未来の花   作:ZANGE

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第68話
Side: 慶吾


堕姫と妓夫太郎

月明かりの下、山林を泳ぐように4つの影が跳ぶ。

 

まるで軽業師(かるわざし)のように枝から枝へと移りながら。

まるで(むささび)のように木から木へと飛びながら。

 

眼下に生い茂る、地元民ですら近づかないような獣道を悠々と跳び越えていく。

 

 

たどり着いた先は、暗い森の奥地にある人工の広場。

木を切り倒し、草を刈り、土を耕す前の、多くの切り株が残った凸凹(でこぼこ)のステージ。

周囲を高い針葉樹に囲まれながら、そこだけは綺麗な月影(つきかげ)が差している。

 

草むらが風に揺れる音と、虫の音色が耳を撫でる。

周囲にいる獣たちはジッと息を潜め、暴風が通り過ぎるのを待っていた。

 

 

 

「遅いわね」

 

凶々しい花柄模様の四本の帯が、鞭のようにしなり、四方から襲い掛かる。

 

「こっちは人間なもので」

 

この日のために新調した特別性の手甲を当て、全ての帯を弾いていく。

手甲で弾き、軽やかな足捌きで避け、上半身を捻って躱し、帯を潜り抜ける。

 

「ふぅん。思ったよりも骨があるわね・・・」

 

左目に「上弦(じょうげん)」、右目に「(ろく)」と刻まれた美しい鬼。

身体に巻きついた花柄の帯がしゅるしゅると(ほど)けていく、とシミひとつない綺麗な女の肌があらわになる。

 

八本に増えた帯が周囲を威嚇するかのように、ゆら、ゆら、とうねっていた。

 

「そういうお姉さんは、つよかわです」

 

「はぁ?どういう意味よ」

 

先ほどの倍の数の帯が襲い掛かる。

十重二十重(とえはたえ)に迫り来る帯を手甲で弾き続けていく。

と、強い殺気を感じ、咄嗟にバク転で距離を取る。

見れば、折り重なった太い帯が直前までいた大地に突き刺さっていた。

 

絶え間ない攻撃が止まった、一瞬の隙。

 

『好機ーーー!!!』

 

無防備になった相手に向けて駆け出す。

 

重なり合った帯が一斉に相手の周囲へと戻り、防衛陣を敷く。

 

『今さら慌てて引っ込めても、遅いーーー!!』

 

暴れ回る帯を掻い潜り、相手の鳩尾に掌底を放つ。

その様を、相手の瞳がジロリと追っていた。

 

「遅い。あくびがーーー!?」

 

堕姫(だき)が後ろに跳んで避けようとした瞬間、ちょうど足元の切り株に当たったらしく、隙が生まれる。

 

「ハッ!!!」

 

体制が崩れた刹那に攻撃が当たり、その身を十尺ほど吹き飛ばす。

 

フゥー、と息を吐き、素流(そりゅう)の構えを取る。

 

「強くて、可愛いって、ことです!」

 

「ッッ!!」

 

こんな攻勢で鬼を倒せるはずがない。

しかし、勝利条件が相手を殺すことでない以上、少なからず意味はある。

 

この調子でいけば、なんとか降参せずに夜明けまで時間を稼げるかもしれない。

そんな楽観的なことを考えていたのがいけなかったのだろうか。

 

静観していたもう一人の殺気が、ふと高まっているのを感じた。

 

「ふぅん・・・」

「お前、分かってるなぁぁ」

 

それまで様子を伺うだけだった兄の方が戦場に降り立つ。

兄妹二人が並び立った。

 

「「でも(なぁぁぁ)」」

 

「どんなに頑張っても、所詮は人間」

「みんなぶっ壊しちまえば、意味ないんだよなぁぁぁ!!」

 

妹の堕姫の操る帯が天まで立ち昇ったかと思えば、雷の如く降り注ぎ、全ての切り株が一瞬で叩き潰される。

 

兄の妓夫太郎(ぎゅうたろう)が軽く腕を振るうと、血の斬撃が放たれ、全てのごみをを吹き飛ばす。

 

一瞬の後、何もない更地だけが残る。

草むらに仕掛けた落とし穴も、踏めば作動する罠も、引っ掛かれば作動する罠も、根こそぎ吹き飛ばされてしまった。

 

「結構、苦労して作ったんですけどね。

 破壊は一瞬ですか・・・」

 

しみじみと呟く。

切り口の角度や刺にも拘って作った、苦節3日間の苦労が水の泡だった。

 

その姿があまりに自然体だったからか、妓夫太郎が訝しげにこちらを見つめていた。

 

「お前、俺たちが怖くないのか・・・?」

 

目の前の上弦の鬼は、一体何が言いたいのだろうか。

たかが人間一人に、上弦の鬼が二人がかりだぞ!?

正直ふざけるなと言いたい。

今すぐにも逃げたいに決まっている!

 

「何を言っているんですか!?

 怖いに決まってるじゃないですか!!」

 

「その割にはお前、全く怖がってないよなぁ?」

 

「ああ、そういうことですか・・・

 毎日師匠に扱かれれば、すぐに分かりますよ?」

 

師匠は長年、相手の闘気を見てきたからか、相手の限界を見極めるのがとても上手い。

その上で、ぎりぎり限界の攻撃を容赦なく放ってくる。

 

怖いという感情で動きが鈍ることは、師匠の前では死に繋がる。

一般人が、逸般人(いっぱんじん)になるくらい容易い事だった。

 

その感情が伝わったのか、妓夫太郎はひひっと笑う。

 

「へぇ。いいなあお前。いいなあ。

 人間の癖に猗窩座(あかざ)さんに鍛えて貰えるなんて、ねたましいなああ!」

 

妓夫太郎は、不気味に脈打つ鎌を両手に持ったまま、その爪先でボリボリと自分の頭を掻きむしりながら語る。

 

「ねたましいなあああ!

 死んで代わってくれねえかなあぁあ!」

 

その爪は肌に深く食い込んで、赤い傷跡を残す。

よく見れば男の身体はあちこちが傷だらけで、常に血が滴っていた。

 

その勇姿を見て、堕姫は勝ち誇ったかのように胸を張る。

 

「アハハハハッ!

 兄さんが本気になったら、アンタなんてすぐ死ぬことになるんだから!」

 

 

 

「・・・いや、殺したらダメだからなぁ?」




書ききれないけど、移動も含めるとそれなりに時間が経過しています。
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