Side: 慶吾
月明かりの下、山林を泳ぐように4つの影が跳ぶ。
まるで
まるで
眼下に生い茂る、地元民ですら近づかないような獣道を悠々と跳び越えていく。
たどり着いた先は、暗い森の奥地にある人工の広場。
木を切り倒し、草を刈り、土を耕す前の、多くの切り株が残った
周囲を高い針葉樹に囲まれながら、そこだけは綺麗な
草むらが風に揺れる音と、虫の音色が耳を撫でる。
周囲にいる獣たちはジッと息を潜め、暴風が通り過ぎるのを待っていた。
「遅いわね」
凶々しい花柄模様の四本の帯が、鞭のようにしなり、四方から襲い掛かる。
「こっちは人間なもので」
この日のために新調した特別性の手甲を当て、全ての帯を弾いていく。
手甲で弾き、軽やかな足捌きで避け、上半身を捻って躱し、帯を潜り抜ける。
「ふぅん。思ったよりも骨があるわね・・・」
左目に「
身体に巻きついた花柄の帯がしゅるしゅると
八本に増えた帯が周囲を威嚇するかのように、ゆら、ゆら、とうねっていた。
「そういうお姉さんは、つよかわです」
「はぁ?どういう意味よ」
先ほどの倍の数の帯が襲い掛かる。
と、強い殺気を感じ、咄嗟にバク転で距離を取る。
見れば、折り重なった太い帯が直前までいた大地に突き刺さっていた。
絶え間ない攻撃が止まった、一瞬の隙。
『好機ーーー!!!』
無防備になった相手に向けて駆け出す。
重なり合った帯が一斉に相手の周囲へと戻り、防衛陣を敷く。
『今さら慌てて引っ込めても、遅いーーー!!』
暴れ回る帯を掻い潜り、相手の鳩尾に掌底を放つ。
その様を、相手の瞳がジロリと追っていた。
「遅い。あくびがーーー!?」
「ハッ!!!」
体制が崩れた刹那に攻撃が当たり、その身を十尺ほど吹き飛ばす。
フゥー、と息を吐き、
「強くて、可愛いって、ことです!」
「ッッ!!」
こんな攻勢で鬼を倒せるはずがない。
しかし、勝利条件が相手を殺すことでない以上、少なからず意味はある。
この調子でいけば、なんとか降参せずに夜明けまで時間を稼げるかもしれない。
そんな楽観的なことを考えていたのがいけなかったのだろうか。
静観していたもう一人の殺気が、ふと高まっているのを感じた。
「ふぅん・・・」
「お前、分かってるなぁぁ」
それまで様子を伺うだけだった兄の方が戦場に降り立つ。
兄妹二人が並び立った。
「「でも(なぁぁぁ)」」
「どんなに頑張っても、所詮は人間」
「みんなぶっ壊しちまえば、意味ないんだよなぁぁぁ!!」
妹の堕姫の操る帯が天まで立ち昇ったかと思えば、雷の如く降り注ぎ、全ての切り株が一瞬で叩き潰される。
兄の
一瞬の後、何もない更地だけが残る。
草むらに仕掛けた落とし穴も、踏めば作動する罠も、引っ掛かれば作動する罠も、根こそぎ吹き飛ばされてしまった。
「結構、苦労して作ったんですけどね。
破壊は一瞬ですか・・・」
しみじみと呟く。
切り口の角度や刺にも拘って作った、苦節3日間の苦労が水の泡だった。
その姿があまりに自然体だったからか、妓夫太郎が訝しげにこちらを見つめていた。
「お前、俺たちが怖くないのか・・・?」
目の前の上弦の鬼は、一体何が言いたいのだろうか。
たかが人間一人に、上弦の鬼が二人がかりだぞ!?
正直ふざけるなと言いたい。
今すぐにも逃げたいに決まっている!
「何を言っているんですか!?
怖いに決まってるじゃないですか!!」
「その割にはお前、全く怖がってないよなぁ?」
「ああ、そういうことですか・・・
毎日師匠に扱かれれば、すぐに分かりますよ?」
師匠は長年、相手の闘気を見てきたからか、相手の限界を見極めるのがとても上手い。
その上で、ぎりぎり限界の攻撃を容赦なく放ってくる。
怖いという感情で動きが鈍ることは、師匠の前では死に繋がる。
一般人が、
その感情が伝わったのか、妓夫太郎はひひっと笑う。
「へぇ。いいなあお前。いいなあ。
人間の癖に
妓夫太郎は、不気味に脈打つ鎌を両手に持ったまま、その爪先でボリボリと自分の頭を掻きむしりながら語る。
「ねたましいなあああ!
死んで代わってくれねえかなあぁあ!」
その爪は肌に深く食い込んで、赤い傷跡を残す。
よく見れば男の身体はあちこちが傷だらけで、常に血が滴っていた。
その勇姿を見て、堕姫は勝ち誇ったかのように胸を張る。
「アハハハハッ!
兄さんが本気になったら、アンタなんてすぐ死ぬことになるんだから!」
「・・・いや、殺したらダメだからなぁ?」
書ききれないけど、移動も含めるとそれなりに時間が経過しています。