!」

 

『鉄の純度が高い!?

 それに吸い込んだ太陽光が灼けるように熱い!』

 

鉄球の動きは止めたものの、右拳は焼け爛れ、肉はぐちゃぐちゃ、手の甲からは骨が飛び出していた。

 

その傷も一瞬で元に戻る。

 

 

 

その刹那の逡巡が、行冥にとっての僥倖だった。

 

人間離れした跳躍力で河川の上を飛び、

空中で、鉄球の勢いに引かれるような軌道を描いていた片手斧を掴む。

 

左手に片手斧、右手に鎖を持ち、全集中の呼吸を更に深く、強く体に行き渡らせる。

 

(いわ)呼吸(こきゅう)()(かた)ーーー」

 

鎖、手斧、鉄球と共に、鷹の如く空から襲い掛かる。

 

瓦輪刑部(がりんぎょうぶ)!!!』

 

必殺の呼吸、必殺の間合い、そしてーーー

 

術式展開(じゅつしきてんかい)ーーー」

 

その言葉が響いた瞬間、辺りの空気が凍った。

 

 

 

 

 

「素晴らしい闘気だった。褒めてやる」

 

真冬のように冷たい蒼い闘気が全身から立ち昇る。

 

行冥の鬼のような膂力から繰り出される猛攻はまさしく、必殺の呼吸だった。

もし首に直撃していれば、確実に死んでいただろう。

 

しかし、その一つとして当たることはない。

まるで未来を先読みしたかのように、全ての攻撃を避けていた。

 

行冥の背筋に、冷たい汗が流れ落ちる。

 

底冷えするような金色の瞳が、哀しげに笑いかける。

 

「行冥、お前に至高の一端を見せてやろう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 

「無駄だ、行冥。

 お前の攻撃はもう当たらない」

 

岩柱(いわばしら)悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)は持てる力の限りを尽くし、猛攻を仕掛けた。

 

しかし、届かない。

 

鬼殺隊の最高戦力たる柱が、全ての攻撃を避けられるなどと、悪夢以外の何ものでもない。

 

上弦(じょうげん)(さん)猗窩座(あかざ)の両足は、その場から一尺も動いてはいなかった。

鎖も手斧も鉄球も、攻撃をされる前から既に避けており、広範囲の技はその出掛かりを衝撃波で潰す。

 

目が見えないからこそ、行冥は何かが変わった事を明敏に感じていたようだ。

 

だが、そこまで。

最後まで見えない何かを突き止めようとしていたが、

それが何なのか、今の彼の力量では悟ることができなかった。

 

しかしながら、だからと言って諦めるような者が、僅か一年で柱に届く筈もない。

 

「この見えぬ目は、本質を見抜く・・・

 お前達鬼にできることは、必ず人間にもできる!」

 

 

 

その叫びは、炭十郎(たんじゅうろう)との修行の日々を思い出させる。

 

『お前ら人間にできて、俺にできないものなどない!』

 

最近のことのはずなのに、もう随分と昔のことのように感じられる。

 

 

 

「・・・お前は正しい。

 この『透き通る世界』は人間から教わったものだ。

 これでもまだ、ヤツの全力には及ばないだろうが・・・」

 

「何、だと・・・!?」

 

「世界は広いぞ、行冥。

 柱より強い人間も、世に隠れているものだ」

 

「・・・・・・その者の名は?」

 

「それは言えない約束だ。

 行冥も短期間でよくぞここまで鍛錬した。

 お前はまだまだ強くなる。

 次に相見える時を楽しみに待っているぞ」

 

さぁ、馬鹿弟子の闘気は・・・

意識を次へと切り替え、立ち去ろうとするのを、行冥が呼び止める。

 

「・・・待て!!

 私を殺さないのか!?」

 

「・・・・・・」

 

コイツは一体何を言っている。

何のために沙代(さよ)が命をかけたと思っている。

 

まったく理解できない。

やはり柱たちはみな、人の話を聞かないのだろうか。

 

「そんな事をして何になる?

 二度とお前と戦えなくなるじゃないか」

 

「は・・・?

 それでは何故、あの地主を殺した!?

 何故沙代を拐った!?

 私を追って来るためではなかったのか!?」

 

その時、沙代と獪岳(かいがく)が駆けてくる声が辺りに響いた。

 

「はくじーーーーー!!!」

 

「悲鳴嶼さーーーん!!!」

 

元気いっぱいに駆けてくる沙代。

猗窩座の腰元へ全力で体当たり、体をよじ登り、肩車をせがむ。

沙代、髪の毛を引っ張るのだけは、ちょっと痛いからやめようか。

 

そこへ遅れて、獪岳も合流する。

 

「沙代・・・?」

 

先ほどまでの覇気が抜け落ちたような、そんな弱々しい呟きが行冥の口から溢れた。




柱になりたての悲鳴嶼さんなら、このくらいの強さなのかなという妄想です。
全集中の呼吸・常中を行うと、どんどん身体が強く鍛えられるようですし。

猗窩座の透き通る世界は完璧ではありません。
血鬼術で五感の感覚を底上げして、ようやくといったところです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。