Side: 猗窩座
静けさを取り戻した川辺の一角。
色とりどりの花火を打ち上げた、その夢の跡。
そこに、
隠れもせず、実に堂々と、和装の腕を組みながらヤツは立っていた。
打ち上げ花火というのは、危険な代物だ。
一つ間違えれば暴発し、脆弱な人間など容易く吹き飛ばし、一生残らぬ火傷を負わせる。
ゆえに花火職人は、たかが年に数回あるかないかの花火大会のために命を賭けている。
パッと咲いて散る、桜の花びらのように。
それを片手間で成し遂げる慶吾。
元々手先の器用さと発想力は人並外れていたが、まさかあの危険物を解体して会得するとは、予想だにしなかった。
コイツは職業花火師として働いた方が、世の役に立つのでは?
と思わず感心したくらいである。
「あ、師匠!」
無遠慮に呼ぶ声に、一瞬毒気を抜かれそうになる。
とは言え、コイツがあの花火を使わなければ、
低く、他の底から唸り声をあげるように、馬鹿弟子の名を呼ぶ。
「慶吾。
覚悟は、できているんだろうな・・・?」
「ふーーー」
馬鹿弟子はニヤリと笑い、
流れるような動作で大地に土下座を決める。
「すみませんでしたァァァ!!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言の時が流れる。
そうか。
つまりコイツは、こうなると分かっていたわけだ。
「慶吾、頭をあげろ」
「はい!」
俺には
頭を上げさせると、事情を聞くことにした。
「お前ほどの男を唆したのは、誰だ?」
「それが・・・オレにも分からないんです」
「・・・詳しく話せ」
花火を打ち上げるに至った経緯を、慶吾は少しずつ話し始めた。
当初は
川辺で花火を用意していると、どこから話を聞きつけたのか、近所の花火師達がわらわらと集まって来て、気付けば花火大会の様相となってしまった。
その時は、師匠は花火が好きだから、一発だけ花火を上げるよりも、見て貰える可能性が上がるという打算もあった。
しかし、この地域のお祭り好きな人の気質は予想を超えていた。
いつの間にか近所の屋台がどんどん集まって来て、いったいどこにこれだけの人が住んでいたのかと思うほど、見物客で溢れていた。
この時、慶吾は嫌な予感がした。
真綿に締め付けられているような、フワッとした悪寒。
何か途方もなく大きな掌の上で動かされているかのような・・・
しかしもはや流れに逆らうわけにもいかず、やがて青銀乱の大輪が夜空に咲いた。
「そして師匠が降り立ち、そこに柱が現れた・・・」
さすが鬼殺隊と感心すればいいのか、いつの間にか人払いも済んでいた。
戦いにならない筈もなく。
激戦の音が辺りに響き渡った。
終わった・・・嵌められた。
これはもう、何も言い訳できない。
しかし一体どこから・・・?
こんな思い付きで始まった花火大会に、柱が派遣される。
その違和感。不気味さ。あり得なさ。
まさか鬼殺隊は、未来を見通すことができるのか・・・?
そんな答えの出ないもやもやを抱えながら、もはや逃れられぬと悟り、師匠が来るのを待っていた。
「・・・なるほどな」
そんな呟きが零れ落ちた刹那、凄まじい闘気を持つ者がこの地に唐突に現れた。
「この闘気ーーー!!」
「ぐっ!!」
突然目の前に、血の色の如き赤い旋風が舞う。
そしてーーー
「お前かぁ?
それにしゃあ・・・ひひっ。
全身土だらけで、みっともねえ格好だなああ?」
ぼさぼさの髪に、上半身裸の異常に痩せた男。
全身に鬼特有の幾つものアザを持ち、それらは痩せ細った体格と相まって醜いシミのようにも見える。
男はその醜い顔をボリボリと掻きむしりながら、慶吾を上目遣いにねめつける。
「お前を殺せば、俺も猗窩座さんに鍛えて貰えるなああ?」
続けて、冬でもないのに霰のような吹雪が舞う。
「うーん、残念。
さすが猗窩座殿のお気に入りかな。
あの柱には逃げられちゃったよ」
にこにこと屈託なく笑い、穏やかな声で優しく喋る鬼。
「でも・・・
お気に入りを勝手に壊すのは良くないよね。
だから、深くは追わないことにしたよ」
地獄の閻魔のような、黒い帽子に黒いマント。
「やあやあ、また強くなったねえ、猗窩座殿。
今日はお願いがあって来たんだ」
男が頭にある帽子をとって軽く掲げると、長い
虹色の瞳の左目には「上弦」、右目には「
上弦の弐、
投稿が遅くなりました。
遅くなった分、何か面白いサプライズが欲しいなって思ってたら、こうなりました。
この広げた風呂敷を、さてどうしましょう(笑)