未来の花   作:ZANGE

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第75話
Side: 獪岳


幕間 成長と限界と
獪岳と鳴柱


『クソッ!

 なんだこの爺は!?』

 

左目の下に大きな傷痕を負い、長い口ひげをたくわえた白髪の爺。

全身の傷痕を見るからに、まともな経歴の持ち主ではなさそうだった。

 

「ほれほれ、どうした?

 片足のジジイ相手に、手も足も出んのか?」

 

相手が持つのは、ただの木の杖。

一方こちらは真剣を手にしている。

 

だというのに、爺が繰り出す普通の木の杖。

義足である右足の支えに使うような杖相手に、全く斬り込めない。

 

「チッ!元柱(もとはしら)だか何だか知らねえが!

 死んでもしらねえぞ、クソジジイ!!」

 

慣れない真剣を振りあげる。

『殺す』くらいの気概で挑まなければ勝てない。

 

「なんじゃそのへっぴり腰は!

 そんな太刀筋で(おに)が殺せるか!!」

 

たった一歩ーーー

踏み込んだ瞬間、気付いたら吹き飛ばされていた。

 

「がはッ!!」

 

勢いよく大地をゴロゴロと転がって、止まる。

 

「・・・・・・」

 

この隻脚(せっきゃく)の爺は古強者だと、認めざるを得ない。

 

地面を握りしめながら立ち上がる。

口の中の砂と一緒に唾を吐くと、赤い血が混じっていた。

 

『懐かしいな・・・』

 

猗窩座(あかざ)さんがいなくなってから、こういった組手は久し振りだった。

あの人間離れした(しご)きに比べれば、どんな痛みにだって耐えられる。

 

そもそも爺が本気なら、とっくに俺は動けなくなっている筈だ。

 

「舐めやがって・・・」

 

しかし闇雲に立ち向かって勝てる相手じゃない。

何か手を考えなければ・・・

 

『そう言えば、慶吾(けいご)のヤツが言っていたな。

 格上相手には攻撃の手数を増やせと』

 

側に落ちていた真剣を左手(ひだりて)で拾い、逆手に持つ。

 

『そもそも、こんな握ったこともない刀を頼りにするからいけないんだ。

 俺は俺のやり方で、この爺を倒す!』

 

 

猗窩座さん達の戦いに付いていけない時、自分に唯一できることは攻撃ではなく、注意を逸らすことだった。

 

どんな者も注意を逸らさられれば、力が緩む間が生じる。

 

そして、昔から手癖が良いとは言えない俺は、身近にある物を思い通りに投げ当てるのが得意だった。

 

 

逆手に持った刀を投げ槍のように大きく振りかぶりーーー

肩、腕、手首へと力を流すようにして、思い切りぶん投げた。

 

すぐさま刀を追いかけるように走り込む。

 

 

『何をしてでも最後に俺が勝つ!

 刀を切り払った隙に、砂をぶつけて怯ませ、その義足をへし折ってやる!』

 

立ち上がる際に右手に握り込んでいた砂。

それを水平に振りかぶった瞬間ーーー

 

それまで温厚だった爺が、烈火の如く爆発した。

 

「この馬鹿者!!

 刀を投げ捨てるとは何事じゃあ!!!」

 

視界一面、黄土色の地に白い鱗紋様(うろこもんよう)の羽織が翻った。

 

『!!?』

 

 

「戦いの場においては、予期せぬこと、初めて遭遇する事態全てを即座に理解し、対処しなければならない」

 

以前、猗窩座さんが俺たちに教えてくれたことだ。

 

理解できるし、納得も共感もできる話だった。

だからこそ、いざ戦いの場に立てば、覚悟と集中力を持って挑むのは当たり前のこと。

 

 

なのに、全く反応できなかった。

気付けば、投げたはずの刀を手にした爺が、背後に立っていた。

 

「は?」

 

ただ速いだけなら、猗窩座さんの姿を散々見てきた。

たとえ動きに追従することは叶わなくても、視界の隅で動いたと感じた瞬間に身体が反応するくらいのことはやってきたつもりだ。

 

だが、この爺の動きは、異常だった。

最高速度に至る加速が普通じゃなかった。

 

ゼロが瞬間的にイチになるかのようなーーー

鬼でもない、生身の人間が出していい速度じゃない。

 

「愚か者め。刀を捨てるな」

 

刀の柄頭で後頭部を殴られ、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

「南無・・・」

 

行冥(ぎょうめい)!!

 お前が推薦してきたヤツは、とんだじゃじゃ馬じゃぞ!」

 

「・・・元鳴柱(なりばしら)から見て、どうですか?

 この子は、芽はありそうですか?」

 

「ふん、どうだかな・・・

 刀を思い切りぶん投げるヤツなんぞ、

 剣士としては落第もいいところじゃ!」

 

「・・・・・・」

 

「じゃが」と前置いて、桑島(くわじま)慈吾朗(じごろう)は続けた。

 

「この小僧は、儂の動きが見えていた。

 真面目に修行すれば、ひょっとすると化けるかもしれんな・・・」

 

「では・・・?」

 

「まぁ、よかろう。

 望み通り、明日から修行をつけてやる」

 

「ありがとうございます、桑島様」

 

「ふん、礼などいらん。

 儂は鬼殺(きさつ)の剣士に相応しいか試しただけじゃ」

 

悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)が、その大きな背中で倒れ伏す獪岳(かいがく)を背負う。

 

「俺にしてやれるのは、ここまでだ。

 あとはお前の努力次第・・・

 強くなれ、獪岳・・・」

 

「なんじゃ?

 小僧とは知り合いじゃったのか?」

 

「ええ・・・

 昔、寺で身寄りのない子供たちを育てていました。

 血の繋がりこそありませんでしたが、仲良く、家族のように暮らしていました・・・あの夜、鬼がやって来るまでは。

 獪岳は、その時の生き残りです」

 

「そうじゃったか・・・

 同じ鬼殺の道を歩むとは、縁じゃのう」

 

「・・・自分で決めたことです」

 

(はしら)元柱(もとはしら)

二人は近くにある小屋へと向かい、しばし言葉を交わし合った。




食べかけの桃を投げて当てるのって、重心が安定しないから難易度高いと思うんですよね。
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