Side: 悲鳴嶼
そこへ辿り着いた時、既に辺りには血の匂いが漂っていた。
『遅かったか!?
いや、まだ小さな気配を感じる!』
彼は
おそらく油断していたのだろう。
鎖で繋がれた鉄球を放り投げ、鬼の頭部を背後から容赦なく潰した。
ボロボロと消えゆく鬼の気配の先。
今まさに鬼の手にかかる寸前だったのだろう。
年端も行かない少女が、幼い少女を庇うように抱きしめていた。
おそらくは姉妹だろうか。
感じられる気配がよく似ていた。
そして周囲に死者の臭いが二つ。
おそらくは少女らの両親のものだろう。
咽せ返るような血の匂いのする室内で、二人は震え、泣いていた。
「南無・・・」
『少女らの目に、私はどう写っているのか。
化け物を倒した化け物だろうかーーー
いや、過ぎたことを蒸し返すのはやめよう』
恐怖、悲しみ、そして憎悪ーーー
愛する者を理不尽に奪われた憎しみが消えることはない。
しかしそれでも尚、この少女らもまたいつの日か、今日助かったことを喜べる日が来るといいのだが。
ただ生きるために必死だったあの日から、
「ひめじまさーん!
おきゃくさまだよーーー!!」
沙代は悲鳴嶼さんともっとたくさん話すために、岩柱の屋敷に住み込みで、家の手伝いなどをこなしていた。
「分かった。今行こう」
起きてしまった過去が変わるわけではない。
しかし、少し前までは考えられなかったような安息感を心のどこかに感じながら、悲鳴嶼は玄関へと向かった。
「突然押しかけた無礼を、お許しください」
助けたはずの少女たち。
隠によって親戚の下へ送られたはずの二人が、目の前に立っていた。
あれから半月は経っている。
何故今更になって自分を訪ねてきたのか
「私は
こちらは妹のしのぶです」
「何故、ここに?」
「場所は
悲鳴嶼様には、鬼から助けて頂いたお礼もろくにしておらず、申し訳ございませんでした。
私たちを、妹を助けて頂き、本当にありがとうございました」
「姉さんを助けてくれて、ありがとうございました」
妹の方も、姉に続いてお礼を述べる。
「両親の葬儀も無事、終わりました。
遺体の損傷も少なく、納棺できました。
全ては悲鳴嶼様のお陰です。
本当にありがとうございました」
姉妹の二人からは、お互いを思い遣る心と、両親への愛惜が、言葉の端々から深く感じられた。
『しかし、それを伝えるために来たにしては・・・』
妹の方からは、緊張の奥に隠しきれない憎しみの心を感じる。
姉からも悲しみと決意の心を感じた。
悲鳴嶼行冥は今の自分が抱く感情を、言葉で表す術を持たなかった。
おそらくは、この後に語られるであろう姉妹の話を少しでも先延ばしにしたかったのかもしれない。
「わざわざ遠いところをよく来られた。
お茶くらいしかないが、上がっていくといい」
「あのーーー」
「沙代、二人を客間に案内してくれ」
「はーい!」
何か言いかけていた姉の言葉を遮るように、隣に立っていた沙代に案内を任せる。
私に呼ばれたことが嬉しいのか、沙代は子供らしい笑顔を向けてくる。
「私は茶を用意してくる。
沙代にはまだ早いのでな」
普段の屋敷管理は隠に任せている。
しかし沙代がいる時は、昔のように自分で茶を淹れることもあった。
「カナエさん、しのぶさん。
こっちです」
少女たちは、この自分たちよりも小さな子の利発さに感心しながら、カナエは笑顔で、しのぶも表情を和らげながら着いていく。
その姿を見ながら、悲鳴嶼は思う。
『やはり、沙代に隠は似合わないな。
もし鬼が皆、
いや、これは考えても詮ないことか』
悲鳴嶼「ひょっとして私の日輪刀は、少し変わっているのだろうか・・・?」
槇寿郎「問題ない(始まりの呼吸の剣士以外は、皆同じだ)」