未来の花   作:ZANGE

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第71話
Side: 慶吾


技と術

「すうぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・」

 

思い切り息を吸い込み、丹田(たんでん)に力を込める。

 

肺から全身へと、呼吸が巡り廻る。

人の潜在能力から、更なる力を引き出す技。

 

一人の天才によって江戸時代に生み出され、その後も連綿と続く歴史の中、人の手によって研鑽を重ねてきた、基本五呼吸の型の一。

 

シィィィィィィィィィーーー!!!

 

風を斬り裂くような荒々しい呼気が口端から漏れる。

 

 

「よくもまあ、やってくれたわね・・・

 底は竹やりだらけの落とし穴。

 しかも、丁寧に藤の花(ふじのはな)の毒が塗られていて、

 解毒するまで動けなかったわ・・・

 もの凄く癪に触る。もの凄くね」

 

心に怒りを(たた)えながら、ゆらりと現れた堕姫(だき)の声が背後から響く。

 

よほど自信があるのか、怒りに我を忘れているのか。

わざわざ声をかけてくれるとは、随分とオレを侮っているらしい。

 

「お前は、アタシが殺す!」

 

血鬼術(けっきじゅつ)八重帯斬(やえおびぎ)り!!!』

 

全ての帯を四方八方に伸ばし、獲物をぐるりと取り囲む。

まるで竹で編まれた網かごのように縦横に編まれた帯を、中心にいる獲物に向かい一気に収縮させる。

 

 

その声が聞こえるかどうかの刹那、振り返ってつま先に力を込める。

 

パチン、と。

手甲(しゅこう)に仕込んでいた爪が飛び出し、両手の甲を覆う。

 

それは、緑色の爪。

猩々緋砂鉄(しょうじょうひさてつ)猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)を原料として打たれた、鬼を殺すための武器。

慶吾(けいご)を強く育てるため、とある風の呼吸の使い手が考え、刀鍛冶によって打たれた、無二の日輪刀(にちりんとう)

 

(かぜ)呼吸(こきゅう)(いち)(かた)ーーー」

 

塵旋風(じんせんぷう)()ぎ!!!』

 

呼吸を込めた莫大な力で大地を蹴り、螺旋状の小竜巻を纏いながら一直線に進む。

 

囲い込むように迫り来る帯は全て、竜巻に触れた瞬間、ズタズタに切り裂かれて弾け飛んでいった。

 

「えっ?」

 

怒りの表情から一転、顔に浮かんだのは戸惑いだろうか。

 

堕姫の目に、オレは映っているだろうか。

よしんば気付けたとしても、対応は間に合うまい。

先ほどまでとは異なる加速、この緩急の差こそが最大の武器。

 

しかしそこへ、凄まじい速度で割って入る影があった。

 

堕姫の首をあと一寸で斬り落とせる。

その寸前で刃が弾かれる。

 

ギィンーーー!!

 

弾いたのは凶々しい鎌。

 

妓夫太郎(ぎゅうたろう)

その技量、その強さは正に上弦(じょうげん)

 

「チッ」

 

距離を取り、更に深く、更に強く呼吸を体内で練り上げていく。

 

 

「おめぇは本当に頭が足りねぇなぁ。

 せっかく可愛い顔に生まれたんだからなぁ。

 顔は大事にしろよなぁ」

 

地面を削ぎ取るような威力の旋風を受け、堕姫はその身体に多くの切り傷を負っていた。

 

妓夫太郎がその傷を優しく包み込むように撫でると、触れたところから傷は消え、元の綺麗な肌へと戻っていく。

 

一通り綺麗にした後、妓夫太郎の首がゆっくりとこちらを向いた。

 

「お前、思ったよりもやるなぁあ。

 さすがは猗窩座(あかざ)さんの弟子だなぁ。

 妬ましいなああ、妬ましいなああ」

 

妓夫太郎の爪先が顔に深く食い込み、そのままボリボリと頭を掻きむしる。

 

「しかも、猗窩座さんに技を教わっておきながら、鬼狩(おにが)りの技も使えるとはなぁ。

 許せねぇなぁ。許せねぇなぁ。

 それだけ強けりゃ、もう手加減する必要もなさそうだなぁ・・・」

 

ボリボリと掻きむしった先から、赤い血が滲み出て滴ってゆく。

その傷だらけの顔が、ニヤリと怪しく歪んでいく。

 

「俺の可愛い妹を傷付けた報いは受けさせなきゃなぁ。

 取り立てるぜ、俺はなぁ・・・

 やられた分は必ず取り立てる。

 死ぬときグルグル巡らせろ。

 俺の名は、妓夫太郎だからなああ!」

 

『血鬼術・()血鎌(ちがま)!!』

 

血の付いた両腕を左右に振る。

流れ落ちる赤い血が斬撃となって、それぞれが意志を持つかのように弧を描いて舞い、恐ろしい速度で向かって来る。

 

『あの血の斬撃、自由に動かせるのか!?』

 

ガガガガガッ!!!

 

避けても戻って来そうな血鬼術を両手の爪で全て打ち落とし、足先で次の罠を発動させる。

 

案の定、血鬼術と同時に踏み込んで来た妓夫太郎が、目の前に鎌を振り下ろしていた。

 

「お前、少しはやるなぁあ。

 でも、意味ねぇんだよなぁ」

 

「それはどうかな?

 仕掛けはまだまだある」

 

妓夫太郎の左側から、オレの立つ場所を除いて一斉に矢が放たれる。

その射程範囲には、妓夫太郎だけでなく堕姫も入っている。

 

その矢を視認した瞬間、妓夫太郎は不思議なことに左目を瞑った。

 

『えっ?』

 

矢の飛んでくる方向の目を瞑る。

それは、襲い来る矢を無視する行為。

 

そのまま、両手の鎌が振り下ろされる!

 

ガキィィィ!

 

辛うじて鎌の柄を手甲で受け止めるも、凄まじい膂力(りょりょく)で押し込まれる。

 

「ぐッ」

 

右膝が地面に着く。

鎌の刃先が眼前に迫り、額に迫る。

寸前の差で、妓夫太郎の動きが止まった。

 

「チッ!藤の花か!?」

 

待ち望んだ好機に、集中力が極限まで高められる。

世界がゆっくりと回り始める。

 

妓夫太郎の声を耳にしながら、ゆらりと力を抜いて体を前に倒す。

 

何度も何度も頭の中で思い描き、考えなくても身体が動くほどに繰り返し修練を重ねた、詰将棋(つめしょうぎ)が如き戦闘の流れ。

罠と、呼吸と、技とが一体となった瞬間に生まれる、師匠を倒し得る可能性の一つ。

 

全ての感覚が一斉に開き、脳が恐ろしい速度で回転する。

 

悲鳴嶼(ひめじま)さんはこれを『反復動作(はんぷくどうさ)』と呼んでいた。

 

『風の呼吸・()ノ型、昇上砂塵嵐(しょうじょうさじんらん)

 

水が流れ落ちるように自然と身体が動き、低い姿勢のまま、砂塵が舞い上がるが如き牙が振われる。

 

「バカ、な・・・

 こんな、ガキに・・・」

 

ぽとりーーー

妓夫太郎の首が落ちる。

 

「あと一人!」




上弦の首にも届き得る攻撃。
ただし届くとは言っていない。
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