未来の花   作:ZANGE

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第66話
Side: 猗窩座


馬鹿弟子と鬼

静けさを取り戻した川辺の一角。

色とりどりの花火を打ち上げた、その夢の跡。

 

そこに、慶吾(けいご)はいた。

 

隠れもせず、実に堂々と、和装の腕を組みながらヤツは立っていた。

 

 

打ち上げ花火というのは、危険な代物だ。

一つ間違えれば暴発し、脆弱な人間など容易く吹き飛ばし、一生残らぬ火傷を負わせる。

ゆえに花火職人は、たかが年に数回あるかないかの花火大会のために命を賭けている。

パッと咲いて散る、桜の花びらのように。

 

それを片手間で成し遂げる慶吾。

元々手先の器用さと発想力は人並外れていたが、まさかあの危険物を解体して会得するとは、予想だにしなかった。

 

 

コイツは職業花火師として働いた方が、世の役に立つのでは?

と思わず感心したくらいである。

 

「あ、師匠!」

 

無遠慮に呼ぶ声に、一瞬毒気を抜かれそうになる。

 

とは言え、コイツがあの花火を使わなければ、行冥(ぎょうめい)、ひいては鬼狩りどもに見つかることはなかった。

 

低く、他の底から唸り声をあげるように、馬鹿弟子の名を呼ぶ。

 

「慶吾。

 覚悟は、できているんだろうな・・・?」

 

「ふーーー」

 

馬鹿弟子はニヤリと笑い、

流れるような動作で大地に土下座を決める。

 

「すみませんでしたァァァ!!!」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

無言の時が流れる。

 

そうか。

つまりコイツは、こうなると分かっていたわけだ。

 

「慶吾、頭をあげろ」

 

「はい!」

 

俺には無惨(むざん)様のような趣味はない。

 

頭を上げさせると、事情を聞くことにした。

 

「お前ほどの男を唆したのは、誰だ?」

 

「それが・・・オレにも分からないんです」

 

「・・・詳しく話せ」

 

 

 

花火を打ち上げるに至った経緯を、慶吾は少しずつ話し始めた。

 

当初は沙代(さよ)が「はくじはくじ」と、あまりにも呼び続けるために、花火を一発打ち上げて呼び出すだけのつもりだった。

 

川辺で花火を用意していると、どこから話を聞きつけたのか、近所の花火師達がわらわらと集まって来て、気付けば花火大会の様相となってしまった。

 

その時は、師匠は花火が好きだから、一発だけ花火を上げるよりも、見て貰える可能性が上がるという打算もあった。

 

しかし、この地域のお祭り好きな人の気質は予想を超えていた。

 

いつの間にか近所の屋台がどんどん集まって来て、いったいどこにこれだけの人が住んでいたのかと思うほど、見物客で溢れていた。

 

この時、慶吾は嫌な予感がした。

真綿に締め付けられているような、フワッとした悪寒。

何か途方もなく大きな掌の上で動かされているかのような・・・

 

しかしもはや流れに逆らうわけにもいかず、やがて青銀乱の大輪が夜空に咲いた。

 

「そして師匠が降り立ち、そこに柱が現れた・・・」

 

煉獄(れんごく)槇寿郎(しんじゅろう)さんならともかく、見知らぬ柱。

 

さすが鬼殺隊と感心すればいいのか、いつの間にか人払いも済んでいた。

戦いにならない筈もなく。

激戦の音が辺りに響き渡った。

 

終わった・・・嵌められた。

これはもう、何も言い訳できない。

 

しかし一体どこから・・・?

 

こんな思い付きで始まった花火大会に、柱が派遣される。

その違和感。不気味さ。あり得なさ。

 

まさか鬼殺隊は、未来を見通すことができるのか・・・?

 

そんな答えの出ないもやもやを抱えながら、もはや逃れられぬと悟り、師匠が来るのを待っていた。

 

 

 

「・・・なるほどな」

 

そんな呟きが零れ落ちた刹那、凄まじい闘気を持つ者がこの地に唐突に現れた。

 

「この闘気ーーー!!」

 

「ぐっ!!」

 

 

突然目の前に、血の色の如き赤い旋風が舞う。

 

そしてーーー

 

「お前かぁ?

 猗窩座(あかざ)さんに鍛えられた、人間の弟子っていうのは。

 それにしゃあ・・・ひひっ。

 全身土だらけで、みっともねえ格好だなああ?」

 

ぼさぼさの髪に、上半身裸の異常に痩せた男。

肋骨(あばらぼね)は浮き上がり、骨盤が見え、腹には内臓がないかのようにくびれている。

 

全身に鬼特有の幾つものアザを持ち、それらは痩せ細った体格と相まって醜いシミのようにも見える。

男はその醜い顔をボリボリと掻きむしりながら、慶吾を上目遣いにねめつける。

 

「お前を殺せば、俺も猗窩座さんに鍛えて貰えるなああ?」

 

上弦(じょうげん)(ろく)妓夫太郎(ぎゅうたろう)が、突如としてこの地に舞い降りた。

 

 

続けて、冬でもないのに霰のような吹雪が舞う。

 

「うーん、残念。

 さすが猗窩座殿のお気に入りかな。

 あの柱には逃げられちゃったよ」

 

にこにこと屈託なく笑い、穏やかな声で優しく喋る鬼。

 

「でも・・・

 お気に入りを勝手に壊すのは良くないよね。

 だから、深くは追わないことにしたよ」

 

地獄の閻魔のような、黒い帽子に黒いマント。

 

「やあやあ、また強くなったねえ、猗窩座殿。

 今日はお願いがあって来たんだ」

 

男が頭にある帽子をとって軽く掲げると、長い白橡(しろつるばみ)色の髪をした頭のてっぺんが赤く、血を被ったかのように染まっていた。

 

虹色の瞳の左目には「上弦」、右目には「()」の文字。

 

上弦の弐、童磨(どうま)と共に。




投稿が遅くなりました。

遅くなった分、何か面白いサプライズが欲しいなって思ってたら、こうなりました。
この広げた風呂敷を、さてどうしましょう(笑)
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